「入口は楽しく、経営は堅く」株式会社アメージング受託開発部 部長・村本シュウイチ氏。GTMF 2016 Meet-Ups
引き続きGTMF 2016大阪会場Meet-Ups特集をお届けする。第9弾は株式会社アメージング受託開発部 部長・村本シュウイチ氏にフォーカス。GTMF東京会場は現在開催中。
アメージングのひみつ ―中小デベロッパーの生存戦略―
株式会社アメージング受託開発部 部長・村本シュウイチ氏は、「2Dグラフィック制作」「家庭用ゲーム開発とモバイルアプリ開発・運営のノウハウ」が自社の強みであると説明。そして、来年で15周年をむかえるアメージングの創業期から現在までの歩みをスライドで紹介した。
時代にあわせた新たな事業展開を打ち出し、リーマンショックも乗り越えたアメージングは、2009年のmixi・GREE・モバゲータウン(mobage)のオープンプラットフォーム化をきっかけに、第2の創業としてソーシャルゲーム会社へと生まれ変わったそうだ。
2015年にリリースされた『ビーナスイレブンびびっど!』は、シリーズ累計で160万ダウンロードを突破しているそうで、事前登録サイトでも1位を獲得。ノウハウが活きたヒット作となったようだ。なお『ビーナスイレブンびびっど!』にはウェブテクノロジの「SpriteStudio」が採用されている。
最後に村本氏は、新作『キズナストライカー』を紹介し、プレゼンを終えた。
[パートナー企業: 株式会社ウェブテクノロジ]
プレゼン前の村本氏にお願いし、株式会社アメージングとはどのような会社なのか、お話をうかがった。
経営は堅く、入口は楽しく
――パートナー企業がウェブテクノロジさんなので、すぐに楽しい会社さんだとイメージできました。
村本シュウイチ氏:
社長にはこれ(マスク)で出るって一切言ってないんです(笑)メディア出たときに社長が白目むいて東京ではどうすんだって言われて、普通にしますってフリをして、多分またこれになると思います。これが会社の信用毀損に繋がってないかっていうことだけが心配で。
――楽しいっていうのはすごく伝わります。
曲がりなりにも15年やってきているので経営は堅くやって、入り口とかを楽しくっていうイメージでやっています。
――最近だと『ビーナスイレブン』がセールスランキングで上の方にいますよね。
アプリの世界でセールスランキング上の方にいるってことは売上は立ってるということで、客様にしっかり遊んでもらえてる証拠で非常にありがたいです。
ダウンロードで急上昇とかだとブースト広告打ったなってことになりますから、あんまりかっこいいことかっていうと……お金を払って高くしただけのことなので……。からくりを知っているとあんまりかっこよくないですよね……。手品師の論理なので。
――でも調子はいいですよね。
そうですね。6月に50万ダウンロードを達成して、それは広告を抜いてもしっかりした数字になっていると思うので、これからまたいろんな他社との取り組みだったりとかを考えてます。まだ契約までいってないですけど、結構大き目の取り組みを秋口に向けてやっていこうと思っています。
――トータル的な運営もされるんですか?
そうですね。開発も運営もプロモーションも全部自社で。一部広告の運用はうちの代理店になるんですけど、媒体露出みたいなのの交渉も僕がお問い合わせ本部からメール書いたりして始まりますね。
――人力というか、やっぱそういうところは大事ですよね。
草の根的な、路上ライブから武道館に行くようなストーリーを仕事でやりたいと。
――アメージングですね。
なんの後ろ盾もない会社がちょっとずつ有名になっていくというプロセスのストーリーをユーザーと共有できれば一番興奮するじゃないですか。ゲーム以外を作るにはそういう構造になるようにしたいと思っています。でもそれは種明かし的になるので秘密なんですけど、そうなればいいなと。よく生放送とかでも、「みんなで行くんだろ武道館!」とか言ってるんですけど(笑)
――ニューヨークへ行きたいか~みたいな。
そうですね。やっぱりアイドルのゴールは武道館みたいなのあるじゃないですか。僕の好きなプロレスとかアイドルとか音楽とかみたいなものが、ゲーム作りとかゲーム制作の現場の立て付けの中にはめ込んで、僕の趣味でそういうプロモーションをしていこうかと思っているんです。社長はどう思っているか知らないけどまあ好きにしたらみたいな(笑)
――それは効果が出ているわけですよね?
