なぜ今ゲーム効果音を外注するといいのか、音響効果を専門とする株式会社コネクテコ北村一樹氏が語る。GTMF 2017 Meet-Ups
ゲーム開発ツール&ミドルウェアの祭典「GTMF(Game Tools & Middleware Forum)」内で開催される「Meet-Ups」に登壇した開発者にフォーカスを当てインタビューするこの企画。第三弾は株式会社コネクテコの代表取締役社長北村一樹氏にお話をうかがった。
昨今ではキャリアを積んだゲーム作曲家が、自分の会社を立ち上げ、フリーランスとして活躍を見せている。北村氏もそうしたクリエイターのひとりであるといえる。しかし北村氏が担当しているのは、作曲ではなく、効果音や環境音など全般的なサウンドエフェクトだ。サウンドエフェクトを外注する利点や音響の在り方について、北村氏に語っていただいた。
――自己紹介していただけますか。
北村一樹氏(以下、北村氏):
株式会社コネクテコの代表取締役、北村一樹と申します。弊社は基本的には効果音を扱う会社です。エコーや(音の響き)をテクノロジーでコミットコネクトするというところから社名の由来からスタートしています。効果音というものは、音単体だけでは、意味をもたせるのは難しいんです。楽曲は感動や恐怖感に直結しますが、効果音は音ひとつだけだと、感情と結びつかないんです。鳴らし方を工夫して提供することで、ゲームのなかにあるエモーショナルな部分を、楽曲だけでなく、さらにもう一歩踏み込んだ形で伝えていけるんじゃないかなと思っています。
――「サウンドの制御」を重要視されていますよね。
北村氏:
効果音やボイスを主に扱うなかで、楽曲が激しくなっているところで、「この声をしっかり聞かせなきゃいけない」という場面はゲームのなかでよくあると思うんです。その場合はセリフのボイスをぐっと上げて楽曲の音量を下げたりしますよね。ほかにもよくあるのは洞窟の中で空間の響きを切り替えるような手法もあります。洞窟から森に出ると響きが収まって、環境音と同時に響きのないクリアな音が聞こえてくる。そういったゲームのシーンに合わせた音響的な部分の変化を設計し、提供していきたいと思っています。そういったものはゼロから組むのは大変なんですが、オーディオキネティックさんの「Wwise」を代表としたオーディオミドルウェアを使うことで、比較的簡単にいろんなゲームに提供していくことができます。
――環境音や効果音は地味に見られがちですが、ゲームの没入感に直結する重要な要素ですよね。その部分をビジネスとしてやっていこうと考えられたきっかけはなんでしょうか。
北村氏:
私は、前職はカプコンでサウンドデザイナーをやっていました。そこでは音響的な案件は、外部の会社様に出せないものが多かったんですよね。というのも、インハウスのゲームプランナーやアーティストの方たちと密接にコミュニケーションをしないとやっていけないので、外注しにくいんです。一方で、外注できたらすごく内部的にもまわせるタイトルの数も上がりますし、クオリティもキープできますよね。そういった外部協力会社さんがいればいいなと自分自身が思っていたんです。それならば、自分でやっちゃえ、というところから会社を立ち上げてスタートしました。
――楽曲を手がける作曲家の方がゲーム会社を離れて独立するケースは見られるんですが、効果音を手がける方で独立して会社を立ち上げられることはあまりないですよね。
北村氏:
そうですね。数は多くないと思います。特に、専門でやっているところは、ほぼほぼないかなと思います。
――コネクテコさんは(音響効果)専門ですか。
北村氏:
専門です。楽曲に関しては一切手を出さない。楽曲を提供する会社さんをご紹介することはできるんですが、そこに指示を出したりはしません。紹介して、楽曲を作っていただいて、その楽曲データを実装させていただくことで協力することはあるんですが、楽曲を制作するという点では、専門のところにお願いしたほうがいいと思っています。
――コネクテコさんに音響について頼んで、そのうえでコネクテコさんとうまく連携される楽曲会社を紹介していただく、といったことは可能であると。
北村氏:
そうですね。紹介させていただくことはできます。そういうところで(紹介料など)何か発生するということはないですね。ただ紹介させていただくだけです。
――楽曲については、誰が作ったというブランドのようなものがあると思うんです。サウンドエフェクトもそういったブランドが業界内であるものなんですか。
