「体制は企業、ノリは個人製作寄り」ジェムドロップ株式会社代表取締役・北尾雄一郎氏。GTMF 2016 Meet-Ups
GTMF 2016大阪会場Meet-Ups特集第7弾は、ジェムドロップ株式会社代表取締役・北尾雄一郎氏にフォーカス。とにかく会場では多くの方に声をかけられていた北尾氏。人柄の良さが人を集めるのだろう。もちろんGTMF 2016 東京会場でも北尾氏はプレゼンをおこなう。
NO SOUND, NO GAME.
ジェムドロップ株式会社は、VR・家庭用・スマホ・アーケードと幅広いゲーム開発を手がけており、代表作はスマートフォン向けのハイスピードアクションパズル『ポポロコ -Poppoloco-』と、7月20日にはSteamでも発売される『いけにえと雪のセツナ』など。
代表取締役・北尾雄一郎氏はプレゼンの冒頭で、ジェムドロップ株式会社にはジャンルにこだわらないいろいろな人たちが集まっていることをアピールし、特殊な方法で給料が変動することや、プログラマーもデザイナーも関係なく毎日ウェルカムボードを手描きする、といった風変わりな制度なども紹介した。
つづいて北尾氏は、ジェムドロップは自社開発も受託開発もやっているが「面白そうだったらすぐに手をつける」という特徴を述べた。また、開発にはさまざまなミドルウェアを使用しているが、他社と差をつけるためにカスタムしているという。
『いけにえと雪のセツナ』に関しては、初顔合わせのメンバーが多かったためミドルウェアを導入し、開発には「Unity」を、BGM・SE・ボイスなどサウンド全般には「CRI ADX2」を採用したという。また、ほかのツールにおいても外部の方でも扱いやすい物を選んだそうだ。
「NO SOUND, NO GAME.」と題されたプレゼンでは「CRI ADX2」についての詳細も語られたので、興味のある方はぜひ7月15日の東京会場に足を運んでほしい。ちなみに、株式会社CRI・ミドルウェアはブース出展あり。
[パートナー企業: 株式会社CRI・ミドルウェア]
プレゼン前、優しい笑顔で会場内を歩いていた北尾氏にお願いし、VRのことや、ジェムドロップ株式会社についてのお話をうかがった。
「面白そうじゃん」っていう感覚を大切に
北尾雄一郎氏:
開発がメインですけど、自社パブリッシングもやっていて、いま一番熱いのはPSVRにローンチで出そうとしている『ヘディング工場』です。去年の東京ゲームショウでOculusを使ってインディーゲームコーナーに出していたんですけど。
VRもARも手を付けてみないとわからないなということがあって、とりあえず手を付けたと。当時は実験作が多かったじゃないですか。とくに日本はそうなんですけど、3Dの美少女を出してみんなが下から見て――みたいな。それだけだとつまらないので、ちゃんとゲーム性を持ったものを作ろうということで、飛んでくる球をヘディングで返して、奥にお菓子みたいなものが並んでいて、それを球で吹き飛ばす。全て物理挙動で動いているので、奥のほうにキャラメルとかお菓子がたまっていって――コインプッシャーみたいなものなんです。奥からお菓子がガーッと流れ落ちてきて、手前に穴がパカッと開いて、そこに物が入ると得点になるという。手前に物が飛んでくるので、VRならではの手前に物が飛んでくる感じがものすごいです。
――そういえばVRは、最初は「こんなのができたらいいな」というノリでデモのようなものが目立ちましたよね。
そうなんです。現実を再現するというのをみんなやるんですよ。それはほっといてもみんなやるだろうと(笑)でも、自分自身がコインプッシャーの大きさになって、コインが奥から降ってくるなんて体験、現実にはできないじゃないですか。しかもゲーム性もあるし、私の苦手なヘディングも本作なら上手に出来る。最高です(笑)去年出して好評だったので、それをベースにゲームっぽくしてPSVRに持っていきました。けっこう変なゲームです(笑)
――どんなゲームになるのか楽しみです。そういえばジェムドロップさんの制作実績のなかにアーケードがありますよね?
そうですね。アーケードだと『ガンスリンガー ストラトス2』と『ガンスリンガー ストラトス3』ですね。プログラムの一部を担当させて頂いています。
――幅広いですね。
あとはスマホだとか。面白そうだと思ったらやる感じですね。体制も企業ですしお金も企業としてまわるようにしてあるんですけど、ノリは完全に個人製作寄りです。
個人製作のノリとしては、とある同人サークルさんとけっこうお付き合い があるのですが 、メンバーに元同僚が居るということもあって、彼らの考え方には賛同できる点も多いですし、実際に彼らの作品制作の一部をお手伝いさせて頂いています。 普通そういうことって企業はやらないですよね。でもぼくらは「面白そうじゃん」っていう感覚で首を突っ込んでやるっていう。ある意味むちゃくちゃな(笑)変な会社です。
商業をやりつつ、インディーという言葉を使っていいのかわからないですけど個人製作気味なところとか、普通の会社だとリスクが高いとかお金になりにくいと言われる物にも手を付けたりしています。
――みなさん独立してインディーでやりたいと思っても、実際はインディーで食べていくって難しいじゃないですか。でもジェムドロップさんはうまくやってますよね。その秘訣って何ですか?
