一度は現実で放ってみたい決めゼリフ、「酒や! 酒持ってこい!」。
ゲームと関係ありそうであまりない(かもしれない)、そんな話題でオートマトンたちの骨子をむき出しにする日曜不定期連載「Not Gaming」。第5回はふたたび安田のターン、テーマはそのものずばり「酒とゲーム」。倫理的・生理的に受けつけないかたがいらっしゃるかもしれないので、本稿に少々下品な内容がふくまれていることをあらかじめお伝えしておく。
ゲームにあまり出てこない「酒」
ゲーマー諸氏には説明するのも野暮だが、明確な飲酒の描写はゲームに出てきづらい。レーティングのからみがあるからだ。CEROでは(さすがに)禁止表現にはふくまれていないものの(CERO 倫理規定 別表3参照)、それでも「飲酒・喫煙」マークがパッケージにひっつくのは避けられない。そしてほとんどのパブリッシャーはそれを好まない。
だから、すくなくとも国産ゲームにかぎっていえば酒を明確なパワーアップアイテムとしてゲーム中で取りあつかう事例は昨今多くない。ぱっと思いつくのは『龍が如く』シリーズや、『バーチャファイター』の”瞬帝”、ややワールドワイド寄りだと『Shadows of the DAMNED』あたりだろうか。
いずれにせよ、ゲームだろうが映画だろうがマンガだろうが、酒はなんらかのペナルティをともなって表現されるのが常だ。酩酊による判断力や運動能力の低下、気絶や健忘、お約束の嘔吐。正義のヒーローの趣味の欄に「飲酒」と書かれていることはまずない。あったらその時点でダークヒーローだ。
極論だが、しょせんは酒など経口摂取の薬物にすぎない。嗜好品の御旗のもとに脈々と歴史が続いてきただけであり、コンセプト自体は世間をにぎわすドラッグとそう大差ないはずだ。合法でもそれなりに有害で、かつ甘美なのが酒だ。酒、酒持ってこい。そんなものがゲームと関係あるのか。直接的にはほぼない。
酒のつまみとしてのゲーム
私はアル中予備軍(医学的にはもう近衛兵かもしれない)であり、ひとつの哲学を持っている。それは「究極の酒の肴は空腹」だ。お前はなにを言っているんだ、と思ったかたはひとまず深夜3時くらいに蒸留酒を100ミリリットルほど胃に流しこんでみていただきたい。未知の世界と理が啓けるはずだ。そのあとのことはもちろん保証しない。
そう、究極はそのぶんリスキーなのだ。さすがに毎日やっていると比喩でなく死んでしまう。そこでわれわれゲーマーに対し人類の叡智「ゲーム」が登場してくれる。ゲームはもっともかぎりなく正解に近いツマミなのだ。酒を飲みながらプレイするゲームは問答無用で楽しいし、ゲームをプレイしながら飲む酒は値段や種類に関わらずたいていうまい。
当然のことだが、ゲーム攻略の側面からするとアルコールはネガティブな要素に満ちている。反応速度は落ちるし、読んだ物語は忘れる。だがこれは裏を返せば、ゲームへの真剣な対峙を放棄さえすれば、つまり”ゲームを楽しむ”だけならば、アルコールはすさまじい加速力を提供してくれるということでもある。なお、嫌な出来事があってもたぶん忘れる。
私はゲームに人生をかけているつもりだが、それでもゲームはゲームだ。たとえば私の別の趣味に素潜りがある。これはひとつ判断を誤ると本当に死ぬ。しかしゲームは、それ自体が直接の死因になることはほとんどない。
何十時間もぶっ続けでブレイしていた”廃人”が死亡したなどというニュースがたまにある。しかし本当にゲームが直接的な原因なのかは疑問だ。すくなくとも私はこれまで2桁は「丸一日以上連続でゲーム」をやっている。だがまだ生きている。
すなわち酒とゲームの相性は良好なのだ。ただし、いちおう念には念を入れておこう。「お酒は二十歳になってから」である。素行不良だった私ですら法律を遵守し、飲みはじめたのは大学入学後だ。つまり二浪したということなのだが。
何を飲むか
