『Disintegration』メディア向け説明会レポート。『Halo』生みの親が描く、異色のFPS/RTSハイブリッド作品


Private Division/V1 Interactiveによる、『Disintegration(ディスインテグレーション)』のメディア向け説明会が今年3月に実施された。本稿ではそこで得られた情報を踏まえ、シングルプレイ、マルチプレイ、開発者Q&Aの3つに項目を分けて、本作がどのようなゲームなのか紹介していく。

『Disintegration』の開発を担当するのは、『Halo』の共同クリエイターとして知られるMarcus Lehto氏と、『SOCOM: U.S. Navy SEALs』などの開発に携わったMichael Gutmann氏が共同設立した独立系開発スタジオV1 Interactive。同作は、「Gravcycle(グラビサイクル)」と呼ばれるホバークラフトのパイロットとして一人称視点で機体を操縦しつつ、味方の歩行ユニットに指示を出すという、異色のFPS/RTSハイブリッドだ。約8〜10時間のシングルプレイキャンペーンと、チームベースのマルチプレイモードを収録し、2020年下半期、PlayStation 4/Xbox One/PC(Steam)向けに発売予定。リリース後には、対応言語に日本語が追加される。

 

人間の尊厳を巡る闘争描くシングルプレイ

同作の舞台となるのは、感染病の世界的流行や食糧不足などにより国家が崩壊した、近未来の地球。科学者たちは人類を滅亡の危機から救うべく、人間の脳を身体から取り出し、機械体に移植する統合手術(インテグレーション/機械転向)を編み出した。この技術により人類は延命に成功。本来は危機的局面を乗り切るための、一時的な対策として採用された機会転向技術であったが、次第に生身の人間に戻ることを拒み、機械転向こそが人類の未来であると考える者たちが現れ始めた。組織化した彼らは「Rayonne(レイヨン)」と名乗るようになり、残された生身の人間を捕獲しては機械転向を強要。従わない者を排除してまわっている。

機械転向済みの主人公Romer Shoal(ローマー・ショール)は、かつてグラビサイクルの凄腕パイロットとして名声を馳せた人物。機械転向処理を受け、アウトローとして活動していたところ、生身の人間である「Wagner」という人物に出会う。Wagnerの手引きにより反乱組織の一員となったローマーは、新たなグラビサイクルを授かることに。人類の尊厳を取り戻すべく、ローマーは仲間を連れて新興世界軍レイヨンとの闘争に参加する。ロッキー山脈の頂から、高層ビルがひしめく大都会、さらには灼熱の砂漠で 、敵であるレイヨンの本部を目指して戦うローマー。グラビサイクルのパイロットとして、武装機体の操縦および搭載武器を用いた戦闘をこなしつつ、指揮官として味方の歩行ユニットに移動・攻撃先の指定、アビリティ発動といった指示を出していく。

同行する歩行ユニットは最大4体。各ミッション前に、最適なアビリティを有するユニットを選択して出動する。各ユニットは、それぞれ異なるロードアウト、クールダウン制のアビリティを保有しており、それらを有効活用することで戦局を有利に展開。コンカッショングレネードによる範囲攻撃、敵をスローダウン化するフィールドの展開、迫撃砲による斉射など。いずれも敵ユニットを撃退する上で欠かせない力となる。また歩行ユニットは、自ら遮蔽物を使い 、攻撃するターゲットの優先順位を決め、自身とプレイヤーの身を守ることが可能だ。ただし、主人公ローマーの支援・指示がなければ、歩行ユニットはポテンシャルを存分に発揮できない。またダウンしたユニットを30秒以内に回収できないとゲームオーバー。両輪が噛み合うよう、指揮官としての力量が試される。なお歩行ユニットは単なる戦闘のコマではない。互いに会話したり、ミッション目標と接触したりと、戦闘内外で役目が与えられている。

『Halo』共同クリエイターが描く、人類の未来を巡る闘争。キャラクター間の交流、FPS/RTSのハイブリッド戦闘。これらを売りとするのが、『Disintegration』のシングルプレイキャンペーンである。

 

役割の異なる機体と小隊を操るマルチプレイ

同作のマルチプレイは5対5のチーム戦であり、3つのゲームモードを収録。各プレイヤーはマッチ開始前に、複数種あるクルー(同モードにおけるクラス)の中からひとつを選択する。精密射撃とミサイルにより安定した火力を出す「LOST RONIN」、操作性は悪いが耐久力が高く跳躍爆弾を発射できる「WARHEDZ」、味方を回復する「TECH NOIR」など、それぞれ機体の役割・性能・使用武器、そして同行する歩行ユニットの種類が異なる。クルー選択後は戦場に赴き、チームメイトである他プレイヤーと協力しながら、コントロールエリアの制圧、目的地への核コア輸送、倒した敵が落とす脳容器の回収と、ゲームモードに応じた目標の達成を目指す。

