GTMF2017 ノンゲーム分野から学ぶUE4の活用テクニック

大阪で6月30日に開催された「GTMF 2017」のセッションの中から、Unreal Engine 4の開発元Epic Games Japanのサポートエンジニアの岡田和也氏の講演をリポート。ノンゲーム分野でのUE4事例がたくさん紹介され、映像、建築、教育、その他さまざまな分野でUE4は利用されている。

2017年6月30日,ゲーム向けのミドルウェアをツールをテーマにした「Game Tools & Middleware Forum 2017」(以下、GTMF2017)が大阪で開催された(東京会場は7月14日)。本稿ではUnreal Engine 4(以下UE4)の開発元でもあるEpic Games Japanのサポートエンジニアの岡田和也氏が講演した「ノンゲーム分野から学ぶUE4の活用テクニック」についてを取り上げる。

 

活躍の幅が広がるUE4のノンゲーム事例

まずEpic Games Japanのサポートエンジニアである岡田和也氏は自他共に認めるVR好きとしても知られているが、今回はVRだけでなく、実際に活用されているノンゲーム分野でのUE4事例を沢山語ってくれた。それらの活用分野はとても広く、映像、建築、教育、その他さまざまな分野でUE4は利用されているという。

まずは「なぜノンゲーム分野でゲームエンジンが使われ始めたのか?」というところに着目し、実際にその利用については、「ゲーム開発で培われてきた機能・ノウハウの需要」にあるという。特に注目されるのは以下の三点だ。

・「高品質なグラフィック」と「製作効率の高さ」の両立
・インタラクティブ性の高いコンテンツの製作
・コンテンツ・リソースの応用範囲の広さ

 これらの点は特にゲーム分野に限らず、さまざまな分野で活用できる要素がある。そこに注目されてきており、実際にUE4を使う企業が増えてきているとのこと。

 

映像分野におけるさまざまな課題の解消

とりわけノンゲーム分野でも、特に映像系の分野において最大の課題となっていたのが、膨大なレンダリング時間だ。たった1分間の動画をレンダリングするだけでもケースによっては5日もかかる。

 更に大きな問題となるのが、イテレーション性が低いワークフローだ。ここでは主にプリレンダリングされた映像を作る際のワークフローについてを解説し、基本的に一方通行であるプリレンダリングのワークフローは戻ることが許されない。プリレンダリングされた映像はAfter Effectsなどの映像編集ソフトに持っていき、そこで最終結果を出力するが、もし後から演出に問題があっても戻って更にやり直したいといったイテレーションを行うことができない。

これはゲームにおいても同様ではあるが、映像においても試行錯誤の回数がそのままクオリティに繋がることは多い。つまりイテレーション(試行錯誤のしやすさ)が高ければ高いほど、映像のクオリティを更に引き上げることができる。ここにゲームエンジン導入による最大のメリットがあるというわけだ。

しかしゲームエンジンはあくまでもリアルタイム映像であり、当然プリレンダリングとは品質の差に大きな違いがある。これは当然そのように思われてきたのだが、今年のGDF2017(Game Developers Conference)でEpic Gamesの基調講演において、映画「Rogue One:A Star Wars Story」において、実際にUE4を使ってレンダリングされたものが映像の一部に利用されているという発表があった。

ほぼリアルタイムとプリレンダリングの映像で見分けがつかないクオリティとなっており、ゲーム業界だけではなく、映像業界の分野にも衝撃を与えたことは記憶に新しい。まだまだ多くの課題はあるものの、UE4が実際にAAAクラスの映画でも堪えうる品質であるという証明となった。

そして岡田氏は次に、イテレーション性の高いワークフローについてを語った。プリレンダリングのワークフローとは違い、一度通った工程も戻ることが比較的低コストで、更に平行作業もしやすい。そしてほぼ最終ルックに近い形で確認できるというのも大きい。After Effectsのような映像編集ソフトを通さなくてもポストエフェクトなどの効果により、綺麗な演出やエフェクトもつけられるからである。