少しずつですけどね。そのほうが親近感を持ってもらえるというか、自分のことと思ってもらわないと今の世の中はなかなかコンテンツ消費できないので。できるだけお客様にこいつらちょっと放っておけないっていう風になるような、チャームがないといけない。
――アメージングさんはモバイルが多いですよね。それ以外のプラットフォームも?
一応お堅い系の、ゲームのノウハウを生かした実用のアプリ受託開発を今年から始めました。ゲーム的なアプローチでお客さんの不便を解消したいという着眼点で事業を今年入ってから本格化させていて、それも軌道に乗ればいいなと思っています。
――ゲーム以外というと例えば?
ちょっと守秘義務があって言えないです。受託なので。
――今までのゲーム開発のノウハウが?
そうですね。UIであったりとかユーザーエクスペリエンスだったりとか、使い勝手だったりとかいうところを意識してますね。たとえば営業の人が客前でプレゼンテーションするのでも、少しでも使いやすければ、それが会社にとってプラスになればと。
――他のプラットフォーム、たとえば家庭用ゲーム機とかも?
やれればって感じですかね。基本的に何々はしないって姿勢ではなくて、事業性があれば取り組みたいっていうのがまずあるので、例えばUnityなのでSteamでリビルドして『ビーナスイレブン』のPC版出そうとかはそれが収益になるのであれば作るでしょうし。そこは何々じゃないとやらないっていう会社でもないんですね。もともと家庭用ゲームの受託開発の会社から始まって、その時には家庭用ゲームの受託だけでは収益が心細いってなったからモバイルをやろうって。「iモード」の頃から。っていうのがあって、特技を活かしてそれだけで生き残ってきた会社なのでこれからも多分そうしていくだろうと。
――大阪っぽい強さを感じます。
そうですか?僕らは弱者の戦略って言ってるんですが。
――大阪ってそういう強いところがひとつあって。
そうですね。ストロングポイントを活かすようにしないと競争力を持ち得ない会社だったので、小さすぎて。
――ほかにもストロングポイントはありますか?
うちは潰れにくいことです。資本的な後ろ盾もない、社長一人の個人のあれで15年やってるので。「どこどこさんなくなったね」とかあると思うんですけど、それって結構ビジネスの世界では大事で。事業継続しないと、結局僕ら明日一本作るために今日を売らなければならないって仕事をしているのでそこは事業性をしっかり見ているかなと思いますけどね。強みなのかな?当たり前っちゃ当たり前ですけどね。できない会社はつぶれていくので。あとはまあ面白味っていうか、柔軟だと思います。変わることを厭わないっていうか。「脱皮できない蛇は死ぬ」っていう言葉があるじゃないですか。そういうふうなことを考えると我々は常に、一応ゲームっていう軸は変えずに、そこ以外は結構柔軟にやってます。核さえ変わらなければ企業の本質は変わらないので。それが強みっちゃ強みですかね。
――お仕事的には完全に企画からすべて丸投げでお願いしますみたいなのでも?
ゲーム上は自社の企画を動かすものがほとんどです。受託でやっている実用系以外は基本的に自社の企画のものが中心ですね。あとは自社のゲームのエンジンというかフレームワークを他社に貸し出してそのロイヤリティをもらうとか。細々とやっています。
――どんなお客さんと組みたいですか?
やっぱり、うちは2Dのゲームが中心なので、うちの持っていないノウハウの組み合わせで新しいものが生まれればそれは取り組んでいきたい。僕はもともとアーケードゲーム出身でアーケードゲーム好きだったので、格ゲー作りたいなーってなってもうちのノウハウだけじゃ作れないからできる会社さんと組めば何かできるかもなとか、個人的な思惑ですけどそういうのがあったりします。美少女のコンテンツが当たって美少女のメーカーみたいになってるんですけどそういう自覚はなくて、たまたまそのときのメンバーが出せるベストのものを世間に出して勝負してて当たったのが美少女だっただけで。
――たしかに脱皮する感じですね。
常に。
アメージングみたいな会社と何か一緒にやってみたいという会社さんと巡り会いたいです。ワントピックもそれだけですね。そのためには我々がどういう人なのかを知ってもらうのが今回のプレゼンテーションとなっています。たとえば、社会人になって付き合い始めた彼女は、高校・中学の時どんな子だったのかなと気になるじゃないですか。で、結婚しようか決めるじゃないですか。そういう場にしようかなと思っています。意外と苦労してたり、いい時もあったりとか悪い子じゃないなとなったら、付き合ってくれるんじゃないかなと。そういうストーリーを今回は考えています。
――VR系は、今は特に取り組んでいない?
