電話を通じて夢世界をさまようADV『Strange Telephone』はなぜ作り直しになったのか? yuta氏が語る個人制作の苦悩とこだわり

電話をかけて少女が異世界を探索するというアドベンチャーゲーム『Strange Telephone』の開発者yuta氏にインタビューし、誕生のきっかけや個人制作における苦悩やこだわりなど、さまざまなお話をうかがった。

「作って壊して」を何万回も

 
――洗練されているように見えるビジュアルも、作って壊しての繰り返しだったんですね。

yuta氏:
たぶん、何千回も何万回もやっていると思います(笑)。iPhoneに移して操作して、パソコンでも操作してみて。一応パソコンもマックも同じ操作でできるように意識してます。

 
――お話を聞いている限り、作って壊しての繰り返しや徹底したドット打ちなど、底知れぬ情熱が感じられるんですが、苦悩などはあったのでしょうか。

yuta氏:
ありましたよ。とにかく長引いたので、そこに苦しみました。ネガティブな話になってしまうんですが、はやく『Strange Telephone』を終わらせたい気持ちです。(笑)

 
――(笑)

yuta氏:
でも、適当に作ろうなんて思ってません。作ることも好きなんですけど、もういい加減完成させないと自分の意識がもたないっていう状態です。今も結構ネガティブな感じがきていて。

 
――ゲーム作りにかぎらず、ひとつの仕事が長引いてしまうとしんどいですよね。半端に終わらせられないですし、モチベーションを保つのも難しくなってきて。

yuta氏:
そういう状況で、どんどんビルドを出していける人もいて、そういう人はすごいなと。僕はできないんですよね。「なんかここ違うな」って思って留まっちゃうんです。それがいい方向に進んでいるのであればいいんですけど。

前作であるメテオプリンセスは飛び降りるお姫様を操作するモバイルゲーム。(現在は配信停止中)
前作であるメテオプリンセスは飛び降りるお姫様を操作するモバイルゲーム。(現在は配信停止中)

 
――ユーザーとして『Strange Telephone』を見ている感じでは、あまり迷いなどは感じられない印象だったので、少し意外です。SNSでの発信力が強いだけに。

yuta氏:
SNSやネット上には「いけたな」と思えたものばかりあげていますので(笑)。だめなやつはあげないんですよ。なので、見る側からすれば「どんどんできてるな」って思うかもしれないんですけど、裏では何千何万回も作り直して初めてTwitterにアップしているんです。開発者あるあるだと思います。(笑)

 
――(笑)そういえば『Strange Telephone』を遊ばせていただいた時、絵作りだけでなく、オブジェクトをさわるとそれぞれ異なる音が鳴るのが面白いと感じました。サウンドにも遊び心を込めましたか。

yuta氏:
ゲームっぽい音ってあると思うんです。「ピコーン」みたいな。ああいう音に縛られてる人が多いなと感じていました。明らかに合ってないのにピコーンって鳴らしてるゲームよく見るんですよね。僕はそういった部分では「カシャッ」っていう音が鳴るようにしてるんです。たとえば、キーボードをタッチした時の音も「ピコーン」と鳴らないと思うんです。ちょっと昔の名残なのかな、と。もっと自然に受け入れられる音というのを意識しています。

ちなみに(カシャッという音は)ただのドラムの音なんです。Macに標準で搭載されている「GarageBand」というDTMを使ってるんですけど、それのプリセットで作ってます。あと8bit表現をする時は「Magical 8bit Plug」というYMCKさんが出しているプラグインと、GarageBandを使ってエフェクトを作っているんですけど、自然と気持ちよくボタンを押せるような、世界観の邪魔をしない音というのを意識しています。

 
――8bitから身近な音まで、幅広いサウンドを取り入れてハイブリッドな表現を導入しているんですね。

yuta氏:
僕はピクセルアートに関しては1ドット単位のこだわりがあるんです。音楽に関してはもちろん8bit系のチップチューン音楽は好きなんですけど、僕自身が作る場合は、そこにあまりとどめないほうが、狭くならないのかなと。ドラムの音などリアルな音源を使いつつ、ピコピコ音も使うというハイブリットなものを意識しています。

 

仕事とゲーム作りの同時進行

 
――開発環境についてお話させてください。Love2dというツールをさきほど少し紹介していただきましたが、どのように選んだのですか?

yuta氏:
さっきの話の続きみたいなものなんですが、libGDXっていうのを使ってて、やめた段階で、クロスプラットフォームという形で、WindowsとMacとiOS、Androidで一発でコードをかけばどの端末でも同じ動作をしてくれるものをいつも探していました。Love2dを見つけたきっかけは検索ですね。ひたすら検索かけてました。海外のサイト見まくって。日本だけだと結構限定されちゃうので、海外のゲームエンジンで最近の流行とかないかなあと調べてましたね。今、多くの開発者がUnityでゲームを開発されていると思うのですが、Unityはもともと3Dゲームの開発に特化している物で、僕のように2Dドット絵をピクセル単位で動かす場合、少しだけ手間と時間がかかってしまうんです。その点Love2dは手早くピクセル単位のゲームを作ることができます。もし今後3Dゲームを開発する時にはUnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンを使わせてもらうと思いますが、各ライブラリやゲームエンジンには得意不得意があるんですよね。

