「ずっとコンシューマー一筋でやってきたことが実を結んできた」株式会社イリンクス田中宏幸氏は語る。GTMF 2017 Meet-Ups
ゲーム開発ツール&ミドルウェアの祭典「GTMF(Game Tools & Middleware Forum)」内で開催される「Meet-Ups」に登壇した開発者にフォーカスを当てインタビューするこの企画。第八弾は株式会社イリンクスの代表取締役田中宏幸氏にお話をうかがった。
イリンクスは「コンシューマーゲーム制作を中心としているゲーム開発会社」だ。これまでは『ガンダムブレイカー』シリーズや『聖闘士星矢 ソルジャーズ・ソウル』といったIPタイトルを中心に取り扱ってきた。設立以来、コンシューマーを扱い続けたイリンクスはコンシューマーゲーム専門会社となりつつある。なぜコンシューマーゲームにこだわり続けるのか、開発体制はどうなっているのか。田中氏に語ってもらった。
田中宏幸氏(以下、田中氏):
株式会社イリンクスの代表取締役田中です。イリンクスの社長という立場ではあるんですが、プロジェクトマネージャーもやっています。各プロジェクトのマネージメント、ほかの会社さんとの窓口、さらに技術的な環境のサポートなどもやっています。
イリンクスは今年で設立7年目の、ハイエンドのコンシューマーゲームを専門としている会社です。シリコンスタジオのグループ会社ですので、シリコンスタジオから手厚いサポートを受けることができ、難しい案件でも対応できるようになっています。
――昨年お話を聞いた際には、「ハイエンドのコンシューマーゲーム専門の会社でありたい」というニュアンスが強かったように思うのですが、今は専門ですと断定されているのですね。
田中氏:
そうですね。おかげさまで昨年以来、そういった面での認知度が上がってきていまして、うちにソーシャルゲームの話を持ってこられるお客様もまったくいなくなりました(笑)その分PlayStation 4やNintendo Switchの話をいただけているので、大変ありがたく思っています。
実際には、スマートフォンもできるのですが、「コンシューマーゲーム一本」と言うことによって、人員の経験値をコンシューマーに特化できたり、プロジェクトの資産も次に生かしたりすることが容易になります。特化したからこそ生まれるメリットがあるので、腹をくくってコンシューマーゲーム専門と言い切っていますね。
――言葉が力強いです。
田中氏:
そうですかね(笑)覚悟的なものなのかもしれないです。
――今年の動きはどうですか。
田中氏:
昨年『ガンダムブレイカー3』を担当したあとから、大規模のコンシューマーゲームの案件を2本ほど水面下で作っています。ひとつはシリコンスタジオのゲームエンジン「Mizuchi」を使ってフォトリアリスティックなグラフィックを採用した、大規模なアクションゲームを作っています。もうひとつが、多人数対戦のファンタジックなアクションゲームです。この開発は両方とも始まっているんですが、未発表なので何も言えないです(笑)おそらく東京ゲームショーかそれに近いタイミングで発表されるかなと思っています。後は細かいお手伝いも色々しています。
――イリンクスさんはゲームのどういう部分をお手伝いされることが多いんですか。
田中氏:
ちょっと前ですとネットワーク周りをまるまる作ってほしいというのはありましたね。『ガンダムブレイカー』の経験があったので、それを元に開発しました。ネットワーク周りは独立していることが多いので、やりやすいんです。ほかにも、日本一ソフトさんの『魔界戦記ディスガイア2』をMac版とSteamOS版へと移植するお仕事もやらせていただきました。最近だとゲームを作る時も、PlayStation 4とSteamの同時開発というのも多いので、社内にSteam開発の経験が溜まっていたのと、プログラマー1人2人でできることなので、お受けした感じです。
大きなラインが2つほど動いているので、これ以上人員が割けないところもあるのですが、コンシューマーゲームは開発期間が長いので、色々な会社さんと取引しないと忘れられちゃうんですよ(笑)。なので、タイミング次第ではありますが、少人数でお手伝いができるお仕事はプログラム、グラフィック共に大歓迎です。
――大きなラインと小さなラインでチームを作って、動かしていると。
田中氏:
いえ、あるのは大きなラインだけです。そういった小さい仕事が入った際にラインのなかの人を動かしたり、協力会社さんに声を掛けたりして社内を回していますね。
――そこらへんはプロジェクトマネージャーの本領発揮ですね。
田中氏:
そうですね、人の管理は常々やっている感じですね。
――プロジェクトが大きくなるほど、全体が見えにくくなることもあると思うんですが、そこはどうされていますか。
田中氏:
プレジェクトマネジメントにコストをかなり割いています。そのお陰で規模が大きくなっても、プロジェクトマネージャーは一通りを見ることができています。たとえば、リソース作成に掛かる日数などは作成を繰り返していくと、どれだけの日数でどれだけのクオリティのものがあがってきているのか、ある程度数字で出て来ます。プロジェクトの規模が大きくても、そういった数字をコツコツと集計しています。そこを見なくなっちゃうと、ぐちゃぐちゃになっちゃうので気をつけています。
