アクションゲームを手がける「開発者」たちにきく、アクションゲームの作り方。第四回 RPG『Orangeblood』開発者Grayfax Software

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アクションゲームを作りたいというユーザーに向けて、アクションゲームを手がけたクリエイターにその極意を聞くという本企画。最終的には弊社アクティブゲーミングメディアが販売に携わる『アクションゲームツクールMV(Steamリンク)』の購入を検討してもらいたい……という主目的はあるものの、職人たちのこだわりについては多くの方が興味を持っているだろう。アクションゲームをつくった、もしくはアクションゲームを作っているというクリエイター達に、その真髄の一端をお聞きしていく。第四回のゲストは、今年1月にRPG『Orangeblood』をSteamでリリースしたばかりのGrayfax Software。

Grayfax氏はRPG『Orangeblood』を一人で開発し、無事今年1月にSteamでリリースを果たしている。同作は、弊社アクティブゲーミングメディアのPLAYISMより発売中。現代とは違う歴史を辿った「ニュー・コザ」を舞台に、曲者ぞろいの4人の少女たちがやくざやマフィアと銃撃戦を繰り広げるハクスラ要素の高いコマンド形式のRPGだ。その台詞回しやドープな音楽、緻密に描かれたドットグラフィックが織りなす独特の世界観が一定の評価を獲得している。なおGrayfax氏と『Orangeblood』については以前インタビューを実施したので、こちらも参考にしてほしい。

Grayfax氏は、『Orangeblood』において「RPGツクール」を用いていたが、今度は『アクションゲームツクールMV(以下、アクツク)』を使ってアクションゲームを作り始めたと聞きつけ、早速今回のインタビューに答えてもらった。制作中タイトルの仮名は『Prototype(1)』。


───なぜRPGのあとアクションゲームを作ろうと思われましたか?

Grayfax氏:
手が空いたタイミングで「アクツク」を定価で買ったところ直後にセールがあり、悔しいので元をとろうと思ったからです……!

というのは半分冗談で、『Orangeblood』の制作に入る前にClickteam fusionで同様のサイドビューシューターを試作していたのですが、同一オブジェクト毎のパラメータ管理が難解すぎてブン投げた前科があったためです。当時は絵のスキルも低く、納得のいくクオリティに達する見込みがなさそうだという判断もありました。つまり、先に作ろうとしていたのはこちらということになります。

「アクツク」を実際に触って検討し、いけそうだなという感じがあったので本格的に作り始めました。


───今回の『Prototype(1)』制作にあたって、好きなアクションゲームや参考にしたアクションゲームはありますか?

Grayfax氏:
本作に関していえば、Xbox Live Arcade で2012年にリリースされた『Shoot Many Robots』と、神奈川電子技術研究所さんの『エスカレーターアクション』(いずれもサイドビューシューター)に影響を受けています。

前者はゲームパッドに、後者はマウスに最適化された操作系なんですが、いずれも狙って撃って当てるというプリミティブな快感がシンプルに表現されていて面白いです。背景のパースのとり方なんかは『ザ・ニンジャウォーリアーズ ワンスアゲイン』が当代最高に良いので参考にしています。

好きなタイトルは日本のランドスケープの表現が秀逸でキャラクターがめちゃくちゃ可愛い『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』ですね。おすすめです。


───『Prototype(1)』はどんなゲームにしようと考えられていますか?

Grayfax氏:
個人的に、複雑で繊細な操作を要求され、それを100%こなせないと劣等感を刺激されていやになっちゃうので、そういう要素は極力排除したいと考えています。ゲームのギミックを優先した突飛な設定というのも好きではないので、そういうのも無しで。

───特にどういった点にこだわったアクションゲームを作ろうと考えられていますか?

