Steam早期アクセスが生み出す時限爆弾


[MythStarters]は、KickstarterやSteam早期アクセス(Early Access)など現在流行を見せている「先行投資型」のゲーム開発モデルにまつわる珍事を振り返り、時にはその問題点に物申したりもする不定期連載企画。今回は先週Steam早期アクセス内のFAQが変更された件と、今年5月に開発中止が発表され注目を集めた『Towns』の物語を紐解いていきましょう。

 


あまりにも好調なSteam早期アクセス

アルファやベータ版といった開発中のタイトルを先行発売し、ユーザーのフィードバックを受けながらゲームを完成させていくSteamのシステム「Steam早期アクセス」。先週Valveは同サービスの公式FAQ内にある「これらのゲームのリリースはいつですか?」の設問の中に、「ゲームを完成させられないチームもあるということをご承知おきください」との一文を新たに追加しました。

現在公式サイトにて公開されている全文は「正式なリリース日は開発者が決定します。締め切りを頭の中で設けている開発者もいれば、ゲームの開発状況をみて計画を立てていく開発者もいます。ゲームを "完成"させられないチームもあるということをご承知おきください。つまり、現在の状態でプレイして楽しめる場合にのみ早期アクセスのゲームをご購入なさるべきでしょう」となります。

購入したゲームの開発が遅々として進まず、さらに最終的には完成にいたらない可能性があることも考慮しなければならないとする宣言。『Half-Life 3』をかかえる(はずの)Valve自身への自虐ジョークではありません。これはつまりSteam早期アクセスでの購入は「現時点のバージョンに対する支払い」であり、ロードマップや将来的なプラン実現の可否は値段に含まれないことをしめしています。もしプロジェクトが失敗して未完に終わっても不満をたれないように、というわけです。

 

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なぜいまさらこのような一文をValveは追加したのか? 同社が直面していると考えられるその問題・事態は、Steam早期アクセスを利用したゲームの売れ行きです。売れすぎなのです。2014年6月7日土曜日の夜時点……カチリとマウスを操作しSteamのトップページを見てみると、売り上げトップは『The Forest』と『DayZ』。どちらもSteam早期アクセスタイトルです。これに『The Stomping Land』と『Rust』も加えると、トップ10タイトルの内4タイトルが同システムを利用していることになります。

これは一時的な勢いではありません。昨年リリースされたスタンドアローン版『DayZ』は2014年5月時点で200万本セールスを突破しています。同じく昨年発売となった『Rust』は今年2月に100万本に到達し、さらにはGarry Newman氏が過去に手がけた『Garry's Mod』の累積売り上げ3000万ドルを軽々と超えてしまいました

まるでアルファ版リリースの先駆け『Minecraft』が見せた破竹の勢いをたどっているかのようですが、すべてのタイトルが同作のように成功するとはかぎりません。遠すぎるベータ版への道のりをみせる『DayZ』では原作者Dean Hall氏が年内でBohemia Interactiveを去ると海外メディアEurogamerをとおして宣言し、『Rust』は発売から数か月が経過した今もチーターであふれかえっています。筆者個人の経験を付けくわえると、中身のあるアップデートが続かず代わりばえのない早期アクセス版ですでに飽きたというプレイヤーも多くみかけます。

開発中のビルドを出せば資金を得られるというシステムに誘われたデベロッパーたちにより、現在すでにSteam早期アクセスで購入できるゲームの数は190本以上。華々しい売り上げ報告が燦燦と輝く一方で、Steam早期アクセスにて、完成しないリスクを内包した、ゲームというガワの「時限爆弾」が次々と生み出され、その秒針の動く音を聞いたユーザーらは不信感をつのらせています。

 


街が終わった日

『DayZ』や『Rust』は一応のセールス的な成功をおさめており、その進行速度はともかく開発が即座に頓挫するような可能性は少ないと考えられるでしょう。しかしながら、他方では2年前に登場した『Towns』は、開発者の情熱が消え失せ売り上げが下落し最終的には開発中止になるという悪例として、忘れられることのない存在感をはなっています。

