「わたしがUnityとカジュアルゲームを推す理由」2Dファンタジスタ代表・渡辺雅央氏GTMF 2016 Meet-Ups
引き続きGTMF 2016大阪会場Meet-Ups特集をお届けする。第2弾は、2Dファンタジスタ代表・渡辺雅央氏にフォーカス。
とその前に、7月15日に開催されるGTMF 2016東京会場へ足を運ぼうと考えている方に、ちょっとしたアドバイスがある。Meet-Upsのプレゼンを聞いてすこしでも興味を持ったのであれば、プレゼン終了後すぐにプレゼンターに声をかけてほしい。なぜかというと、プレゼンターのみなさんはいろいろと忙しかったり、ブースをかまえていない人もいるからだ。あとから話を聞こうと思っても、見失ってしまう可能性もあるだろう。もし不安であれば、本シリーズに掲載される写真を見て顔を覚えて、プレゼン前に声をかけるという手もありだ。
Unityを利用した広告収益ゲーム制作について
プレゼン開始前に累計ダウンロード300万と紹介を受けた合同会社2Dファンタジスタ(2DFantasista)代表の渡辺雅央氏は、GTMF 2016のプロフィールを書いてから今日までの間に200万ダウンロード増加してすでに500万になったことを発表し、会場では氏に対して大きな拍手が起こった。2Dファンタジスタは、ゲーム業界で十数年の経験を積んだ渡辺氏が設立し、氏を含むわずか5名の小さな会社。小規模でありながら、2Dファンタジスタが今までに手がけたゲームの累計ダウンロードが500万であり、プレゼンではその内訳も語られた。代表作は『タップ・シーフ・ストーリー』『昭和駄菓子屋物語』など。
渡辺氏はプレゼンで、2Dファンタジスタは「味のあるグラフィック」と「触って心地よい」ゲームを作っている会社であると前置きし、ではなぜそのようなカジュアルゲームばかり作っているのかを説明した。その理由として、ソーシャルゲームほどの開発コストがかからない点をあげ、カジュアルゲームは運営コストが低く抑えられリスクを限定できると説明した。また、カジュアルゲームの利点として、自社IPを“ガチャ”などでイメージダウンさせることなく、キャラクターに愛を感じるアプリを作りやすいと述べた。
プレゼンのお題は「Unityを利用した広告収益ゲーム制作について」ということで、Unityをすすめる理由として、利用しているユーザーが多いためネット上に情報がたくさんあることの安心感や、動画広告やアナリティクスが標準で搭載されており収益をあげやすいこと、そしてスケールのしやすさを力説した。カジュアルゲームでの成功例を持っている2Dファンタジスタ渡辺氏は、「わたしたちと良いゲームを作りましょう」とプレゼンをしめくくった。渡辺氏のプレゼンは東京会場でもおこなわれる。
[パートナー企業: ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社]
GTMF大阪会場にて、プレゼン前の渡辺氏にお願いし、2Dファンタジスタがどのような会社なのかお話をうかがった。
小規模にこだわり、価値のある物を作りつづけていく
――2Dファンタジスタさんは自社開発のみですか?他社さまからお仕事の依頼を受けることもありますか。
渡辺雅央氏:
自社でも作りますし、他社さんから企画の相談を受けて作ることもあります。どちらか一方をメインとして考えているわけではなくて、両方をやっていきたいなと今のところ考えています。
――大手ゲームデベロッパーで十数年ゲーム開発に携われていたんですね。
そうですね。わたしはもともと家庭用ゲーム機向けのゲーム開発の仕事をしていました。それが14年くらいですね。そこから、世の中の流れと言うと変かもしれないですけど、スマートフォンが増えてきて、数年間かけてゲームを作るのではなく、数か月とか1年くらいでゲームを作る時代がまた来たなと感じました。そっちのほうが自分の性に合っているなと。そこで、チャレンジするには独立したほうがいいのかなと考えました。
――独立は怖い部分もあります。
そうですけども、失敗したってなんとかなるかなって(笑)変な話、死ぬわけじゃないので。「ああ、なんか失敗しちゃった」みたいな感じでもいいかなと思いながら、まずは一回やってみようと。
――かっこいいですね。
そんなこともあって、『タップ・シーフ・ストーリー』を作りました。これはわれわれとしても大好きなゲームになっていまして。
そうです。お話を合間合間に挟みながらという感じのゲームだったんですけど、それが好評で、いろんな会社さんから「一緒に仕事できませんか?」というようなお声がけをしていただくことが多くなりました。「きみたちはゲーム自体はよく出来ているけれど、マネタイズの部分はまったくダメだよね」「ですよね……」みたいな(笑)
