インディーゲーム開発者、Kickstarterのバッカー全員にSteamキーを3500本配ってしまう。びっくりしたバッカーの報告により誤対応に気づく

 

パブリッシャーのSerenity Forgeは5月20日、『Neversong』をSteamにて配信開始した。同作は、ゲーム開発者Thomas Brush(トーマス・ブラッシュ)氏が2010年に配信したFlashゲーム『Coma』の続編として開発された2Dアクションアドベンチャーゲーム。昏睡状態から目覚めた少年ピートが童話じみた悪夢の世界を冒険する。ドビュッシーやショパンによる影響が色濃く出ている作品だ。通常販売価格は1520円で、5月28日までのプロモーション期間中は15%オフ(1292円)で購入できる。日本語は非対応。

『Neversong』(旧名:Once Upon a Coma)は、トーマス・ブラッシュ氏が率いるAtmos Gamesと、ゲームの開発とパブリッシングをおこなっているSerenity Forgeが共同開発。2018年にはKickstarterキャンペーンによるクラウドファンディングを実施し、2798人のバッカーから8万5683ドルを募ることに成功している。ローンチ当日には、Kickstarterキャンペーンのバッカーを対象に『Neversong』のSteamキーが配られたのだが、そこで思わぬサプライズが待っていた。1人当たり3500本ものゲームキーが配布されたのだ。

生成した3500個のキーが、バッカー2798人全員に配布されたとのこと。もちろんこれは開発者が太っ腹だったというわけではなく、誤対応。おびただしい数のキーコードが羅列されたメールを受け取ったバッカーから、「本当に全部キープしていいのか」という確認メールがブラッシュ氏のもとに殺到したという。海外メディアのPC Gamerが報じている。
【UPDATE 2020/05/25 9:52】
Atmos Gamesに問い合わせたところ、全部で3500個のキーを生成し、その同じ3500個を各バッカーに配布してしまったとのこと。「バッカー2798人 x 3500」ものキーを生成したわけではないため、上段落を訂正。

正直なバッカーのおかげで誤対応に気づくことができ、その後は配布されたキーを無効化していったとのこと。トラブルはあったものの、ゲーム自体は悪くないスタートを切ったとブラッシュ氏は説明。Steamコミュニティのレコメンド枠に乗り、ゲームの露出は増加。初動のセールスは、Atmos Gamesが2017年に出した『Pinstripe』の倍とのことで、ブラッシュ氏としては満足しているそうだ。とはいえゲームのローンチはストレスのかかるもの。一段落ついて良かったと、安心した様子であった。

インディーゲームのローンチに関するアドバイスも

トーマス・ブラッシュ氏は、自身のYouTubeチャンネルにてUnityを使ったゲーム開発談やチュートリアル動画を頻繁にアップロードしている。実際にゲームを作っている様子を解説付きで公開したりと、ゲーム開発に興味のある層に向けた情報発信を継続。最近では『Neversong』を事例としたインディーゲームのSteamローンチに関するハウトゥ動画も公開している。

その動画によると、ブラッシュ氏は、ローンチに向けた宣伝期間に入る際に「自分の考えたマーケティングプランで進めさせてもらう」とパブリッシャーに伝えたという。もしもパブリッシャーが、そうした姿勢に反対するようであれば一緒に働くべきではないともアドバイス。ブラッシュ氏の意見としては、パブリッシャーの多く、特に小規模なパブリッシャーはPR会社を雇えば事足りると思っており、そうした考えには同意しかねるとのこと。マイクロソフトのような巨大パブリッシャーであれば話は別だが、そうでない場合は、パブリッシャーを無視してマーケティングプランを練るべきだと説明している。

『Neversong』においては、まず自前のゲームライター/ストリーマーリストを作成。過去に手がけた作品や、類似作品を気に入っている人を探して個人アドレスを見つけ出す作業である。そして準備ができたらゲームキー、プレスキット、トレイラーへのリンクを添えてメールを送付。ゲームキーが欲しいかどうか確認する行程はいらず、最初からゲームキーを送るべきだという。ライターは日々プレスリリースを山ほど受け取っており、個別に返事を返す余裕はないからだ。なおブラッシュ氏いわく、ゲームメディアのライターは1社での勤務期間が短いことが多く、リストを作成してから1年もすれば無効なメールアドレスが散見されるようになるとも述べている。

続いて、各種SNSを通じてフォロワーにウィッシュリスト登録を促すべきだと説明。ウィッシュリスト登録数を増やし、Steamの「人気の近日登場」欄での表示順を上げることが目的だ。こちらについては、SNSにてアクティブに活動し、ある程度のフォロワーを集めていることが前提になるだろう。ブラッシュ氏は、「ローンチ時のウィッシュリスト数 x .75 = 初年度のセールス」という目安を動画内で記している。

そしてローンチの数時間前になると、ローンチ作業、プレスメール送信、SNS発信、Kickstarterバッカーへのキー配布など短時間のうちに大量のタスクをこなす必要があると説明。先述したバッカーへのキー送付の誤対応は、タスクに忙殺される中で生じたものなのだろう。

ローンチ日がマーケティングの最終日というわけでもない。ゲームに活気が出ているうちに、プレス/ストリーマーへのコンタクトやSNSでの発信というサイクルを繰り返すことで、燃料を投下し続けるべきだと伝えている。そうしてローンチにあわせて高波を起こせば、Steamのアルゴリズムに拾われ、ゲームの長期的な成功につなげられると。ブラッシュ氏はSteamでのローンチを、ロケットの打ち上げにたとえている。大気圏から飛び出すのに多大なエネルギーを要するが、ひとたび軌道に乗れば安定する。逆に大気圏から飛び出せなければ、セールスは大幅に落ちる。前作『Pinstripe』は打ち上げに失敗したのだと語っている。

開発者がマーケティングの主導権を握るという考えには、反論するインディーパブリッシャーもいると思われる。そもそも開発以外にもかなりの工数を割くため、すべてのインディー開発者が真似できるわけではないだろう。自身がプロジェクトの顔となり、SNSやYouTubeを通じて日常的に情報発信を続けていけるようなパワーのある開発者にとっては、ひとつの事例として参考になるかもしれない。

Neversong』はSteamにて配信中。パブリッシャーのBeep Japanによる、日本向けのPlayStation 4/Nintendo Switch展開が予定されており、そちらの発売日は後日発表される。