北村氏:
ほとんどないんじゃないかなと思います。僕はサウンドエフェクトに関しては、ゲーム業界全体の水準を押し上げていきたいと思っています。個々がブランド化されるというよりも、横のつながりで全体を底上げしていけたらなと思っています。業界のなかでオーディオの価値も上がりますし、コンテンツの価値も上がりますよね。わかりやすいところでいうと、アカデミー賞のサウンドエフェクトの部門(Academy Award for Sound Editing)で、日本人は過去に一度も受賞経験がないんですよ。楽作曲ではあるんですけど。それだけ今、立場が弱く価値が認められていないんです。そこのステータスをアップさせていきたいと思います。
――サウンドエフェクトというのは、欧米ではもっと確立された分野であると。
北村氏:
はい、確立されていますね。
――だからこそ、もっと向上させたいんですね。ところで、サウンドエフェクトは開発スタッフと密接なコミュニケーションが必要なので、外注しにくいと仰っていましたよね。その課題はどのように解決されますか。
北村氏:
そういった仕事がスタートした場合には、キックオフ期間はガッツリ出向させていただいて、そこで実際にどういう課題があるか、どういうゲームのビジョンがあるか、どういうことをやっていきたいかみたいなところは、お話しながら膨らませていくんです。その期間中にゲームをプランする人もそうですし、ビジュアルのパートの人もそうですし、サウンド以外の人とも関係性を築いていって、最終的にどういう形でサウンドがはまりこむのがいいというのを模索してきましたます。その中で向こうクライアントのチームの方にも自分について知っていただければといいと思っています。
――準備期間を長く設けて出向し、本作業は持ち帰ってスタジオでやっていくと。
北村氏:
そうですね。キックオフの期間に、システムのベースとなる設計などもしていきますんで、本制作の段階に入れば、ある意味オートに進められるようにしたいなと思っています。重要なフェイズとしては、スタートアップと量産機とマスターアップの時期があります。最後のマスターアップの時期に、スタートアップの時期と同様に実際に出向させていただいて、最後のブラッシュアップを納得いくまで密接にやりとりしていくようにしています。
――受注して終わらせて送る、ではなく、受注して実際に出向して調整していくというのは、非常に現代的ですよね。
北村氏:
そうですね。どんどん入り込んでナンボだと思っています。
――コネクテコの従業員は北村さまだけですか。
北村氏:
弊社は私と、プログラマーがひとりいるという形です。今後増員の予定はある感じです。
――なるほど。たとえば今どういう企業さんとお仕事したいと思っておられますか。
北村氏:
「音に対して何をしていいかわからない、はじめの一歩をどうしていいかわからない」という方や、ゲームサウンドといって「曲」としか出てこない会社があったら、弊社と一緒にやらせていただければ、今まで想像していなかったような方向からのアプローチができるかなと思います。
――どういった規模の会社にも対応できると。
北村氏:
はい、大きさや規模に関わらず、ですね。
――今やサウンドもゲームエンジンと密接な関係があると思うんですが、そういった部分もサポートされていますか。
北村氏:
もちろんです。今のところ、UnityもUnreal Engine 4両方でのインテグレート経験があります。そことつながりながら作業をおこなっていきますね。
――公式ホームページの説明を見ると「いろんなことができる」というイメージでしたが、実はサウンドエフェクトのスペシャリストなんですね。
北村氏:
そうなんです。公式ホームページの説明はふわっとした感じですよね(笑)10月の中旬に弊社のスタジオがオープンするので、ホームページはその時に改装する予定です。(笑)
――期待しています、ありがとうございました。
[聞き手: Minoru Umise]
[写真: Shinji Sawa]
GTMF(Game Tools & Middleware Forum)はアプリ・ゲーム開発・運営に関わるソリューションが一堂に会するイベント。2003年にスタートし、今年で15年目。大阪会場は2017年6月30日、東京会場(事前登録受付中)は7月14日に開催。