ぼくたちも、なんでもやりますっていうつもりはなかったんですけど、そのときに見せてもらった企画がすごく面白かったので、それだったらやりたいと。それが『昭和駄菓子屋物語』です。それでクライアントさんと仕事をしながら、最近になってクリッカーゲーム『100万匹の羊』を出しました。
――『タップ・シーフ・ストーリー』が一番最初ですか。
はい。そうです。
――ということは、いまちょうど流れに乗ってきているというか、調子が良い感じですね。
そうですね。さらに別のクライアントさんとお仕事をした結果をみて、また最新作を見てみたいな感じで、いろいろとお仕事のお話が増えてきている状態です。とても嬉しいんですけども、わたしたちは5人しかいないので大変です。
ただ思うのは、世の中にはいろんなゲームがあるじゃないですか。でも見ていると、そのゲームをディスるわけじゃないですけど、ぼくたちが作ったほうがもっと良くなるのにと思うゲームもあったりするわけですよね。そのときに、「そのゲームを作るときにうちに声かけてくださいよ」って思うことがあります。それもあって、今回のMeet-Upsみたいな場とかで、自分たちもゲームを作っていくということにかんしてすごくポジティブだから、「ぜひ声をかけてください。どういうふうにやっていくかは、別途相談しましょう」と呼びかけています。
――最初に作ったゲームに声がかかって次のステップに進んでいくというのは、なかなかないことだと思います。そう簡単にうまくいくものじゃないですよね。
たまたまの運です(笑)
――本当ですか?(笑)運の部分もあるかもしれませんが、良い物が出来たから良い結果で出たのでは。
もちろんわれわれとしても良い作品を作ったとは思っているんですけども、“良いだけ”の作品は世の中にいっぱいありますし、埋もれているものも多いじゃないですか。そこの差なのかなと思います。埋もれるか、埋もれないか。
――『タップ・シーフ・ストーリー』は何年前でしたっけ?
もう5年くらい前じゃないですかね。
――当時ネット上ではゲームタイトルやスクリーンショットをよく見かけました。うまく拡散されているようなイメージがありました。
だいたい20万本ぐらいはいきました。小ヒットしたって言えばいいんですかね。
――いまだとダウンロード20万ってなかなかいかないですよね。
いまは厳しいですよね。とはいえ、良い物を作っていけば、きっとどこの会社でも可能だと思います。べつにわれわれが世界で一番すごいと言うつもりはないんですけど、味のあるグラフィックと、心地よい音楽がミックスしたゲームを作れる会社なのかなって思っています。
――Meet-Upsのパートナー企業はUnityさんですね。
最近はUnityをメインにしていまして、今回のMeet-Upsではそこをメインに話をしたいなと思っています。Unityの一番良い点は、とにかく使っている人が多いので、何か困ったときはググるとだいたい解決方法が出てくるんですよ。これが時間短縮につながるというのと、あとは、たとえばゲームが大成功したとしてそのゲームをどんどんスケールしていきたいとなって人を増やしていこうぜとなった場合、Unityを使えますという人は多いので、その中から自分たちの求めるスキルを持った人を選んでいくということもやりやすいです。スケールのしやすさと情報の集めやすさが、Unityのメリットなのかなと思っていて、そういうところを有効活用しようという感じの内容の話をします。
――問題が発生したときに、調べてすぐに解決方法がわかるというのはたしかにメリットですね。
もちろんいろいろ問題もあるんですけれども、それは何にだってありますし、どこにリスクをとってどこは保険をかけるかという点で、Unityはとてもバランスがいいかなと。あとはわたしが今回のMeet-Upsで話すのは、Unityを使おうぜっていうことと、カジュアルゲームを作ろうぜといったことです。
――カジュアルゲームを作ろうというお話、すごく興味深かったです。
いまの時代、ソーシャルゲームとか課金に強いゲームだと開発に2~3億円とかになります。じゃあそれを回収するためにはいったいどれだけの広告を打てば……ということになるじゃないですか。あとは毎月運営に何百万みたいな莫大なお金がかかりますよね。でもカジュアルゲームだと頑張ってお金を使ったとしても一本1000万とか、何百万とかでも作れます。運営とかサーバーとか必要にならないものが多いので、たとえ失敗したとしてもリスクがそこで止まるんですよ。大成功したとしても金額の上限がありますけど。湯水の如くお金を使ってなんとかして、これ以上は会社が耐えられないから運営をやめようとかいうことをしなくていいんです。作った・出した・そのまま・はい次作ろうと進めていって、あとは家賃収入のような感覚でお金が入ってくるというのは良いんじゃないかなと。
――カジュアルゲームは無料で配信して広告で収益を上げる?
