『Defense Grid 2』と突如現れた謎の投資家 Steven Dengler

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Kickstarter や Indiegogo を中心に大きな流行を見せているゲーム開発資金の新たな調達方法クラウドファンディング。複数のユーザーから小口の開発資金を公募し、目標額に達すればデ ベロッパーが資金を得られるというこのシステムは、2012年2月に Kickstarter へ登録された『Broken Age』(旧名 Double Fine Adventure)が3億円以上を集める大成功を見せて以降、一気に普及したといえるでしょう。

ただクラウドファンディングはパブリッシャー以外からお金を集める手段というだけでなく、もはや大きな金と多くの人が動くファン参加型イベントのような側面も持っており、当然デベロッパーとユーザーの間にて何かしらの問題もドラマも生まれてきています。この「MythStarters(怪しい集金)」はそういったあれやこれやの物語を GGeo ライター達がそれぞれ独自の視点にて語っていこうという企画です。

タイトル通り”怪しい集金”を問題視していくことも今後予定されていますが、第1回目のテーマは「謎の投資家が突如登場して成功した Kickstarter キャンペーン」。一時は失敗に終わったものの突如開発に漕ぎ着けることができた『Defense Grid 2』と、それを支援した「謎の投資家」である Steven Dengler 氏の正体に迫ってみましょう。

 


タワーディフェンスの王道作品、次回作を狙うも失敗に終わる

 

2000年代後半と言えば、ブラウザやフラッシュゲームを中心にタワーディフェンスゲームが大流行し、ゲーマーでない人でも1度は塔を建て襲い来る 大量の敵軍を殲滅した時代でした。そんな中、北米のデベロッパー Hidden Path Entertainment から2008年にリリースされた『Defense Grid: The Awakening』は、王道系の作品ながら既存のタワーディフェンスゲームにはなかった有料タイトルに匹敵するクオリティとゲームバランスの良さで国内外から良好な評価を受けました。

そして2012年7月、Hidden Path は続編となる『Defense Grid 2』を Kickstarter に登録。25万ドルの獲得を目指すクラウドファンディングキャンペーンを開始します。

この『Defense Grid 2』キャンペーンでは、初期目標額の25万ドルが集まった場合には初代『Defense Grid』の拡張パック「Containment」のリリースを決定。50万ドルが集まればマルチプレイヤーモードや新規ゲームエンジンへの着手、75万 ドルが集まればレベルエディターや追加プラットフォーム、そして100万ドルが集まれば完全な続編となる『Defense Grid 2』を開発するというやや特殊なルールを採用していました。いわゆる集まった額に応じてゲーム内コンテンツを製作予定欄に追加していく「ストレッチゴー ル」にて、拡張版か続編を開発するかをファンに問うたのです。

Kickstarter において目標額100万ドルは1つの巨大な壁です。100万ドルを超える開発資金を集めるには、著名なデベロッパーがプロジェクトチームのリーダーであっ たり、誰もが知る有名人気作品の「精神的続編」であったりと、強力なバックボーンが必要となります。Hidden Path は確かに初代『Defense Grid』にて評価されたスタジオであったもののこれらに値する武器が無く、集まった額は最終的に27万1176ドルに留まりました。

Kicksatrter にて当初は100万ドルのストレッチゴールに達すればフルの続編が開発予定とされていた『Defense Grid 2』
Kicksatrter にて当初は100万ドルのストレッチゴールに達すればフルの続編が開発予定とされていた『Defense Grid 2』

 


Hidden Path の前に突如現れた「謎の投資家」

 

初期目標額を突破した Kickstarter キャンペーンを経て、当初の公約通り2013年1月に初代『Defense Grid』の拡張パック『Containment』がリリース。『Defense Grid 2』の物語はひとまずここで終わるかと思われましたが、同年4月にストーリーは一転します。なんと突如現れた「謎の投資家」が、『Defense Grid 2』の開発資金を Hidden Path に全て援助してくれたというのです。