それと、もともと僕はiアプリを作っていたので、プログラムとか自分で組みたいんですよ。そっちのほうが早いですし、直接的な表現ができるので。そういうプログラムをフルで書けるのがないかなと探している時にLove2dを見つけたんです。もともと言語はJavaを使ってたんですけど、Love2dはLuaっていう言語なんですよ。実際に描いてみると、特別な機能はないんですが何でもできちゃう感じです。なので、クロスプラットフォームという条件と自分でコードを書けるというところ、ドット絵にも綺麗に対応できるという点で選びました。

Love2dは2Dゲームの制作に適した無料のゲームエンジンだ。
Love2dは2Dゲームの制作に適した無料のゲームエンジンだ。

 
――ゲームエンジンや開発環境においては、人口が多ければ情報のシェアによって助けられるということも多いのではないかなと思っていました。何かエラーあればTwitterに投稿すれば反応が返ってきたり。Love2dでトラブルが起きた際はどう対処されていたのでしょうか。

yuta氏:
Love2dは、本当に日本人で使っている人が少ないんですよ。なので、常に手探り状態です。唯一チュートリアルのようなものを作っている方が二人 いるくらいで。僕は英語が得意じゃないんで、なんとか翻訳しながら検索で調べてます。あとはソースコードは言語関係無く全然読めるのでそれを利用したり。むしろ僕自身が開拓者、発信者になっていくチャンスだなと思ったんですよ、逆に。

それと、もう一人hakoさんっていうゲームを作っている方がいるんですが、その人にLove2dを薦めていて、彼が先に『ColorFinder』っていうゲームをリリースしたんですよ。そういった感じで共有したりとか、自分自身が発信者になってうまく良さ を伝えられたらいいなと思ってその彼と一緒にハッシュタグを作ったんです。#Love2d_jpという日本向けのLove2dの情報共有ハッシュタグです。さらにそこで情報共有しようとしていたら、Love2dの翻訳を無償でされている有志の方とつながりまして。ちょっとしたコミュニティみたいなものができまして、今は開発しつつ徐々に布教中ですね。(笑)

 
――やはり、一人で開発することの苦悩はあるのでしょうか。

yuta氏:
かなりありますね、苦しみは。寂しい気持ちも勿論、時々あります。「俺は一人でやるよ」といつも思ってるんですけど、モチベーションが落ちてくると「仲間っていいな」って感情にはなりますね。人間なので、多少はあります。

 
――人とのつながりは心の支えにはなりますよね。

yuta氏:
そうですね。でも、完全にひとりで制作していて、自分が表現したいものをっていう考えで『Strange Telephone』は作っているので、このゲームに関しては誰かに根本を手伝ってほしいとは思わないんですよね。それと、BitSummitに2回出展させていただくと結構顔見知りが増えたりして、いろんなインディーゲームの開発者さんとは結構繋がったりします。「どうも、また会いましたね」みたいな。そういう方々と会うとモチベーションも上がるので、そういう機会がゼロだと厳しいかもしれません。

 
――yutaさんは、はてなブログでも日記を書かれていますよね。日記の中で、仕事をやめられたというお話がありました。お仕事をやめられてから開発ペースとか自分の調子がよくなったというのはありますか。

yuta氏:
無職はひとまず今年いっぱいにしたいんです。(笑)正直どうなるかわからないですが、来年はゲーム開発で食べられるように動いていくつもりです。仕事をやめると、開発をする時間は圧倒的に増えますが、やらないって選択肢もあるじゃないですか。なので、そういう自由はやばいなとは思いましたね。今日で1か月ちょっとやめてから経ってるんですけど、自分がやるかやらないかという辛さがあるんだなと思ったりもしました。

あと、無職だから病気にならないわけじゃないので(笑)。体調管理も意識しないとだめだなと思います。これも開発者あるあるなんですけど、モチベーションの維持って本当に大変で。ブログみたいな掃き溜めがないとやってられないですね。

yuta氏はピクセルアートを使ったさまざまなゲームを開発している。
yuta氏はピクセルアートを使ったさまざまなゲームを開発している。

 
――仕事をされていた時期はどのようなスケジュールで開発を進められていましたか。

yuta氏:
一番働いていた時だと朝7時から20時前後まで働いて、帰って風呂とご飯。早いときは21時ぐらいから1時2時ぐらいまで開発をして、寝て、朝起きて仕事、の繰り返しでした。