元は無料版のトライアルとして公開され、のち2012年11月にリリースされた2Dドットビジュアルの都市運営シミュレーション型RPG『Towns』は、当初は誕生したばかりのSteam Greenlightを通過したことで注目を集めた作品です。開発は3人のデベロッパーが所属するチームSMPが担当していました。未完成のゲームながら今後アップデートを繰り返していく『Minecraft』型のタイトルとしてSteam早期アクセスが登場するよりも前から販売されていたタイトルです。

『Towns』の売り上げは2013年7月の時点で20万本と20万ドルを突破しており、14.99ドルのインディータイトルとしては好調な売れ行きを記録していました。一方で開発当初3人だったチームはいつのまにか2人へと減少。残ったXavi CanalとBen Palgiはアップデートを続けていたものの、2014年2月にXaviは『Towns』に対して「燃えつきた」と語り開発の中止を宣言しました。未来における完成を約束されていた未完のゲームは、1年と4ヶ月で原作者たちの手から離れます。

 

Xavi:

「『Towns』のバージョン14bが我々がSMPとして放つ最後のビルドになる。どうして先月この件についてポストしなかったのかは言葉もないし答えられそうにない。唯一言えるのは、君たちにとって知ったこっちゃないのはわかるが、燃え尽きてしまったということだ。ゲームやそれに関係する全てについて燃えつきた。続けていくだけの意志がもうない」

 

SCPが開発から降りた後、後任としてMoebiusの愛称でも知られる開発者Florian Frankenbergerが登場します。彼は税金とSteamへのフィーを抜いた全体の利益から15パーセントを得るという契約で『Towns』の開発を始めました。最低でもこれだけ売れると月毎のセールス数値をSCPから聞いていたMoebius。しかしいざゲームの新バージョンをリリースすると売り上げは急落し、聞いていた3分の1ほどで頭打ちに。そして彼は賃金や食費すらもまかなえない状況に陥ったとうったえます。

半年も経たぬ内に再び『Towns』の開発中止が宣言されたのです。

 

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この一連の事件により、SCPチームとMoebiusは信頼に値しない開発の烙印を多くのユーザーから押されました。フォーラムで挙がる失望の声。短絡的な意見があることを差しひいても、Steamレビューでは『Towns』への批判的なレビューが5月から続いています。またMoebiusは開発中止の宣言と共に(受け入れられると本気で思ったのかは不明ですが)『Towns』続編の構想を発表し、これについても「途中で開発をやめたスタジオのゲームを誰が買うんだ」との意見も噴出しました。Steam早期アクセス以前からアルファ版やベータ版の有償販売については一部のコア層らが問題点を指摘してきましたが、今回の件であらためて早期アクセスの危うさを多くのユーザーが再認識したのは間違いないでしょう。

 


汝、デベロッパーにもう少し厳しくあれ

 

早期アクセスの危険性はすでにユーザーだけでなくValveも認知しているでしょう。気休めでしかない公式FAQに登場した今回の一文につづき、Steam早期アクセス自体のシステムへValveがメスを入れる日がくるかもしれません。ただ早期アクセスを利用できるプロジェクトに強い制限を設けたり、あるいは開発が頓挫したゲームに罰則を加えるようなルールは、プラットフォーム自体の利用者の減少をまねきかねません。ですから、Valveみずからが制約を課すようなレギュレーションを制定するインセンティブははたらきづらいでしょう。

金を支払いそれを受けとりゲームを購入・販売するという、ゲーマーとゲーム会社の関係は不動です。筆者をふくめたあらゆる第三者には「早期アクセスゲームを買うな」などとのたまう権利はいっさいありません。しかしです。フルゲームが出ると盲信して購入したり、あるいはパトロン気分で金を振りまいたりするその前に、ただ一言。

「汝、デベロッパーにもう少し厳しくあれ」。


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。