問題はどんな酒を飲むかだ。これは体質によって大きく変化する。だから以下の文章はあくまでも「安田の場合は」との前置きがつくことを強調しておく。一例をあげると、私は日本酒では悪酔いしがちだ。ビールでもわれながら意外なほど簡単に酔う。そしていうまでもないが、アルコール耐性のないかたはそもそも飲まないでほしい。徐々に慣らすにしても、わずかな吐瀉物で人は窒息死するという厳然たる事実を絶対に忘れてはならない。酒もゲームも、インストラクターが必要なのだ。
さて、ようやく本題だ。そして端的な結論をまず述べよう。手間のかからない酒を選択すべし、それ以上でもそれ以下でもない。ポイントはこの”手間”の定義である。
私はカクテルを好む。一番好きなのはギムレットだ。それもライムを果実からしぼり、グラス縁の半分を塩、もう片方を砂糖でスノースタイルにしたものが最高だ。ライムの実でデコレーションしているとなお良い。
だが、そんなものはゲームのツマミになりはしない。興奮した両手は不安定なカクテルグラスを吹き飛ばす。これは間違いない。実体験が何度もある。2回ほど愛用の品を粉砕した。以来、高級なグラスを買うのをやめている。伝統にのっとるのならば、ほとんどのカクテルはこの時点で失格となる。ロングタンブラーにつがなければならないようなやつも全滅だ。
そしてそれ以上に問題なのが「作るのめんどうくさい」である。想像してみてほしい。いま深夜1時だとする。とりあえず今日(日付的には昨日)やるべきことはすべて終えた。あとは酒をくらいながらゲームをするだけ。いまからなら2、3時間くらいならプレイしても常識的な時間帯に起床できる。さて、そのうちシェーカーを振るのに何分さけるだろうか? さらに悪いことに、つぎの日にはそのシェーカーを洗うシーケンスに数分奪われる。
この時点でシェーク系のカクテルはすべて脱落する。混ぜるだけ、つまりステアですらバースプーンまたは菜箸(私はものぐさだからほとんどこちらで代用する)の洗浄が面倒くさい。残るのは広義のビルド、ようするに「注ぐだけ」の酒である。
全容が見えてきたかたもいらっしゃるだろう。では、もうすこし掘りさげる。
“保つ”酒をゲームに合わせよ
酒について”保つ”と評したとき、おそらく3つの意味が発生する。ひとつ、賞味期限・時間経過による味の劣化。もうひとつが人体のアルコール摂取限界。最後にカネだ。
賞味期限についてははシンプルだ。どんな飲食物でも適当に放置したら味は落ちる。そういうのが好みだという特殊性癖のかたはそちらを存分に楽しんでいただくとして、一般的には開封後なるべく早く飲みきるべきである。
ここで脱落する酒がある。缶に封入されているもの、炭酸系の大半だ。スパークリングワインなども該当する。それらは一度開封してしまえば、最後まで飲み切るか捨てるかのオール・オア・ナッシングになる。効率は劣悪だ。ここまで書いておいてなんだが、あくまで主はゲームであり酒は従である。酒を飲み切るためにゲームをするわけでは断じてない。そんなことをしていたら明日が捨てられてしまう。
2つ目も当たり前の話だ。厚生労働省は「節度ある適度な飲酒」として、1日平均純アルコール摂取量を20g程度と定義している。60g飲めば「多量飲酒者」だそうだ。現実はともかく、日本ではそういう話になっている。
しかし、ゲームをプレイする時間は一定である(とする)。となると、グラスに口を近づける回数も一定である。酩酊状態自体を目的としていないのならば、ここで高アルコール度数の酒もふるいにかけられる。私、安田は「スコッチさん」なる別名を持っている。それくらいにウイスキーが好きだ。ほかにも「ジンさん」や「ウォッカさん」の”ペルソナ”を召喚することもできるが、そのあたりをストレートでやるのはたいていアウトとなる。スイスイいけると豪語する人は肝臓に気をつけたほうがいい。
最後にカネの話をしよう。酒の値段はおどろくほど上下差がある。高級なワインやウイスキーなどはゲーム機を数十台買ってもお釣りがくる。そんなものをたしなむ余裕があるセレブリティはおそらく弊誌を読んでいない。