更にリアルタイムに合成が可能というところを活かし、役者がパフォーマンスキャプチャなどの道具を用いて、その場で演技した結果をそのまま最終ルックに近い状態で確認し、監督が更に細かい演出をつけやすいというところにも大きなメリットがある。

更に岡田氏はインタラクティブ性の需要についてを語る。一方的に見せるだけのコンテンツでは反応が薄く、近年の傾向ではユーザーが自由にコンテンツを操作・カスタマイズしたり、自分だけの体験を好んだり、SNSなどで拡散させることが重要になってきているという。

特にインタラクティブ性というのはゲームにおいて最も得意とする所で、リアルタイムに描画される、入力に対しての反応がある、バリエーションの豊かさなど、ゲームエンジンを使うことで比較的楽にそれらの機能を実装できるというところに注目されている。

更にゲームエンジンを使うことで、そのゲームエンジンが対応しているデバイスにコンテンツを広げたり、あるコンテンツで製作したリソースを別のコンテンツで使いまわせることが可能となり、「リソースの最大活用+作業コスト」の削減が可能というところにも非常に大きな魅力がある岡田氏は語った。

 

ノンゲーム分野におけるUE4の利点

続いて岡田氏はノンゲーム分野におけるUE4の利点についてを語る。例えば高品質なグラフィックを実現する支援する仕組みについて。Epic Gamesは常に最先端技術・ノウハウをUE4に搭載し、頻繁なアップデートでユーザーに提供を行っている。UE4.16ではボリュームフォグやイメージベースのFFTブルームといった高品質なレンダリング機能が追加された。

更にEpic Gamesはハイクオリティなサンプルを無料配布することで、始めてUE4を使うようなユーザーでもそれら高品質な映像がどうやって実現されているのか、理解できるのが大きいという。また、UE4はとりわけフォトリアルな映像が多いと思われがちだが、ノンフォトリアルの事例も増えてきており、UE4の大きな可能性を感じさせられるという。先日行われた、E3 2017にて発表された「DRAGON BALL FighterZ」は国内外でもとりわけ大きな話題となっていた。

更に岡田氏は「非エンジニアの作業を支援する強力な機能」について解説した。ゲームエンジンを比較する上で重要なのはグラフィック性能だけではなく、「どれだけ効率的」かつ「どれだけ速く」作業が進められるかが重要であり、特にノンゲーム分野では、エンジニアがいないケースも多い。プランナー(ゲームデザイナー)、アーティストが「どれだけ自由に」作業できるかが重要と語る。

UE4の理念として「プランナー・アーティストに力」というものがあり、非エンジニアが自分のアイディアを自分で実装できる環境を提供している。またエンジニアは複雑な作業や、チーム全体の作業効率向上に専念できるため、よりクオリティを引き上げるための作業に集中できるメリットもある。

非エンジニアの作業を支援する強力な機能の代表として、UE4の代表的な機能のひとつである、ノードベーススクリプトシステムである「ブループリント」や、同じくノードベースでシェーダー開発可能な「マテリアルエディター」、リアルタイムのカットシーン編集ツールである「シーケンサー」などを挙げていた。

次に岡田氏はソースコード無料公開によるメリットを解説。もし何か大きな不具合が起こった場合でも、開発元であるEpic Gamesの力を借りなくとも、すぐに調査・修正できるということが大きいという。そして世界中のユーザーやプロジェクトからのフィードバックにより、それらを取り込むことで更にUE4自体が進化していっているという。今のUE4は世界中のユーザーにより支えられてこそ、ここまで進化できたということだ。

そしてさまざまなミドルウェアやDCCツールとの連携についても語ってくれた。UE4は既に沢山のユーザーが利用しているミドルウェアやDCCツールと連携することにより、更に活用範囲を広げ、これまでの経験・ノウハウを無駄にしないという。

