電話を通じて夢世界をさまようADV『Strange Telephone』はなぜ作り直しになったのか? yuta氏が語る個人制作の苦悩とこだわり

電話をかけて少女が異世界を探索するというアドベンチャーゲーム『Strange Telephone』の開発者yuta氏にインタビューし、誕生のきっかけや個人制作における苦悩やこだわりなど、さまざまなお話をうかがった。

ピクセルアートで描かれた可憐な少女が薄暗い部屋に立ちつくす。iOS/Android/PC向けアドベンチャーゲーム『Strange Telephone』のシンプルながら不気味さとかわいらしさがまじりあう奇妙なスクリーンショットを見て、心惹かれたユーザーは少なくないだろう。個人クリエイターyuta氏が手がけるこのアドベンチャーゲームは、個人制作ながらもSNSを中心に根強い期待を集めている。2015年にプロジェクトの開始が発表されて1年半、ついにリリースを迎えようとしている。

少女を操作し、電話をかけることで異世界を探索するというアドベンチャーゲームの誕生のきっかけ。姿形を変えたのはどのような経緯。個人制作における苦悩やこだわり。さまざまな疑問に答えてもらった。ゲーム開発には困難つきもの。『Strange Telephone』も例外ではなかった。

 

すべて独学のゲーム作り

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――本日はよろしくおねがいします。

yuta氏:
yutaと申します、本日はよろしくお願いいたします。

 
――現在手がけているゲームの紹介をしていただけますか。

yuta氏:
現在開発しているゲームは『Strange Telephone』という名前で、かれこれ1年半以上開発しています。主人公は「ジル」という女の子で、彼女は電話のキャラクター「グラハム」が作り出した世界に閉じ込められてしまいます。スクリーンショットなどを見ればわかると思うんですけど、ジルは大きな扉の前にいます。ジルはその世界の中に閉じ込められていて、基本的にはその場所から移動することはできません。グラハムを通して電話することで、いろんな世界が電話越しに再現され、そのなかを探索することができるという設定です。扉の目の前からは動けませんが、その電話越しに聞いている世界を探索しながら、世界から抜け出す鍵を見つけ出すというストーリーになっています。

 
――そもそもゲーム作りはいつから始められましたか。

yuta氏:
もともと中学3年生ぐらいの時から、ずっとひとりでゲームを作っているんです。iアプリというdocomoのアプリがありまして、そこから開発を始めたんです。始めたきっかけは、まずゲームが好きということ。でもゲームを遊んでいると、こんなゲーム作りたいなと思うようになったんです。たぶんそういう人は多いと思います。きっかけになったのは、iアプリの「STG CIRCLE」というシューティングゲームを作れるゲームで、ドット絵打ったり、スクリプトを組んだり、サーバーに送受信して他の人のゲームをプレイできたりとさまざまなことがアプリ内でできるんです。そこで作っていたものを、さらに自由にやりたいなと思ってプログラムとかを勉強し始めたという流れですね。

 
――ということは、ゲーム制作は完全に独学ですか。

yuta氏:
基本的には独学ですが、昔出会ったプログラミングの師匠はいます。ひとりでやる理由としては、独自性や世界観の統一などがあります。たとえば、『Strange Telephone』の雰囲気についてほめてくださる方がいますが、それはたぶんひとりで作っているから世界が統一できるのかなと。さらにとことんこだわれる良さがあります。

 
――そういった独学でゲーム作りをされてきたなかで、『Strange Telephone』を開発しようとしたきっかけは。

yuta氏:

ゲームの開発を始めたころに、インディーゲームというジャンルが日本でも流行り始めて、自分もそういう独特のタイトルを作ってみたいなと思いました。身近なものから開発のヒントを探すっていうのはよくあることだと思うんですけど、電話を使ったゲームがいいんじゃないかなと思い開発を始めました。

 
――電話を使って、見知らぬ番号にかけていくと。

yuta氏:
うろ覚えなんですけど、面白い電話番号って結構世の中にあるじゃないですか。かけるとお化けが出るみたいな。

 
――都市伝説みたいなやつですね(笑)

yuta氏:
あれですね(笑)。最初に作っていた頃は電話をかけると何かが起きるだけでしたが、最新版では、グラハムという電話越しに話を聞くことでワールドを表現するという設定ですね。いろんなワールドが自動で生成される仕組みは、いろんなモノと電話で話しているというイメージです。

