「One Coin Gamer」 は、1コインつまりは定価500円以下で購入できるゲーム(ただしモバイル向けを除く)を紹介する連載企画。サクッとプレイできる良いゲームを求めている人、奇天烈なゲームを求めている人、とにかくお金を節約したい人たちに向け、魑魅魍魎の低価格帯ゲームを実際にプレイし、面白い面白くないに関わらず紹介してゆく。第7回でピックアップする『Gynophobia』は、ストアの説明どおりに言えば一人称視点のホラーシューターである。Steam(早期アクセス)での価格は398円で販売中。開発を手がけたのは、ウクライナ在住のAndrii“Gua”Vintsevych氏。氏は一人でCreashock Studiosとしてゲーム開発をおこなっている。過去には『Counter-Strike』のマップや、モバイル向けの作品をいくつかリリースしている。
プレイヤーは、とある恐怖症(といっても作品名にあるのだが)を持つ男の子「Mark」。オープニングや物語の簡単な説明などはなく、母親の部屋の窓から外を眺めている場面からゲームはスタートする。窓の外はうっすらと雲がかかっており、周囲のビルは廃墟のようで、人の気配は感じられない。『Half-Life』などを思わせるグラフィックは、開発者が同作のModや『Counter Strike』のMapを作成した経験があるからだろうか。
先ほど述べたように、ゲーム中にストーリーが語られることはほとんどない。プレイヤーはわずかなテキストから目的を知り行動していく。自由度が高いというわけではないので、決められた一本道を進むだけである。いまいましいパンツの部屋から外に出ると、主人公の体には恐怖症による発作が起きる。どのような恐怖症なのか、それはあえて書かないでおこう。
『Gynophobia』は母親のパンツを眺めるゲームではない。ホラーシューターであり、おそろしい敵との戦いが待ち受けている。両親の部屋を出たあと自室にあるパソコンに触れれば「DEAD HUNGER」という名のFPSがスタートする。移動や射撃などプレイ感はSource Engineで作られたゲームに似ている。本作をプレイ中に後ろを通りがかった人が口をそろえて「『Half-Life』か『Counter-Strike』のModですか?」とたずねてきたほどだ。強烈な3D酔いもよく似ているが、エンジンはUnityである。
無数のゾンビによって崩壊した街からの脱出を目指す「DEAD HUNGER」をプレイしているあいだ、なんだかとても無駄な時間を過ごしているような気持ちになるかもしれないが、目的達成後にはとあるメッセージが届き、「ああ、なるほど」とつぶやくだろう。一見すると奇をてらっただけのゲームに見えるのだが、じつは主人公の恐怖症に関係しているのである。もうひとつのアクションパートも同じく、この突飛な世界観にはすべて意味があるのだ。といっても、プレイヤーをひきつけるような魅力的なストーリーではない。ホラーゲームなのにプレイヤーを驚かせることはなく、謎解き要素もまったくない。これが海外ドラマならエピソード1で打ち切りを予感させるだろう。
本作はボリュームが少なく、キャラクターなどほとんどがUnityアセットストアで購入されたものだが、足りないものはなにもないように感じられる。短時間で物語は完結し、心のもやもやは一切といっていいほど残らない。「W」で前進し、マウス左クリックで射撃、ゾンビや恐ろしい敵を倒し、最後にはボスが待ち構えている。それで十分だ。もしもう少しボリュームがあれば、途中で投げ出していただろう。