先述したシングルプレイキャンペーンでは、ユニットへの指示出し時に時間がスローダウンしたりと、FPS/RTSの両立が比較的容易であることが、これまでに公開された映像やベータテスト内のチュートリアルから感じ取れた。敵NPCのバランスも、FPS操作とユニット指示の並行作業を想定した塩梅となるはず。しかし瞬時の判断が求められるマルチプレイにおいて、FPS/RTSの両立というコンセプトを活かしきれるかどうかは、疑問の余地が残る。『Disintegration』の真価が問われる部分でもあるだろう。

今年1月〜2月に開催されたマルチプレイヤーモードのクローズド/オープンベータテストでは、ゲームモードとマップともに、グラビサイクル同士の空中戦ならではの魅力を感じにくく、FPSとRTS要素がうまく噛み合っていないという印象を受けた。たしかに、歩行ユニットによる敵機への与ダメージが高めに設定されていたりと、歩行ユニットを活用する動機は与えられていた。しかし、即座の判断が求められる対人戦でのFPS操作と、一人称視点での歩行ユニットへの指示出しをリアルタイムで並行するには限界があり、戦術性を発揮する機会は限られてくる。指示を出してからアビリティの発動までに時間差があるという、もどかしさも無視できなかった。また、プレイヤーが操作する機体と歩行ユニットの移動速度をあわせる必要性から、機体の移動速度は低速気味になりがち。総合的に「このゲームでなくてはならない」要素が欠けた低速FPSという印象を拭いきれないベータテストであった。

だが今回、メディア向け説明会の合同Q&Aセッションにて、ベータテストでの統計データや、プレイヤーからのフィードバックを受けて数々の調整を施し、いまではゲーム体験が大幅に変わっているという回答が開発者より得られた。ベータテスト時の『Disintegration』が肌にあわなかった方でも、製品版では楽しめるように化けているかもしれない。

そのほか合同Q&Aでは、物語のインスピレーション元、グラビサイクルやユニットの強化システム、クロスプラットフォーム対応やNintendo Switch展開の計画有無など、クリエイティブ・ディレクターのMarcus Lehto(マーカス・レート)氏が多岐に渡る疑問に答えてくれた。以下では、その内容を記載する。

 

メディア合同 開発者Q&A(シングルプレイ)

V1 Interactiveのクリエイティブ・ディレクターのMarcus Lehto氏

ーー物語のインスピレーション元について教えてください。

Lehto氏:
6年ほど前、Bungieを退社してゲームのフィクション部分に取りかかり始めたころにいくつかのテーマを検討しまして、その中で私の興味を引き続けたのが、『Disintegration』で採用したアイデアです。インスピレーションは、現実世界にて身のまわりで起きている事柄から得ていきました。テクノロジーの浸透と依存。それらを抑制することなく推し進めていくとどうなるのか。また、世界で起きている変化に対処しないままでいるとどうなるのか。そのふたつの考えを組み合わせていったところ、『Disintegration』の設定の土台を築く、極端な結論に行き着いたのです。

そこから生まれたのは、荒涼としたポストアポカリプスではなく、人類が困窮に瀕し自然がかつての姿を取り戻した世界です。美しい世界でありながらダークなテーマを内包しており、そこにキャラクターたちが作用することで、明るさがもたらされます。キャラクターたちは共通の問題を抱えており、互いを慕い、尊重し合っています。物語を通じて関係性を深めていくほか、道中ではユーモラスなやりとりが頻繁に交わされます。

ーー物語は主にカットシーンとゲームプレイのどちらを通じて描かれるのでしょうか。またプレイ時間のうちカットシーンはどれくらいでしょうか。

Lehto氏:
クリアまでの平均所要時間は8〜10時間で、カットシーンは約45分です。カットシーンを通じて物語の深部が語られるほか、ミッションのイントロ/アウトロ、ミッション中のキャラクター間の会話、そしてプレイヤー自身の発見によって物語への理解を深めていくこととなります。

ーーロマンス要素はありますか。

Lehto氏:
キャラクターたちは互いを慕っており、機械転向した仲間たちは、人間に戻りたいという共通の願いを抱いています。バーベキューやビールを楽しんだり、生身の人間であったころのように恋人をつくったり。そうした想いや性質こそが、彼らを魅力的なキャラクターたらしめているのです。ただ、ロマンスに関しては、ぜひゲームをプレイして確かめてください。