 
――『Strange Telephone』って、英語サイトだと「イタズラ電話」という言葉が出てきたりするんですが、てっきりyutaさんがイタズラ電話が好きなのかなと(笑)

yuta氏:
違います(笑)。確かに検索すると変な画像が出てきたりしますが。そもそも個人的には電話をかける機会が減りました。

電話に数字を打ち込むと、不思議な世界へとつながる。
電話に数字を打ち込むと、不思議な世界へとつながる。

 
――『Strange Telephone』は今までのキャリアのなかでどの程度の規模になりましたか。

yuta氏:
間違いなく一番です(笑)

 
――(笑)

yuta氏:
というのも、僕が開発してきたゲームってミニゲームものばかりなんですよね。自動の横スクロールみたいな。それこそ最近リリースされた『スーパーマリオラン』じゃないですけど(笑)。そういうゲームをちょこちょこ作ってて、『Strange Telephone』を大きいタイトルにしようとは思ってなかったんですよ。最初はただ電話をかけると、その部屋に何かが起きるっていうだけのゲームだったんですけど、開発していく上でどんどん膨らんでいって。最初からこういう世界にしたいっていうのがあったわけではなくて、こういう世界にしていきたいなっていう構想がどんどん固まってきたという感じです。

 
――作っているうちに、いろんなアイディアが生まれて広がってきたと。

yuta氏:
そうですね。開発が長引いている理由のひとつとしては、経験を重ねていくことで2年前の僕よりも成長しているのが大きいですね。絵やプログラムなど、かなり成長したなと自分でも実感していて、そうなるとどんどん実装できることも増えていくんですよ。「あ、これできるな、今だったら」みたいな。2年前できなかったことが、今はできちゃう。それで、いろいろ実装が増えていって、長引いてしまっているんです。

 
――確かに、ゲームを発表されてから時間が経ちましたね。

yuta氏:
もう少しで2年ですね。2015年の4月に最初のビルドのアニメーションをTwitterにあげました。今まで作ってきたゲームの画像はそれほど反響なかったんですけど、『Strange Telephone』は初動から注目していただけたんです。イイネとかリツイートが多くて、なんかちょっとテンション上がるなって(笑)その勢いで、どんどん開発が進んでいきまして。

 
――さまざまなメディアで取り上げられましたよね。

yuta氏:
僕は基本Twitterをメインに開発状況をあげているんですけど、意外と見てない方っていっぱいいらっしゃって、メディアさんにニュース記事を書いてもらって「こんなアプリあるんだ」って言ってくれる人とかが多いなと感じてます。自分だけで発信するのは大変だなと。

 

環境を変えたかった

 
――開発のことでひとつ気になっていることがあるんですが、2015年のBitSummit出展時と2016年のBitSummit出展時とでは、ゲームの雰囲気が大きく変わりましたよね。なぜそういった変化があったんですか?

yuta氏:
開発環境が変わったんです。「libGDX」というJavaの開発環境をずっと使っていたんですが、その途中で結構いろいろゴタゴタがありまして。libGDXはEclipseやIntelliJという統合開発環境でコードを書くのですが、それが何かと不具合を起こすことが多かったりlibGDXのバージョンが上がった時に対応しにくかったりということがありました。あとlibGDXはiOS対応をするためにRoboVMというJavaからObjective-C(iOSで動くプログラム)に変換するツールを導入していたのですがMicrosoftによる買収によりゴタゴタがありまして……せっかく作っているものが万が一動かなくなるような環境に不安を覚え別の環境に変えようと決意しました。ちなみに、libGDXの前に使っていたのは、Android向けのOpenGL ESです。PC向けにはJavaでOpenGLのコードを書けるLWJGL(Lightweight Java Game Library)を使っていました。

そういった理由で結構、開発する気というか、モチベーションが落ちてしまって、何か月か休んだんです。そのタイミングで、このままじゃたぶんもう持ち直せないと思って、開発環境とグラフィックを一新しようと思いまして。軽い気持ちだったんですけど。

 
――ほぼ作り直しですよね。かなりエネルギーがいることだったのでは。

yuta氏:
そうですね。今までのグラフィックのほう がよかったって人もいると思うんですけど、それ以上に自分のモチベーション上げるためであったり、大きいタイトルとして作るならば前々からこのグラフィックでは弱いなと自分のなかでは思っていたんです。ゲームにグラフィックはあまり関係ないって言う人もいますが、僕としては結構グラフィックも重要視していて。最終的に開発環境をLÖVE(以下、Love2d)というツールに変えて、グラフィックをSNSにアップしていたら、海外の有名なドッターさんがDMをくれて、「こんなグラフィックがいいんじゃない」と、修正してくれたやつを送ってくれたんです。一枚だけなんですけど「ドット絵ってピクセルが少しずれるだけでこんなに印象が変わるんだなあ、すごいなあ」と感銘を受けました。そこから全部書き直そうと思いました。それも大きなきっかけです。