なんでしょうねえ……とりあえず悩んだら手を付けるっていうのと、あとはお金とか人の動かし方っていうのはバランスだと思うんですよ。いまのところ企業規模も20名ちょっとなんですけど、僕がコントロールしてるんですよ。だからバランスを取りやすいのかなと。あとは言い方は悪いですけど、企業としてお金をかせぐチームと、インディーっぽいことをやるチームが分かれて空気が悪くなったりするんですけど、そうならないように自社タイトルとかを関係のない人に手伝ってもらったりとか、定期的にレビューとかをやってもらったり工夫しています。
――ジェムドロップさんのような会社にしたいと思っている人は多そうです。
『いけにえと雪のセツナ』も実はインディー寄りっていうか、作っている人たちもいろんな会社の人やフリーランスの方が参加していて、面白いことをしたい人が集まっていました。 会社としての体を守りつつも面白いことをやるっていうのを、極力気を付けて案件を抽出しています。
――ジェムドロップさんがゲーム開発で一番得意とするプラットフォームは何ですか?
家庭用が一番得意です。僕らベースが家庭用ゲームなので。スマホも一時期やってましたけども、運営タイトルとかになるとできないんですよ。運営がけっこう難しい。自社で運営するには人数も少ないですし、外部の会社さんに委託するにもレスポンスが悪くなる。サービスとして考えたときにスピード感が重視されると思うので、自社に運営部隊が居ないとかえってクライアントさんにご迷惑がかかると思っていますので。
――なるほど。そしてこれからはVRですか。
そうですね。VRはとにかく――100%の全力とまでは行きませんが、社内でもかなりのリソースを割いて取り組んでいます。
急激には普及しないとは思います。むかしゲームセンターにゲーム機があって、家には何もなかった。ゲーセンに行って100円を入れて遊んで、それがあるタイミングでポンッと家庭にファミコンとかが入ってきて――そんな流れと同じようになるんじゃないですかね。VR機器も小さくなったり、ARになったりしていくと思っているので、その流れを見越して今すぐ全力でいくというわけではないです。ただ、今のうちに参入してノウハウとかをためておかないと、ARとかもっと進化したVRとかが出たときに困りますよね。
最初にOculusをかぶったときに、良い意味で「これはちょっと次元が違う」と、普通のゲーム機では体験できないよねというところを個人で感じたので、これはとっとと手を付けようと。純粋に作り手としてエンジニアとしての感覚です。
僕らとしては家庭用で伸びていってほしいですが、しばらくは家庭用というよりも展示会で使ったりだとか、施設に行ってかぶったりとかがメインになるのかもなとも思っています。
課題は――たとえば男性は当時からゲームセンターに行きましたよね。でも暗いとか不良っぽいとかいう問題があったけど、それが徐々に女性も入れる感じになっていきました。VRもたぶん一緒で、女性って髪とかメイクとかを気にするのでかぶらないんですよね。いま徐々にイベント会場などで「VRニンジャマスク」とか出てると思うんですけど、そういう女性でもかぶりやすいようなテクノロジーとか、オシャレな感じが出てくれば、たぶんブレイクするんじゃないかなと思います。もちろんコンテンツが楽しいのは最低条件ですが。
エロでブレイクすればいいじゃんって声もあるけど、エロにも課題があって、実写のVRって360度カメラで撮るじゃないですか。そうするとですね……こことか見れないんですよ。
――ああ、たしかに下から見えないですね。
そうなんですよ。リアルタイムだと見れるんですけど。じゃぁエロで何がしたいの?ってなったときに、リアルタイムじゃないとダメだよねってなりますよね。そういう意味では、まだAVの延長線上ぐらいにしかならなくて。
――3Dで描かれたものしか無理ですね。実写版でそういうことができないと面白くないなあ。
そういう課題もあるので、そう簡単に「実写エロでGOGO」とはならないと思うんですよ。リアルタイムCGのエロには未来があると思うのですが。
――とても大きな課題ですね。
まあ、その場所にカメラを置いてスイッチすればいい話なんですけど、そういうものじゃないだろうと(笑)
――ジェムドロップさんはVR案件も受けられているんですか?
相談はきます。受託でやってるのもあります。
――やっぱりVR案件は増えてますか。
すこしずつですけど増えてますね。
――ちなみに、ゲームとノンゲームどちらのほうが多いですか?
相談はノンゲームのほうが多いですね。ノンゲームだとカメラで撮った系が多くて、リアルタイムはあまり相談はないですね。リアルタイム・ノンゲームもやってはいますけど。弊社の名刺に「Game Studios」と付けているように、ゲーム要素や遊びのインタラクティブ性がないと基本的にはお請けしていません。やっぱりインタラクティブ性がないと、VRって意味がないと思っているので。なのでゲーム要素を入れさせてもらったりしています。
――ありがとうございました。『ヘディング工場』期待しています。
『ヘディング工場』は、いろいろな意味で一風変わったVRゲームになっています。不思議な世界観なども含めて楽しみにして頂ければと思います。9月の東京ゲームショウにも試遊を出しますので是非ご期待ください。
ありがとうございました。
[聞き手: Shinji Sawa]
[写真: Mon Gonzalez]
GTMF(Game Tools & Middleware Forum)はアプリ・ゲーム開発・運営に関わるソリューションが一堂に会するイベント。2003年にスタートし、今年で14年目。大阪会場は2016年7月6日、東京会場(事前登録受付中)は7月15日に開催。