――そういった重要な役割を担われていると、現場から離れづらそうですね。
田中氏:
いえ、僕は実は直接プロジェクトの管理をしている訳ではないんですよ。他のスタッフがプロジェクトマネジメントをやっていて、まとまった資料などを見て意見交換やアドバイスをしています。私はどちらかと言うと人員や予算の調整などがメインですね。そんな体制を2年ぐらいやっています。そろそろ社長業に専念しないと、スタッフに迷惑をかけちゃうところもあるので(笑)。あまり下の方には口は出さず、上のレイヤーで見るように気をつけていますね。
――今はイリンクスさんだけでひとつのタイトルを開発されることもありますか。
田中氏:
それが今回のMeet-Upsで話したかったことなんです。今まではうちが4社5社に声を掛けて合同でやることが多かったんですが、案件の大きさに比例して管理が大変になりアップアップになっちゃうんですよね。特に今回みたいな大きな案件だと、このままだと難しいと思いました。そこでシリコンスタジオグループ全体で対応することにしました。シリコンスタジオが約250人、さらにイグニス・イメージワークスという70人ほどのグループ会社がいます。イグニス・イメージワークスは『龍が如く』のグラフィックなどを担当した会社です。うちを中心としたこの3社で開発する方法だと関与する会社も少ないですし、全ての会社が近場にあるので打ち合わせなどもスムーズに行え、管理コストが抑えられるという寸法です。
――今イリンクスさんは何人ほどですか。
田中氏:
35名です。
――グループでは人数が少ない方ですよね。その人数でもハイエンドのコンシューマーゲームをやっていけると。
田中氏:
コンシューマーゲームで一番人が必要なのはグラフィックなんですよ。うちではグラフィッカーは司令塔になっていまして、主にコンセプトモデルやリファレンスを作り、それをもとに量産を発注する形です。先程の枠組みですと、グラフィックの量産部分は、イグニス・イメージワークスにおまかせすることになります。プログラムやプランニングは外に出すのは難しいので、うちで大部分を負担しつつ、多少協力会社さんからヘルプで来て頂きながら進める感じですね。ひとつのプロジェクトだと、50人から70人、今は2ライン動いているので合計100人規模で作っています。
――常にグループ全体で動いているんですか。
田中氏:
今は1ラインだけですね。大きい案件ですとイグニス・イメージワークスは映画や遊技機といったところともパイプが太いので、小さな会社6社ぐらいでグラフィックを作るのではなく、イグニス・イメージワークスに任せたほうがずっといいですし、シリコンスタジオのR&Dも頼りになります。ただ規模がそこまで大きくなければ、今まで通り大小のグラフィック会社さんと手を組んでやる方が柔軟性が高いのでグループでは作らないと思います。
――グループ会社の特色も大きく異なりますよね。
田中氏:
シリコンスタジオはミドルウェアを作っている様な技術的な人たちが多い会社です。うちはコンテンツ、ゲームを作る会社。イグニス・イメージワークスは、グラフィックを作る会社。それぞれ得意分野が微妙にズレているからうまく協力できるのかなと思います。それがシリコンスタジオの考え方でもあります。もともとうちを設立する時にシリコンスタジオが協力してくれたのも、僕達がコンテンツを作れるところに強みがあったというのが大きかったようです。やっとそれが7年目にして発揮できるようになってきた感じですね(笑)
――ピンチになった時に助けてくれる専門家がいるというのは、心強いですか。
田中氏:
圧倒的に助かりますね。ピンチになった時は、泣けてくるぐらいに助かります。外の会社にヘルプを頼むのは、利害関係があるので難しいんです。グループ会社だと利害関係は抜きに動いてくれるので、助かっています。大規模案件はトラブルばかりなので、そういうのがないと折れていたと思います。
――ハイエンド専門というなら、これからはPlayStation 4 ProやXbox One X、ハイスペックPC向けといった部分にも対応していなくてはいけないですよね。
田中氏:
シリコンスタジオが技術サポートをしてくれるので、4KとかHDRはフォローしてもらう予定です。そのシリコンスタジオにノウハウを教えてもらいながら、経験値をためたいですね。うちでは中々研究をやっている余力はないので、シリコンスタジオが研究をしているのは、こちらとして助かりますね。彼らはCEDECでもよく講演するくらい、その分野では第一人者ですから。R&Dは直接売上に結びつかないのに凄いですよね。(笑)
――田中さんの場合は、会社を操業する立場ですもんね。
田中氏:
すいません、ついついお金勘定を考えてしまいますね。ただ、うちの規模くらいだとR&Dのような部署を作るだけの余力もないので、シリコンスタジオくらいの大きさになってくると、そういった余力が生まれるのは素晴らしいと思うし、大変助かりますね。そういった最先端の技術をエンジンに組み込んでもらい、使い方などを教えてもらいながら、自社の経験値として蓄えていければと思っています。
――使っているゲームエンジンの開発者やサポートスタッフが近くにいるというのは、ありがたいですよね。
田中氏:
そうですね、シリコンスタジオは元々サポートが手厚いのですが、目と鼻の先に居るのでしょっちゅう「すいませーん」と声かけて色々聞いていますね。シリコンスタジオは「Mizuchi」を大きく売り出しているので、今回は実績も含めてチャンスと思っていて、より手厚くサポートしてもらえていますね。
――いいものを作ることが貢献することになりますよね。
田中氏:
ミドルウェアは実績が物を言いますので、うちとしては、このエンジンでいい物が作れますよという実績が、シリコンスタジオに対して貢献することになりますね。
――ユーザーも、いいゲームに出会った時にはじめて、ゲームエンジンを評価する傾向にあると思います。
田中氏:
「あのゲームはこのゲームエンジンで開発された」となれば、世間的な認知度もぐっと上がると思いますし、そこが一番シリコンスタジオから求められているところかなあと思います。
――ハイエンドに対してプロフェッショナルであることは、モチベーションにつながりますか。
田中氏:
自分たちがレベルの高いものを作っていることは自信にもなるので、社内みんなのモチベーションにつながっていると思います。さらにいうと、うちの会社はコンシューマーゲームが好きな人間が集まっていまして、このあいだもみんな家からNintendo Switchのコントローラーを持ち寄って『ARMS』をやっていました。(笑)自分たちが面白いと感じるものが仕事になっているので、そういった意味でもモチベーションが高い状態ですね。
――ゲームエンジンを使った大規模開発という方針は続いていきますか。
田中氏:
続いていくと思います。コンシューマーゲームを作る上で大規模開発は避けられませんので。そもそも、うちがいまコンシューマーに注力しているのは、最先端の技術を追いかけたいからなんですよ。最先端の技術さえ持っていれば、どんな業界の流れがきても食べていけるかなと思ってまして、例えば5年前は『パズドラ』すらなかったんですよね。業界の移り変わりが激しくて、僕なんかには5年後すら未来予測はできない。ただハイエンドの最新の技術さえできれば、何とか順応できるんじゃないかなと思います。今はハイエンドの中心にPS4があるので、必然的にコンシューマーに力を入れています。
――PS4は強いですね。ハイエンドというとXbox Oneもそうですが、PCはいかがですか。
田中氏:
PCはもちろんカバーしていますよ。今PS4だけで開発することはまずないですね。PS4とSteam両方同時開発できるようにしています。
――そういったハードは世界的に好調ですよね。イリンクスというと、国内向けタイトルが多いイメージです。
田中氏:
いや、そうでもないんです。たとえば、『聖闘士星矢 ソルジャーズ・ソウル』は実は南米や中国向けタイトルなんです。南米で「聖闘士星矢」は「ドラゴンボール」と並ぶぐらい人気なんです。また中国では、先月中国資本で「聖闘士星矢」がハリウッド映画化されるというニュースを見ました。「30年前の漫画なのにいつまで中国の人は聖闘士星矢好きなんだよ!」って思いましたね。ちなみに「ソルジャーズ・ソウル」は簡体字やニュートラルスペイン語、ブラジルポルトガル等10か国語に対応しています。発売した時には、僕らは南米の2ちゃんねるみたいなところを見ていました。(笑)今はGoogle翻訳もあるので便利ですよね。小さな大会がYouTube上で開かれていたこととかもチェックしていました。
――その頃から海外向けには意識されていましたか。
田中氏:
いえ、もっと前からですね。ここ最近国内だけで売るというコンシューマタイトルは殆どなくなりました。
――「ガンダム」もそうですか。
田中氏:
そうです、「ガンダムブレイカー」も韓国語などに対応していますしね。
――IPものというと、国内というイメージが強いです。
田中氏:
そういう風に見えちゃうかもしれませんね。例えば「ドラゴンボール」も国内向けに見えますが、実際には海外の方が圧倒的に売れているシリーズです。
――国内外の人気のIPだからこそですね。今やIPもオリジナルも扱う、コンシューマーのハイエンド専門会社というのはそう多くないなかで、イリンクスはある種異質ですよね。
田中氏:
そういうほかの会社があまりいないようなところにいるので、おかげさまでお仕事ももらえていますし、言い方は少し申し訳ないですが、こちらで仕事を選べていまして、うちの会社の成長に必要だったり面白そうなタイトルを選ぶことができるのは本当にありがたいなと思っています。
――昨年はそうなりたいというニュアンスは強かったですが、今年は実際にそうなれているんですね。継続は力なりですか。
田中氏:
はい。設立時からコンシューマーゲームをずっとやってきたことが実を結んできたかなと思います。
――今回Meet-Upsに登壇されるということで、出会いたい企業さまなどはありますか。
田中氏:
案件の大小関わらずコンシューマーゲームを作りたい方にお声をかけていただきたいです。今すぐにラインが空いているというわけではないので、ちょっとお待ちいただかないといけないんですが、お話から是非させていただければと思います。
――ありがとうございました。
[聞き手: Minoru Umise]
GTMF(Game Tools & Middleware Forum)はアプリ・ゲーム開発・運営に関わるソリューションが一堂に会するイベント。2003年にスタートし、今年で15年目。大阪会場は2017年6月30日、東京会場(事前登録受付中)は7月14日に開催。