 
――なかなかハードな生活ですね。開発の進みはどうでしたか。

yuta氏:
仕事中うとうとしてしまってましたね。会社には事情を話して、前から僕が開発していたのは知っていたので時間を減らしてもらったり、たとえばイベントのときは有給取ったりしてやってたんですけど、基本的にほぼ進まないです。僕の場合は、特に時間をかけて考える必要があるんです。人それぞれ開発スタイルは違うと思うんですけど、僕は結構長い時間考えて、本当にただ単に寝て起きたらひらめくみたいなこともあるんです。考える時間がすごく必要な人間なので、仕事をしながらは相当辛かったです。毎日同じことの繰り返しです。1週間ずっと同じバグに取り組むこともありました。

 
――今日もあのバグを倒せなかった、の毎日ですか。

yuta氏:
そうですね。なんか日が変わるとリセットされちゃうので、自分で書いたプログラムも忘れちゃうんですよ。とにかく時間が欲しいとは思ってました。

 
――仕事をしながら開発するうえでよい点はありましたか。

yuta氏:
そんなにはなかったですね。(苦笑)でもまあ仕事してるからいいか、みたいな気持ちはありました。「作業が進まなくても仕事でお金は稼いでるから」という意識があるので心の余裕ってものがある意味あったのかもしれないです。なので、完全にこの開発だけになると、やることがこれしかないし、これをやらきゃいけない、なんだか使命のような気持ちです。どんなにいやで、今日はやりたくないって時も、それをやるしかないっていう状況なので、そういう意味では仕事をしている時は逃げ場があったかなと感じます。

前職は開発に関係なくて、スポーツ用品とかアウトドア用品とかを取り扱ってたんですが、まったく異なる刺激があってよかったです。でも開発自体はそんなに進まなかったので、どっちもどっちって感じですね、結局(笑)。ただ、そうしたプレッシャーの中で、責任のある中で作るものって、すごくいいものが絶対できると思うんですよね。

 
――プレッシャーという意味ではリリース時期について何度も言及されていますよね。yutaさん自身が急いでいるようにも見えます。

yuta氏:
自分を追い込むっていう意味でも言っています。僕は2016年内にリリースとか言っていましたが、最終的には年明けになりました。

 
――展開されるプラットフォームなどを教えていただけますか。

yuta氏:
まずはモバイルですね。iOSとAndroidは先行で出します。価格は500円前後にするというのも決めてます。で、PC版はまだ全然やってないんですけど、キーボード操作とかパッド操作とか、配布方法も決めている最中です。たとえばSteamってどうすればいいんだろうっていう状況なので、そこの選定などをしています。同じ操作もできるけどいろいろあったほうがいいので、キーパッドとかコントローラーなどで操作できるようにしてからリリースなので、たぶんPC版は2017年以降ですね。

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――僕がプレイさせていただいた感じでは、マウス操作が一番やりやすいのかなと思いました。

yuta氏:
そうですね。普段PCでデバッグしているので、そのままPC上で操作して動作チェックもしています。一応、PCのマウスとスマホのタッチパネル両方で操作できるように心がけています。

 
――PC版についても教えていただけますか。

yuta氏:
PC版は一番リリースしやすいんですよ。というのも、簡単にリリースのビルドが作れたりするんです。iOSとかは年会費払ったりとかAndroidも初回費用払う必要がありますけど、PC版はそういうのがなかったりするので、配信はしやすいんです。ただ、人によってはたぶんコントローラーでやりたい、コントローラーじゃなきゃ嫌だって言う人もいるので調整が必要かなと。操作のオプションはちょっとマストで。

 
――いろんな操作の形がありますもんね、PCは。

yuta氏:
そこの幅は広げた方がいいので、そこは対応していくつもりです。どういう感じで実装するかもまだ考えてないんですけど、そんなに遠くないうちに必ずリリースはします。

 
――Steamでも発売されるのは確定と。

yuta氏:
できればそうしたいです。でもiOSとAndroidは自分でぱっとリリースができる状態なのでそれが先行なのは間違いないです。

 
――最後に、『Strange Telephone』の発売を待っているユーザーにメッセージをお願いします。

yuta氏:
まず2015年4月から待っていただいている方もいると思いますが、もうそろそろ発売できそうです。何度もリリースすると言ってなかなかできずに申し訳ありません……。今度こそ本当にリリースしますので。今、有料アプリが無料アプリに押されている感じがするんですけど、長い期間をかけて、皆さんが楽しめるようなものになんとか仕上げていますので、是非リリースされたら遊んで感想をいただけたら嬉しいなと思います。

 
――ありがとうございました。

『Strange Telephone』は1月下旬にiOS/Andorid向けにリリース予定だ。PC版もそう遠くない未来に発売されるとのこと。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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