ーーオープンワールドとリニアなミッション。本作はどちらでしょうか。

Lehto氏:
完全なオープンワールドではありませんが、各ミッションには細道だけでなくひらけたエリアも多く、探索をしっかり楽しめるような構造になっています。また同一ミッションでも、攻略のアプローチを変えれば違った体験が得られるようになっています。

ーー戦闘時の歩行ユニットとグラビサイクルの重要度は、それぞれどれくらいなのでしょうか。

Lehto氏:
両者の関係性は、『Disintegration』を唯一無二の作品にする上で、私たちがもっとも時間をかけた要素のひとつです。同プロジェクトは最初、純粋なRTSゲームとして始まったのですが、そのままでは頭角を現すことが難しいと早い段階で気づき、俯瞰視点ではなく一人称視点に変え、プレイヤーをグラビサイクルのパイロットとして戦闘に参加させるよう変更しました。パイロットは、2種類の武器、もしくは1種類の武器とサポートアビリティを駆使して戦うことになります。

グラビサイクルおよび搭乗武器があなたの右手だとすれば、歩行ユニットは左手。両者があわさることでひとつのチーム、「クルー」になるのです。右手だけでゲームをプレイするのは、片手を後ろ手で縛った状態で戦場に突撃するようなものでしょう。両者は共生関係にあり、いずれもミッションを進める上で必要不可欠。本作をユニークな作品たらしめる要素なのです。

ーー本作の学習曲線はどうなっていますか。またプレイヤーにゲームメカニックを理解し、楽しんでもらうために、どのような工夫を施しましたか。

Lehto氏:
プレイヤーにとって情報過多にならないよう、コアメカニックの調整には時間をかけています。ゲームイベントでの試遊では、5分もすればグラビサイクルの操縦やユニットの操作を理解してもらえました。そのため導入ハードルは低めだと考えています。そこから奥深い部分まで学習を進めるには、マルチプレイモードなら数回マッチをこなす必要があります。シングルプレイキャンペーンに関しては、ユニットやアビリティの有効活用方法などを、段階を踏んで学べるようデザインされています。

ーーカバーを取っていた遮蔽物が破壊されると、歩行ユニットは別の場所へと移動するとのことですが、プレイヤーは歩行ユニットがどこに向かうのか、予測できるのでしょうか。

Lehto氏:
各ユニットの移動経路を事細かに画面表示するような方法は取っていません。視覚情報が多すぎると、FPSとタクティカル要素のスムーズな両立が難しくなるためです。プレイヤーが位置を指定してユニットに指示を出すと、各ユニットは指示された場所の一定範囲内でカバーを取るため、ある程度の予測は可能です。

ーーどのようにして、ゲームプレイに多様性をもたらす予定ですか。

Lehto氏:
同作にはさまざまな種類のミッションが含まれており、長い戦闘の後には息抜きできるような、浮き沈みをつくっています。ステルス系のミッションや、歩行ユニット抜きでの探索に重きを置いたパートもあります。

ーー同作に戦利品収集要素はありますか。特定の戦利品を手に入れるために、同じミッションを繰り返すといった。

Lehto氏:
同作にはそうした要素は含まれていません。

ーー戦闘ミッションの合間には、何ができるのでしょうか。たとえば、拠点に戻って仲間と過ごすことは可能でしょうか。

Lehto氏:
ミッション後には、ハブエリアに戻ることができます。登場人物のひとり「Wagner」の拠点内施設でグラビサイクルをアップグレードしたり、拠点内を三人称視点で移動して他のキャラクターと会話したり。ロボットNPCから、次のミッション用のチャレンジを受けることも可能で、チャレンジをこなすと報酬が得られます。

ーーハブエリアでのメイン/サイドミッション選択は可能でしょうか。

Lehto氏:
キャンペーンミッションをリプレイ可能にするよう、開発チームとして取り組んでいる最中です。ちなみにゲームの難易度は、簡単なストーリーモードから、最高難度のアウトローモードまで、現状4段階から選択できます。

ーーアップグレードシステムについて教えてください。

Lehto氏:
スキルツリーは、意図的に簡易なつくりにしています。ワールド内でアップグレードチップを見つけ、拠点に持ち帰り、各ユニットのクールダウンやアーマーなど計4種のスロットから選んで装着。プレイヤーが多用したいユニットを集中的に強化するなど、計画的なアップグレードが可能です。グラビサイクルのアップグレードも同様のことが言えます。キャンペーン後半のミッションに挑む上では、グラビサイクルや歩行ユニットの強化は不可欠となるでしょう。なおグラビサイクルのアップグレード状況は、機体を変えても引き継がれます。