Grayfax氏:
敵に攻撃を当てたり、破壊したときのリアクションの気持ちよさを特に重視しています。本作の敵は殆どがメカばかりなのですが、これは倒されたとき無条件で爆発してバラバラになっても違和感がないという理由からです。敵は倒したらハデに爆発した方が絶対嬉しいですけど、小口径の銃で撃たれた人間がいきなり爆発四散するのはちょっと違うので。

個人的に、ある程度具象的なグラフィックスに寄ったゲームでその世界観におけるリアリティラインを逸脱した表現がバンバン出てきちゃうのが苦手なので、記号としての機能と現象の描写としての納得感の匙加減も大切にしたいところです。


───なぜガンアクションにされたのでしょうか?

Grayfax氏:
比較的シビアな操作を必要としないからです。移動と攻撃を同時に行えるうえ、狙って当てるという任意方向への遠距離攻撃そのものにプレイヤースキルが介在するため、ゲームとして成立する力が強く、加えて攻性の行動における移動要素のウェイトが低いため、相対的にシビアな操作を必要としないですよね。これはゲーム性としての好みでもあるんですけど、副次的なメリットもあって、移動がシビアじゃないって事は地形を上記でいう機能より描写寄りにしやすいんですよね。

もちろん、モノとしての銃が好きというのもあります。表現というのは、どうしても「ちゃんと知っているか」もしくは「ちゃんと調べたか」で差が出てしまうものですから、自分が好きなものをテーマにするというのは非常にコスパがいいので。

特にゲーム内の描写に落とし込むうえでは、必ずデフォルメが必要になりますから、どこは外していいのか、どこを外したらまずいのかという勘所は、一夜漬けで決めるとボロが出やすいんですよね。この銃、右手だとモーションが破綻してしまうので左側にチャージングハンドルがある設定にしよう……みたいな判断も、ある程度構造を理解していないと是非がわかんないですから。


───RPGとアクションでは最初に作るものや考えるものは違いますか?

Grayfax氏:
RPGである『Orangeblood』では、まずマップのグラフィックを詰めていきました。RPGはヒューマンスケールがめちゃくちゃ決めやすいのでそれで通用しますが、アクションゲームだとそうもいかないので、まずはキャラクターのアクションから作っていく感じです。地形についてはカメラの見通せる範囲とか、ジャンプの距離とか勘案してスケーリングする必要がありますので、気を遣う要素が多いですね。

グラフィックについても、アクションゲームを作るうえでRPGと同じアプローチを引きずると問題があって、たとえばRPGでは背景のコントラストをキャラクターと同程度強めに出しました。ただ、これがアクションゲームの背景となると埋没して視認性を損ねてしまう感じだったため、今回背景のコントラストは比較的緩やかに、特に暗い部分はカラーコードで#404040あたりを明度の下限としています。

───『Prototype(1)』のグラフィックやアートのクオリティが高い印象です。特に銃へのこだわりを感じます。

Grayfax氏:
マニアを自称できるほどの知識量やコレクションはないですね(笑)。小学生のころ、僕に家庭用ゲーム機を買い与えたくない一心で、親からコクサイのS&W M629をクリスマスに貰ってから、中学の前半まで学校の近くの緑地でサバゲまがいのことをやっていました。当時は条例とかなかったので。

高校生になって、バイトしてセガサターンを買ってからはしばらくゲーム一色だったので興味を失ってたんですが、2000年代後半になると海外製の出来のいいエアソフトの製品がバンバン出てきて、そこからまた細々と趣味としてやっている感じです。

銃をテーマにしたゲームを作ってるのに実弾射撃の経験がないのが何気にコンプレックスだったので、今春は海外に……と思っていたのですが、COVID-19の影響でそれも難しくなってしまいました。


───ドットアニメーションにこだわりを感じますが、たくさん描かれていますか?