一応やってみようかみたいなお声がけをいただいたりはするんですけど、じゃあ何するのってときに、結局コンテンツが先にないと。とにかくVRだってなると、たぶんごっこ遊びの延長で終わりますし、そこ以外の何かがないととは思いますね。
――スマホだと安価にVRを楽しめるものもありますよね。
そっち自体は否定はしないですけど、個人的なユーザーの感覚で言うとライフスタイルの中にあれが入ってくるのはイメージできないので、どうなるのかなと。僕はゲームがもうライフスタイルだと思っているので。だからライフスタイルが変われば求められるゲームが変わるので、その変わった先にVRがあるかっていうとわからない。リビングでお父さんがひとり女子高生の部屋覗いているゲームをやっていてとかイメージできないので(笑)そういう難しさがあるかなと。生活シーンがイメージできないんですよね。リビングで全員が別々のスマホもって別々のゲーム遊ぶってのはイメージはできるんですけど。
あんまりVRのこと軽快に喋んない方がいいかな。業界全体が行こう行こうとしているから。お金の行き先求めてる(笑)
――全部カットになっちゃうじゃないですか(笑)
メガネみたいな自然なデバイスになればまた変わると思いますけど。VRでゴザイっていうのは90年代にゲーセンがテーマパーク化したときと同じような感じで、なんかめちゃめちゃ大きいのが残っていくっていう感じなんじゃないかなと個人的には思ってます。はやってほしいとはもちろん思ってます、ゲーム業界人としては。娯楽だけどゲームのルールが必ずしも必要不可欠ではなさそうな感じですよね。それは僕がオールドタイムなゲーマーだからそう思ってるのかもしれない。新しいパラダイムが生まれるかもしれない。
――僕はファミコン世代なので、目新しいデバイスが登場して消えていくというのを何度も見てきたので、ちょっと不安に感じることもあります。
そうですね。たとえば車が人間の移動の能力を拡張したりとか、あるいはコンピューターが人間の頭脳の能力を拡張してきたように、VRも人間の知覚の感覚を拡張するような装置として、何かもうひとつワントピックあると、それは生活に必要なものになるかなと。それに値するものがうまくだせるかなと――あれ?真面目な話してますね(笑)楽しけりゃいいんですよ!最後は楽しいか楽しくないか!
――「楽しい」が一番だと。
そうです、僕らは楽しい体験に対してお金を払ってもいいと思ってもらえるようなものを作るしか生きていく資格がない業種にいるので、それだけは肝に銘じてやっています。金を払う価値があるんだ、というものを作ります。
――面白いですね。
あんまり言ってたら自分を見失うので気をつけないと(笑)
――アメージングさんはオフィスの中も楽しい感じですか?
遊び心がある感じです。
――リングがあったりとか。
リングはないです。ダンジョンみたいな内装になってて、一番の奥の突き当りの薄暗くなっている先に社長室があったりします。宝箱を開けるとツールがあってその中に災害用の非常食が入ってたりとか。
――パズルを解いたり、鍵を入手しないと開かない宝箱があったり?
それはさすがにないです(笑)
――大阪らしい力強く面白い会社さんだと感じました。ありがとうございました。
[聞き手: Shinji Sawa / Minoru Umise]
[写真: Mon Gonzalez]
GTMF(Game Tools & Middleware Forum)はアプリ・ゲーム開発・運営に関わるソリューションが一堂に会するイベント。2003年にスタートし、今年で14年目。大阪会場は2016年7月6日、東京会場(事前登録受付中)は7月15日に開催。