呪われたサラリーマンが走り続けるアクション『Accidental Runner』の事故

『Accidental Runner』は、2014年10月にDesuraにて販売が開始されたタイトルだ。開発者はAlbert Espin氏、楽曲はJordi Altayo氏が担当。のちにSteam Greenlightを通過し、2015年4月7日からSteamでも配信が開始された。ジャンルはアーケードアクションゲームである。

[UPDATE 2015/5/4 16:30] 開発者がSteamにおける『Accidental Runner』の販売停止と返金を明らかにした。現在はDesuraにて購入できるが、価格は539円である。

 


One Coin Gamer」は、1コインつまりは定価500円以下で購入できるゲーム(ただしモバイル向けを除く)を紹介する連載企画。サクッとプレイできる良いゲームを求めている人、馬鹿馬鹿しいゲームを求めている人、とにかくお金を節約したい人たちに向け、低価格のゲームをピックアップしてゆく。第2回目は、『Accidental Runner』を紹介する。現在DesuraSteamにて配信されており、価格は198円。

『Accidental Runner』は、2014年10月にDesuraにて販売が開始されたタイトルだ。開発者はAlbert Espin氏、楽曲はJordi Altayo氏が担当。のちにSteam Greenlightを通過し、2015年4月7日からSteamでも配信が開始された。ジャンルはアーケードアクションゲームである。プレイヤーは、ピラミッドにカジノを建設しようとした結果、「いつまでも走り続けてしまう」という呪いをかけられてしまったサラリーマンとなり、さまざまなステージを踏破してゆく。サラリーマンは、何かに少しでも引っ掛かり止まると爆発して死んでしまう。

Unreal Engine 4を使用しているのも本作の特徴だ。開発者は、同エンジンのアセットやマテリアルを大量に使用していると明らかにしており、美麗なビジュアルを実現している。このほか細かな点では、『Accidental Runner』にはシングルプレイヤーモードに加え、ローカルCo-opモードや一人称視点モードも搭載されている。

 

 

メニュー画面。開発者を紹介する前に記すべきものがある
メニュー画面。開発者を紹介する前に記すべきものがある

本作のテーマは、80年代ビデオゲームの挑戦的な内容を、現代のビジュアルにてプレイするというものだ。「簡単な作品には飽きたか?怒りと苛立ちを感じたいか?ならこれはお前のためのゲームだ。お前が攻略できない方に賭けよう。最初のステージさえもな」。このキャッチコピーは確かに間違っていない。プレイヤーはゲームスタート数秒で、極上のフラストレーション体験を感じることができる。トレイラーで見た陽気な"バカゲー"の雰囲気は忘れてしまおう。

ゲームをローンチすると、砂漠をバックにしたスタート画面が表示される。メニュー項目はどこだろうか、ゲームをスタートするには何キーを押せばいいのだろうか。EnterキーでもSpaceキーでもなく、ゲームをスタートするのは「テンキー」である。ステージ1を遊びたい場合は「1キー」を、ステージ2を遊びたい場合は「2キー」を押す。Xbox 360コントローラーの場合はBackボタンかLBボタンだ。さらに、これはステージ攻略中も変わらず、プレイ中に誤って押しても別のステージへと飛んでしまう。まるでデバックモードのような操作レイアウトだ。

この操作もふくめ、ゲームの操作方法に関してゲーム側からの説明は一切ない。ゲームの売りであるローカルCo-opや一人称視点モードの起動方法も説明されないのだ。プレイヤーはまず、「何キーで一体なにが起こるのか?」を、総当り方式で試さなければならない。ステージを攻略して進んでいくはずが、Iキーを押せばステージ10、Oキーを押せばステージ12まで飛んでしまう。Kキーはステージ攻略のリセットボタンだが、操作キャラクターが爆発している際中に押すと、正常にリセットされないバグがある。苛立ってゲームを終了させようとしてもボタンは無く、プレイヤーはタスクマネージャーを起動してプログラムを終了するか、AltとF4を同時押ししなければならない。

 

Co-opモードでは両キャラクターがすり抜けてしまう。仲間が死ぬと、爆発エフェクトで多少見えづらくなる
Co-opモードでは両キャラクターがすり抜けてしまう。仲間が死ぬと、爆発エフェクトで多少見えづらくなる

 

一人称視点モードは距離感が掴みづらい
一人称視点モードは距離感が掴みづらい

一切洗練されていない操作方法を理解すれば、ついにゲームが始まる。基本的には、前方から何らかのオブジェクトが大群となって押し寄せてくるので、プレイヤーは左右に移動して避けるだけだ。1985年に発売された『スーパーマリオブラザーズ』など、数々の名作に目を瞑れば、『Accidental Runner』は1980年代のアーケードアクションゲーム風なのかもしれない。ただこちらに来るものを避けるだけのシンプルなゲームだ。

もちろん、『Accidental Runner』がそう簡単にプレイヤーを喜ばせるわけはない。シンプルなゲーム内容のはずが、加速度計算が狂ったような操作性で、プレイヤーを壮絶に苛立たせる。ボタンを押し続けると移動しすぎてしまうし、かといって少しだけ押してもまったく動かない。まるでマジックアームを使ってコントローラーのスティックを左右に振っているようだ。ステージ内では大量のUnreal Engine 4オブジェクトが攻めて来て、操作キャラクター1人がやっと通れるくらいの道しかない。位置やタイミングは基本的にすべて固定なので、何度も死んでタイミングを頭に叩き込めばクリアすることはできるが、誰もが「ほかのゲームを遊んだ方がマシ」とゲームを終了させることになるだろう(AltとF4を押そう)。

前半ステージにはまだ凝った展開があるが、後半になるつれ、ステージの攻略手順と演出は手抜きになってゆく。ステージ8とステージ10は、本作をより最悪たらしめているレベルだろう。ステージ8は画面一杯に並んだゴブリン達が爆弾を投げてくる。ステージ10は巨大ゴブリンがこちらに迫ってくるという内容である。どちらも通常のステージとは異なり、ある特定のタイミングでなんらかのアクションをしなければならい。開発者が攻略映像を公開しているのだが、クリア方法がわかったプレイヤーは何人存在するのだろうか。もちろんゲーム内にヒントは無く、プレイヤーはまたもや"総当り"でさまざまなアクションを試さなければならない。

 

『Accidental Runner』は『Flappy Bird』のような下らない高難易度ゲームと捉えることができるかもしれない。だが本作にはハイスコアの概念も実績もなく、クリアしても酷いフォントの「Success」の文字が表示され、ステージの番号が光るだけで達成感もなにも無い。本作の価値は、198円というお金を投げ打つだけで、酷いゲームを買ってしまったという貴重な体験を積むことができる点にある。無料でプレイできる酷いゲームとは、また別格の後悔を味わえる。現在は98円のオフィシャルサウンドトラックも販売中で、セットで購入すればより貴重な体験となるだろう。あるいは、暇で死にそうな友人を捕まえて、Co-opモードをプレイしてみるのもいいかもしれない。わずか198円、数分遊べれば元は取れる。

 

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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