安い酒を飲むべきだ。余剰資金はゲームソフト購入にまわす、これがゲーマーのあるべき姿である。では酒の価格をどう判断すべきか。この判断には単位アルコール度数計算が有効だ。数式は単純明快、内容量*アルコール度数/販売価格。この値が高いものほど優秀ということになる。
じつのところ、これだけでラインナップから外れる酒はおどろくほど多い。コンビニで買うチューハイやビールは”論外”だとすぐにわかる。圧倒的に蒸留酒が有利であり、次点としてワインや日本酒が並ぶ。だが後者は前述した保存の観点から難がある。どちらも冷蔵保存が限界であり、それでも劣化はまぬがれない。冷凍保存すら可能な品種のある高アルコール飲料がいかに優位かは自明である。
もはや真実は目の前だ。
ゲーミング・アルコールはスピリッツ
限界までそぎ落とそう。ゲーマーが飲むべき酒は「ジンとウォッカと茶色い酒」だ。ただ、個人的な感想ではあるがウィスキーやブランデーは価格であまりにも味が違いすぎる。安ウイスキーはどう飲んでもつらい場合がある。名指しはしないが、ゲームが楽しくなくなるようなすごい味のウイスキーにぶちあたり、流しにすべて捨てた苦い思い出がある。
つまり趣味や博打を捨てるとなると、さらに答は限定される。そう、ジンとウォッカだ。なぜテキーラやラムをはずす? 良い質問だ。
「節度ある適度な飲酒」の部分で述べたように、極端な高アルコールはゲームに向かない。おのずとなにかで割ることになる。選択肢はおおむね水・氷・炭酸水・トニックウォーター・ジンジャエール・コーラあたりだ。
ピンときたかたはいらっしゃるだろうか。そう、テキーラやラムはコーラと相性がよすぎるのだ。逆にほかと相性がよくない。そして、割り材として安価なのはせいぜいが炭酸水までだ。いままさに列記した6種は価格順である(amazon.co.jp基準)。コーラは意外なほど高い。ゆえにメキシカンコーラもキューバリブレも選外となる。まあ、テキーラについてはどちらかというと私自身があまり好みでないというのもあるのだが。
もうひとつ、重要なポイントがある。カロリーだ。私をふくむゲーマーの多くが運動不足におちいっている。なるべく酒経由での熱量摂取くらいはおさえたい。ここでトニックもジンジャエールも厳しくなる。あれにはそれなりに糖分が入っている。
そろそろ締めよう。
ジンリッキー至高説
もはや正答はしぼられた。ジンを炭酸水で割るか、ウォッカを炭酸水で割るかだ。ライムをまぜるかレモンをまぜるかはみなさんの味覚にまかせることになる。
だがもっともトラディショナルなのはジン・炭酸水・ライムの組み合わせ、すなわちカクテル「ジンリッキー」であると断言できる。めんどうくさくなく、安価で、すぐに作れて、適度に酔えるのだ。無論ほかのパターンもあるものの、たいていはジンリッキーの亜種あつかいである。たいていのカクテルの辞典においてジンリッキーは先のほうに掲載されているものだ。
守りに入りたいわけではないが、やはり伝統はよい。歴史と流行は価値の体現でもある。ジン/ウォッカ・ライム/レモンの組み合わせ4種のなかで、もっとも説得力のあるのはやはりジンリッキーなのだ。どのジンを選ぶ? 好きにしたらいい。マティーニおたくがプリマスをチョイスするくらいの差、その程度しか存在しない。あえていうなら主要銘柄のうちボンベイ・サファイアだけはやや個性的だが。
なお、本稿を書き始めたのは深夜3時、書き終えたのは6時。当然酒を飲みながら執筆した。ウイスキー、タリスカー10年、そしてスコッチさんに栄光あれ。
最終結論(ここまで読み飛ばしてよし)
答: ビーフィーター・ジン(47度) + 炭酸水 + ライム数滴 + 氷 ≒ ゲーマー酒
長々と書いたが、つまるところ安酒の話にしかなっていないのにようやく気づいた。覚醒ついでにもう一点だけつけくわえておこう。先に書いたことだが、背の低いグラスを選択するべし。べつに味は変わらない。減らせるリスクは減らそう。酒をこぼすということは、それを体験していないかたが思い描く以上の大惨事である。