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――2016年のビジュアルももちろん、かわいらしいのですが、2015年のビジュアルがボツになってしまうのはもったいないと感じなかったのですか?

yuta氏:
あのビジュアルが嫌いというわけではなかったんです。むしろ好きなんですよね。あのリソースは、有効活用しようかなと思ってるんです(笑)。僕も思い入れがないといえば嘘になりますよね。いまでも見て「懐かしいなあ」と感じます。あのリソースは無駄じゃないようにするつもりです。

 
――なんらかの形で見られるかもしれない、と。

yuta氏:
かもしれないですね(笑)

 
――期待しています(笑)。ところで、2015年に『Strange Telephone』が出てきた時は、「かわいらしいけれど狂気も秘めている」という作風として紹介されていましたよね。2016年の『Strange Telephone』では、そういったホラー色がやや薄まっているような印象も受けました。作り直しの時にそういった方向性も修正されたんでしょうか。

yuta氏:
前のバージョンだと、電話番号を間違えると闇が迫ってきて飲み込まれるという演出もあったんですけど、一応それも別の形で入れるつもりです。でも、完全にホラーを作りたいと思っているわけじゃなくて、そもそも実はホラーゲームが苦手で(笑)

 
――(笑)

yuta氏:
『ゆめにっき』に似ているというのはよく言われます。実際僕も『ゆめにっき』が好きですし、いろんなゲームから影響を受けてます。ただ単にサイケな感じですよというよりは、独特な世界をどうやって作ろうかなと。自分の中の考えを表現している感じですね。

 
――かわいくもあったり、怖くもあったり、さまざまなジャンルが混合していて、形容し難い世界ですよね、いい意味で。

yuta氏:
確かに難しいですね。あとは、今のグラフィックよりも前の方がかわいいと言われるんですが、今のキャラクターもかわいいようには描いていて、グラハムとか含めてみんなキャラクターとして生きている感じには表現しています。血みどろという感じの完全なホラーという風にはしたくないなと(笑)

 
――かわいらしさは開発当初から徹底していますよね。デザインのスキルはどのように培いましたか?

yuta氏:
仕事とかではないので、それも全部独学です。今の『Strange Telephone』は最初の頃には描けなかったドット絵だと思います。ドット絵のいいところは、1ドットずつ調整できること。1ドットのずれで印象が変わるので、時間かけてひとつずつピクセルをずらし、悩みながらやっていると、結構いいものが生まれてきたりします。今は感覚がついているので、こんな感じに打てばこんな感じに見えるだろうなというのがわかります。開発を進めて描いていくことで学びました。

あとは、ドット絵にこだわらずいろんなイラストを見たり、いろんなゲーム、いろんな作品から取り入れようと努力してますね。

設定の段階から、魅力的なビジュアルの素地が出来上がっていたようだ。
設定の段階から、魅力的なビジュアルの素地が出来上がっていたようだ。

 
――デザインも独学ですか。実際にゲームに導入したデザインは何を参考にされましたか。

yuta氏:
ゲーム中にはボタンやスイッチが出てくるんですが、ああいうアイテムもこうしたら気持ちいい操作ができるかなとか、そういうのを考えてやっています。なので、感覚っちゃ感覚なんです。でも一応経験に基づいてできているのかなとは思います。今までいろんなものを作ってきたので。

デザイン面ではあまり苦しむことはなかったのですが、個人的には操作のほうで苦労しましたね。 というのも、タッチパネルって結構難しいんですよね。スマホやタブレットのゲームで、バーチャルパッドを実装するかしないかという話も、たびたび話題になってますよね。僕は、自分の作るゲームでは、バーチャルパッドは使わないほうがいいなと思ってるんです。というのは、2015年のBitSummitに出展した時、みんなタッチパネルさわる時にはスライドを使うんですよね。それを見て「バーチャルパッド失敗したな」と思ったんです。そこからユーザーインターフェースを意識するようになって、何度も何度も自分でスマホを操作して「微妙だな、スクロールも滑らかじゃないな」と思いながら全部プログラム側で調整して、ひたすらそれの繰り返しですね。そして徐々に洗練されていったという感じです。一発でここまで作れたわけではないです。

 

つづく: 個人制作ならではの悩み、コミュニティの存在など。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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