 その一つの例として、現在開発中のMayaライブリンクプラグインについてを解説してくれた。Mayaのアニメーションデータを編集しながら、そのままUE4のエディタにストリーミングしてくれる機能で、これを利用することで、Mayaで調整をしながら、UE4でリアルタイムに修正・反映が可能となる。本来であれば、UE4で確認するためにはMayaからエクスポート→UE4でインポートといった手順が必要だった。この部分がなくなることでイテレーションがより高速になる。この機能はUE4.17で実験的脳としてリリースされ、今後はMaya以外のツールでも利用できるようになり、モーションキャプチャといったシステムとも連携できるようになるという。

 

ノンゲーム分野における国内外のUE4活用事例

ここからは実際にUE4が活用されているノンゲーム分野における国内外のUE4活用事例についてを解説してくれた。現在UE4はとても広い分野で利用されており、現在判明しているだけでも以下のようなジャンル・分野で採用されているという。

 岡田氏は早速、プラモデルやフィギュアなどでも有名なコトブキヤの新プラモデルシリーズである、「ヘキサギア」シリーズのプロモーションムービーにてUE4が実際に活用された事例を紹介した。

ヘキサギア プロモーションムービー MASTER BOOT RECORD 破壊篇 コトブキヤ

このプロジェクトは比較的低予算かつ、約二ヶ月半弱というとてもタイトなスケジュールの中で、ほぼ全員がUE4を使うのが始めてという状態からスタートしているという。しかもUE4だけではなく、Substanceといったツールも使い、更にクオリティアップまで行われている。

通常ではこのような短期間で複数のツールを覚えながら製作を行うのは非常に厳しいはずだが、UE4の利点・特性を活かしたワークフローを用いて、高速なレンダリングによる作業時間を確保したという。またこの際に4K素材の書き出しを行い、通常のプリレンダリングでは考えられないような速度で映像が作られたとのことだ。

実際にさまざまなミドルウェアとの連携による作業効率・速度の向上が行われており、UE4でレンダリングした素材をカスタムレンダリングパスによる書き出しで、複数の素材を出力し、After Effectsなどのツール上で合成(Composite)が行われているという。

これらのツールに適したワークフローにより、大幅に作業時間を短縮できたという。わずか二ヶ月半程度のという短い期間でもアニメーションや背景のレイアウトに多くの時間が避けたことで最終的な映像のクオリティに大きく影響しているらしいとのことだ。

更に次の事例はNinja Theoryで開発中のゲームである「Hellblade: Senua’s Sacrifice」のリアルタイムパフォーマンスキャプチャについて解説された。リアルタイムパフォーマンスキャプチャはその名前の通り、役者が演技した動きや表情といった内容がリアルタイムにUE4上へと反映され、その内容を即時確認しながら修正を行うことが可能である。

次にリアルタイムにモーションを作成するための支援プラグインである、「IKinema」についてを解説。このプラグインはUE4用のフルボディIKプラグインで、ベースのアニメーションの動きに力を加えることで、全身に自然な動きを加えることができる。画像では実際のアニメーションが白の状態で、黄色の部分はフルボディIKにより自然に生成された部分となる。

こういった自然な動きを生成するプラグインを利用することで、高品質なアニメーション作成時間を1/5にまで短縮できるという。更にその制御用ビヘイビアも10分以内で作成可能だということを考えると如何にとてつもない速さで作成可能かわかるだろう。

そして次は岡田氏が大好きというVRについて。先日行われた、Appleの開発者向けイベントである、WWDC 2017にて発表されたMac VRについてや、その他の360度ステレオスコピック画像・動画作成プラグインについて語られた。Mac VRはAppleとも協力しながら、新しいMacのレンダリングAPIである、Metal2にも対応し、更にGitHubで公開されているソースを使えば既に利用可能だという。実際にリリースされるUE4に入るのは4.18を予定しているとのこと。