本来必要とされていた100万ドルから Kickstarter にて獲得した27万1176ドルを差し引いたとしても、必要額は残り73万ドル弱(およそ7300万円弱)。Hidden Path の面々にとっては、自分たちの目の前に足長おじさんが突如登場した気分だったでしょう。Kickstarter ではアップデートにて Hidden Path の面々が「WooHoo!」と『Defense Grid 2』の開発決定を嬉々とした様子で伝えました。

さて『Defense Grid 2』の開発は決定しましたが、気になるのは突如現れた「謎の投資家」の正体。5月に海外メディア GamesBeat が行った独占取材にて、この投資家は為替支援ツールとサービスを提供している Web サイト XE.com の共同設立社であり CEO の Steven Dengler 氏なる人物だと判明しました。この Dengler 氏は XE.com にて大きな成功を収めた後、その収益を元に Dracogen Inc. なる投資会社を設立し CEO に就任。『Defense Grid 2』への投資はこの会社の活動として行われたというわけです。

XE.com の共同設立者であり CEO である Steven Dengler 氏。 Dracogen Inc. を設立し主にゲームや映像作品などギークカルチャーへの支援を続けています。 120以上ものプロジェクトに Pledge している同氏ですが、 本人が語る限りでは「死んだお金」が嫌いでなおかつただ単にギークカルチャーが好きなだけの模様
XE.com の共同設立者であり CEO である Steven Dengler 氏。Dracogen Inc. を設立し主にゲームや映像作品などギークカルチャーへの支援を続けています。120以上ものプロジェクトに Pledge している同氏ですが、本人が語る限りでは「死んだお金」が嫌いでなおかつただ単にギークカルチャーが好きなだけの模様

 

「なんだただの投資会社か」と簡単に受け止めず活動経歴を調べていくと、 Dracogen Inc. が面白い組織であることがわかります。同社は2011年から先に挙げた『Broken Age』の開発元である米国デベロッパー Double Fine と組んだかと思えば、『Minecraft』の開発者 Markus”Notch”Persson 氏が続編を切望するほどのファンでもあるコアなアクションゲーム『Psychonauts』の MacOS 版リリースなど、マニアックなラインナップが並ぶ同スタジオ作品の移植開発を支援。また Kickstarter では『Broken Age』や Obsidian Entertainment の『Project Eternity』などを筆頭に多数のタイトルに多額の開発資金を Pledge している、根っからのゲームプロジェクト支援会社だったのです。

Kickstarter において Steven Dengler 氏が Dracogen Inc. を通し Pledge したプロジェクトはゲーム部門だけで 61 作品にも及び、ファンメイドの 『Star Trek』エピソード『Pilgrim of Eternity』などムービーやアート部門を合計した総数は 120 プロジェクト以上。 念のため伝えておくと Kickstarter は見返りとしてゲームや特典アイテムなどを贈与するものの、Pledge しても売り上げの利益を分配して得ることは出来ません。Steven Dengler 氏はギーク達によるゲームやコミック、映像といった芸術製作を支援する、まさに現代のオタク版パトロンといえるでしょう。

穿った見方をすれば、すべてが台本通りであったのでは? となりそうですが、上述のとおり Steaven Dengler 氏がいわば”見境なしに”投資している雰囲気すらあること、いくら筋書きがあるとしても7000万円以上も軽々と出すアングルがありえるのか疑問であると いうこと、そしてそもそも Kickstarter でゲームにたいし投げ銭するような層がはたして XE.com の外為など主要業務に興味を示すのか怪しい(=広告宣伝効果を期待したものとは考えられない)など、ひとまずはセメントと解釈するのが妥当でしょう。テレ ビや映画の次にゲームが来ると宣言したインド人もびっくりです。

 


セルフパブリッシングの未来

 

今年6月に Kickstarter では、近未来の企業戦争をテーマにしたRTSの古典作品『Syndicate』の精神的続編『Satellite Reign』のクラウドファンディングキャンペーンが開始されました。7月に35万ポンドの目標額を突破し資金獲得に成功した同作ですが、このプロジェクトにも Steven Dengler 氏は5000ポンド以上(約80万円以上)を Pledge しています。