そうです。ただ最近はカジュアルゲームでも課金があるタイプが出てきているんですけど、それでもかなりゆるめの入れ方なので、運営とかもそこまでしっかりしなくて大丈夫です。もちろんトラブルがあれば対応しなければならないですが。じゅうぶんな手をかけずに家賃収入が入ってくるというのが魅力です。10本作ってそのうち1本がヒットすれば、会社としてもじゅうぶんだと思います。ただし大企業はチャレンジしづらいかもしれないです。たとえば売り上げましたって言ったって、何千万とか、よくて億ぐらいなので、それだったら「バカヤロー!そんなもん一週間で稼ぎやがれ!」とか上司に言われると思うんです(笑)
中小の企業さんが自分たちでIPを作っていく最初の一歩としてもアリでしょうし、すでに所有しているIPのいろいろな展開のひとつとしてカジュアルゲームを作るというのは、ガチャなどがないのでIPを傷つけずにすむと思うので、いいんじゃないかなと。
意外と、と言うと変なんですけど、最近はご相談をいただくことが増えています。でもどうしようかな……と。人がいないので。無理に受けて共倒れになるのは嫌ですし。
増やします。ただ表立って募集はかけていないです。とても小さい会社なので、誰でもいいというわけではないんです。相性の良い人に出会いたいなと思っています。求人誌などで募集するんじゃなくて、接点があった人に「うちに来ない?」とアプローチするほうが確率が高いかなと。最終的にはあまり大きくしないつもりです。10人前後ぐらいでとどめておきたいなと考えています。
――大きな会社にしようとは思わない?
思わないですね。
――そこには小規模だからこその何かがある?
意思疎通が簡単だというのがあります。顔が見える距離とか、ちょっと見渡せばみんなの姿が見える距離感とかで仕事をできるのが少人数の良さなのかなと。
週に二日は在宅勤務なんですよ。あとは大雨の日とか台風の日は来なくていいんで、もちろん家で仕事をしているんですけど、これが20人とかになると「渡辺さん、そのルールはおかしいですよ」とかになってくるじゃないですか。ルールのためのルールが必要になるみたいな。会社なのでもちろん必要なんですけど。でもそれが必要にならない規模にしておきたいなと。どっちが正義とかいう話ではなくて、ぼくたちはこうしたいなと。新しく入ってきた人に社風を説明したときに、受け入れてくれる人とそうでない人がいるので、とても慎重に会社の説明をしながら集めていこうと思っています。
――意思疎通をしやすいというのは少人数の魅力ですね。
もちろん苦労はありますよ。大きな仕事の話がきても受けられなくて、それが続くと会社がなくなっちゃうかもしれないですよね。でも価値のある物を作り続けていけばなんとかなるのかなと思っています。
――これからも味のある心地よいゲームを期待しています。ありがとうございました。
[聞き手: Shinji Sawa]
[写真: Mon Gonzalez]
GTMF(Game Tools & Middleware Forum)はアプリ・ゲーム開発・運営に関わるソリューションが一堂に会するイベント。2003年にスタートし、今年で14年目。大阪会場は2016年7月6日、東京会場(事前登録受付中)は7月15日に開催。