マルチプレイに関しては、フェアな対戦環境を維持するため、ゲームプレイに影響を与えるようなグラビサイクルの購入・アップグレード機能は用意していません。

ーーシングルプレイキャンペーンを、Co-opで遊ぶことは可能ですか。

Lehto氏:
現状はできません。こちらに関しては、ローンチ後に言及いたします。

 

メディア合同 開発者Q&A(マルチプレイ/その他)

ーーFPS/RTSのシナジーを成立させるために、シングルプレイとマルチプレイで違ったアプローチを取っていますか。

Lehto氏:
シングルプレイもマルチプレイも根幹部分は同じですが、マルチプレイでは各プレイヤーが特定の役割を担うことになります。成功を掴む上では、チーム編成やコミュニケーションが重要。一方、シングルプレイでは自分のペースでゲームを進められ、どのような戦術を使って戦闘を乗り切るのか、戦場を観察して定めていく余裕があります。そして戦闘が終わればエリアを探索し、ゲームの世界および物語について理解を深めていけます。

またシングルプレイでは、サイズや形状の異なるバラエティ豊富な敵と戦うことになります。飛行タイプから巨大なボス級のキャラクターまで。敵対組織レイヨンが、テクノロジーを駆使してどのような機械体を生み出しているのか、キャンペーンの戦闘を通じて知れるようにもなっているのです。

ーー1月〜2月に開催されたベータテストの結果を受けて、どのような変更を検討していますか。

Lehto氏:
変更点は無数にあります。まずテクニカルベータの主な目的はサーバーのストレステストであり、欧州・北米サーバーの両方に極度の負荷をかけ、即断即決でどうサーバーを移管・強化していけるのか、大量のプレイヤーが押し寄せる中でネットワークのバックボーンがどう持ちこたえるのか、検証していきました。

もうひとつのテスト目的は、プレイヤーに楽しんでもらえるか確認することです。テスト期間を通じて、プレイ傾向、クルー間のバランス、発見されたエクスプロイト、使用感の改善が必要な箇所など、さまざまな統計データを得られました。また『Disintegration』のコミュニティからはたくさんのフィードバックが寄せられまして、それらを分類・整理した上でタスク化し、改善に向けて取り組んできました。そのため現在のゲーム体験は、テクニカルベータテストのころから大幅に変わっています。

ーーマルチプレイのクロスプラットフォーム対応は予定していますか。

Lehto氏:
話し合いの最中であり、現状は実装されていません。技術的なハードルは低く、スタジオとしての意向というよりは、各社の取り決め次第となります。

ーーNintendo Switch版のリリース予定はありますか。

Lehto氏:
あり得るかもしれません。検討してみたことはあります。

ーーローンチ後の長期ロードマップはありますか。

Lehto氏:
状況に応じて柔軟に対応できるようなロードマップを用意しています。ロードマップは主にマルチプレイを中心とした内容であり、新しいゲームモード、マップ、コスメティクスアイテムなどの追加を予定。実際にゲームを世に出し、プレイヤーが何を求めているのかわかれば、そこに力を注いでいきます。

ーークランチ(継続的な長時間労働)文化に屈することなく、小規模スタジオとしてAAA級のタイトルを開発するために、どのような措置を講じているのですか。

Lehto氏:
私がV1 Interactiveを創設した主な理由のひとつは、健全な職場環境を作り出すことです。私個人としても、高校生・大学生の子供と一緒に暮らしていられるうちに、共に時間を過ごせるようにしたかったんです。オフィス内外で健全な生活を送れることを常に重要視しており、必要なときに休みを取れる、さまざまなライフスタイルに応えられるスタジオにしたかったのです。健全な職場環境を維持するために、最善を尽くしていますよ。

そのほかにもQ&Aでは、新型コロナウイルスの流行を受けて在宅勤務となり、開発速度は遅くなったものの、いまでは概ね順応し、ゲームの完成に向けて尽力していること。そしてアジア圏向けのローカライズ対応を進めていることが明かされた。30人規模の少数精鋭スタジオで、健全な職場環境を維持しながらAAA級の高品質タイトルづくりを目指すという、野心的なプロジェクト『Disintegration』。FPS/RTSのハイブリッドというコンセプトを、どう仕上げていくのか注目していきたい。

『Disintegration』の対応プラットフォームはPlayStation 4/Xbox One/PC(Steam)。2020年下半期発売予定となっており、リリース後には対応言語に日本語が追加される。