更にVRの他にARやMRの対応状況についても解説してくれた。これらの機能もAppleが提供する新しいAR用のAPIである、ARKitも既に対応しており、こちらもGitHubから既に利用可能となっている。UE4.17のリリースで実際に使えるようになるとのこと。また4.17以降ではGoogle TangoといったAR/MRフレームワークにも対応し、更に対応範囲を押し広げていくという。

この後は自動車メーカーとしても有名なChevroletとのコラボにより実現した「The Human Race」についての解説も行われた。この映像は実写との合成で、実際にリアルタイムに合成を行い、Google TangoのAR技術を用いてその場で映像を反映させるといったことまで実現している。

The Human Race: Behind The Scenes | Project Spotlight | Unreal Engine

これらは技術としても非常に面白いが、実際にこれらの技術をユーザーが使うUE4でも実際に利用できるようになるというのがUE4の凄いところだ。このようにオープンに利用できるようにすることで、実際に沢山のプロダクトを生み出すという成果を出すことができる。

その後には建築業界における活用例やTV業界における活用例が紹介された後にユニークな活用例として、昨年TGS 2016で発表されたバンタイナムコエンターテインメントの「Project LayereD」が紹介された。

このアニメーション映像は当然ながらUE4が利用されているのだが、面白い試みとして、プロシージャルに背景モブキャラクターを配置したり、映像作品であるのにもかかわらず、モブの制御にAIでの制御が実装されているというのだ。未だかつてアニメーション映像の動きをAIで制御しているというのは筆者が知る限りでは聞いたことがない。

とりわけ面白い内容であったのだが、この「Project LayereD」の詳細に関しては、10/8(日)に開催される予定の「Unreal Fest East’17」で講演して頂けることになったとのこと。※スライドでは「West」になっておりますが、正しくは「East」とのこと。詳細が気になる方はぜひ「Unreal Fest East’17」に足を運んでもらいたい。

更に岡田氏はUE4を使ったAIの学習システムについてを解説してくれた。これは自動駐車システムを、UE4により作成された映像で、AIに自動で駐車をさせ、学習を行わせる。これは最近流行りのディープラーニングによる学習機能を現実を模した空間でUE4で作成することで、より低コストに多くの学習を行わせることが可能だという。

最後に岡田氏が最後にどうしても紹介したかったというのが、御神輿パーツセレクトシミュレータというもので、これを利用することで御神輿の営業コストを大きく引き下げることが可能であるという。これまではデジタルな紙台帳と写真を使って商談を行っていたところを、このパーツセレクトシミュレータを使うことでスムーズにやりとりができるようになったという。

こういった実にユニークなノンゲーム事例がとても増えており、UE4の活用範囲の広さを大きく知ることができる講演内容となった。Epic Games Japanでも当然ゲームのサポートがメインとなるが、ノンゲームの場合ではエンタープライズライセンスという特殊なライセンスを利用してもらうことで、有償の技術サポートを受けられるようになるという。

エンタープライズライセンスは一般的なゲームのカスタムライセンスに比べると、とてもお得な価格になっているとのこと。ノンゲームによるUE4の利用はロイヤリティもなく、完全に無料で利用することが可能だが、Epic Gamesによる技術サポートはない。もしノンゲーム分野でEpic Gamesによる技術サポートが必要であれば選択してみることも悪くないのではないだろうか。

 

GTMF
GTMF(Game Tools & Middleware Forum)はアプリ・ゲーム開発・運営に関わるソリューションが一堂に会するイベント。2003年にスタートし、今年で15年目。大阪会場は2017年6月30日、東京会場(事前登録受付中)は7月14日に開催。

 

Masahiko Nakamura
Masahiko Nakamura

Unreal EngineとVRを専門とするゲーム制作集団、Indie-us Games代表&クリエイター。

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