この『Sattelite Reign』の Pledge に関する開発スタジオ 5 Lives Studios からのインタビューに よれば、どうやら Steven Dengler 氏は生粋のゲーマーのようです。ゲームがクールなカルチャーでは無いとの認識を受けていた前時代、コンピューターゲームをプレイする事で周囲からあざ笑い 続けられてきたものの、30年ものあいだゲームから離れることはなかったと語る Dengler 氏。80年代半ば、10代の頃に初めて就いた職はゲームのデザインとコーディング作業で、『Adventure to Xanadu』という名のアドベンチャー作品だったもののこの世には出ずに終わったとも伝えています。

また好きなゲームも1980年代の米国ゲームデベロッパー Infocome の作品を入り口に、『Ultimas』や『Xenomorph』や『System Shock』や『Torment』を挙げ、さらには「……あー、大事なタイトルを取りこぼさないにはリストを作らないと無理だよ」とコメントするなど、 根っからのコアゲーマーであることを伺わせます。

同氏は Kickstarter などでゲーム開発に資金を提供することで「満足感を得ている」と説明していますが、最終的には現在資金を集めるのに困っている開発者たちがセルフパブリッ シングタイトルにて資金を回収し、より独立してゲームを開発出来る日が来て欲しいと願っているようです。

 

『Satellite Reign』では5千ポンド以上を提供し「The Big Boss」の特典を手に入れた Steven Dengler 氏。ゲーム内で悪徳企業の CEO として登場する予定
『Satellite Reign』では5千ポンド以上を提供し「The Big Boss」の特典を手に入れた Steven Dengler 氏。ゲーム内で悪徳企業の CEO として登場する予定

5 Lives Studios によるインタビュー抜粋

 

インタビュアー:
「ゲーム業界の現状に対して何か感じることはありますか?願望や懸念は?」

Steven Dengler:
「パブリッシャーは大きな大きなゲームへと次々に資金をつぎ込んでいます。この手のゲームはリターンが保証されている典型的な”安全な賭け”です。一方で 無数に分布する独立系の少額予算インディーゲームは現在素晴らしくクリエイティブになりました。これらのゲームは個人のクリエイティブなビジョンを共有し つつ好きでやっている仕事であり、過度な訴求力のある大量生産ゲームではありません。

20万ドルから200万ドルを必要としている素晴らしいゲーム達はインディープロジェクトとしては巨大すぎるし、パブリッシャーの興味を引くには小さすぎます。中規模のゲームプロジェクトは多少なりとも不毛の地に置かれているのです。私はこの手の範囲にある数々のタイトルに資金を提供し、それらのゲームが不毛の地から脱出することを支援して強い満足感を得てきました。

ただ Kickstarter や私のような個人投資家、IndyFund のような投資グループでさえ、この分野に投入する充分な資金を持っていません。スタジオがよりセルフパブリッシングできるように時勢が変化していくことを 願っています。小さなスタジオが確かなセルフパブリッシングタイトルで資金を生み出せれば、彼らにとって充分な資金を確保出来ることになり、外部からの資 金提供に関係なく自身の進む道を思い描き始めることが出来るのです。こんなことがいつか見れる日を願ってやみません」

 


順調に開発が進む『Defense Grid 2』

 

さて Steven Dengler 氏から開発資金を得ることが出来た Hidden Path はといえば、開発決定から3ヶ月が過ぎた2013年7月にも、11人から15人のチームにて現在『Defense Grid 2』の開発が進められていることを発表しました。8月には新たなゲームプレイと新規エンジンによって描かれるデビュートレイラーが公開。さらに Penny-Arcade Expo や gamescom といったゲームイベントでは Hidden Path にとって初となるブース出展を行い、同スタジオの『Windborne』と共にプレイアブルデモが展示されました。

Steven Dengler 氏が登場したことについて「Hidden Path の面々にとっては、自分たちの目の前に足長おじさんが突如登場した気分だったでしょう」と記しました。しかしHidden Path が何度も Kickstarter 上で他のファンたちによる支援を感謝しているように、Kickstarter では Pledge した誰もが足長おじさんなのです。『Defense Grid 2』は2014年前半にリリース予定。開発は今のところ順調に進んでおり、支援者と開発者の双方がハッピーエンドを迎えることを願いたいところです。

 

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初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。