Grayfax氏:
個人的な好みでいえば2Dアニメーションのコマは適切に落とすもので、一様に枚数を増やしてヌルヌル動いていれば良いというものでもないと思います。

ケースバイケースですが、知覚に至らない動きに関しては、思いきって削ったほうが決まって見えることが多いです。

描き込みに関しても、一様にディテールを入れてしまうと動きとして良くない部分が出るので、大きく動いている途中の部分などは強い色を削ったり、ブラーの表現を入れることで目に留まらないようにするなどの工夫が大事かなと思います。まあ、僕はそこまでアニメ上手くないんですけど。

画面として良いか良くないかが重要なので、手数を増やしたら偉いというものではないですよね。

───「RPGツクール」と「アクションゲームツクールMV」ではかなり仕様が異なると思うのですが、難しかった点や良かった点など教えていただければ。

Grayfax氏:
「RPGツクール」と比較しての「アクツク」の難しさというか、性質の違いとして「アクツク」はよりツールとしての側面が強く、何をするにしてもゼロからの作業を要求されます。

かといって何でもできるかというとそうでもなく、絶妙なできなさが多々あるので、「RPGツクール」のようにユーザーサイドのプラグイン制作者の方が多数参入するインセンティブができて、その機能的なギャップが埋まるようになれば良いのですが……。

無論、日本語サポートを含めて僕のような国内のプログラミング全然わからんマンがとりあえず2Dアクションを作ってみようという時に有効な選択肢の一つであることは確かだと思います。アニメーションエディタは特に優秀ですし。

それと、特別に勉強というようなことをしなくて済むのが利点でしょうね。数学は高一で挫折してますし、文法とか記法とか、公式とか麻雀の役とか……そういうのを覚えるのがまったくダメで。ただ、それでもやりたいことに対応している機能を探せばいいだけですから、なんとかなります。ちなみに、いま”雀魂”で麻雀をやっているのですがピンフを覚えられなくて毎回ネットで調べてます(笑)。

───使い方のコツなどはありますか。

Grayfax氏:
使い方のコツ……は、何ができて何ができないのか、仕様の限界を早めに把握しておくことでしょうか。盛り込む予定の要素については最初に検証しておけば後でがっかりしなくてすみますし、ツールの慣熟にも有効でしょう。そして「これ、できないんか~い!」と思ったら、Steamコミュニティで要望を出しましょう(笑)。


───今作られている完成版に盛り込みたい要素はありますか?

Grayfax氏:
Steamがローカルマルチプレイのネットワーク対応(Remote Play Together・関連記事)を発表してから、是非活用したいなと思っていたので、可能であれば二人プレイができるようにしたいですね。僕はゲームは一人でやるより複数人でやったほうが楽しいと思っているので。

───では、完成はいつでしょうか。

Grayfax氏:
追いつめられると駄目になるタイプなので、締め切りは意識しておりません!!!

───気長に待ちます(笑)。ありがとうございました。




実は『Orangeblood』の前にアクションゲームを作ろうとしていたというGrayfax氏。プログラミング知識がなくても開発できるということで「アクションゲームツクールMV」が選ばれたとのこと。氏の投稿を見て、同じ“アクツクラー”からは「こんなこともできるのか!」という声も散見される。『Prototype(1)』の開発中のシーンは随時Twitterで投稿されているので、是非フォローしてみてほしい。

アクションゲームツクールMVとは
アクションゲームを作りたい。でもプログラミングは難しい。そんなユーザーのための『ツクール』シリーズの新作(ストアリンク)。オーソドックスな2D横スクロールアクションはもちろん、ベルトスクロール、トップビュー、多人数対戦、レース、パズル、ビンポール、シューティング、メトロイドヴァニア…王道のアクションだけでなく、ホラー、アクションRPGも制作できる。2段ジャンプやバックステップ、武器変更、落ちる床も重力設定も、物理演算も楽に設定できる。タイル数回のクリックで、設定をしてステージを作成可能。自由度が非常に高い分、覚えながら理解を深めることが多いが、使いこなせれば多岐にわたるジャンルの作品が自由に作れるようになる。頭の中だけにあったオリジナリティに溢れるゲームを世界に生み出すことができるツール、それが『アクションゲームツクールMV』である。

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