バランスパズルゴッドゲーム『Fate Tectonics』 世界崩壊の美学
週刊で複数のインディーゲームをピックアップしていくIndie of the Weekに対し、ほぼ月刊で筆者が気にいったタイトル1本を集中的に取りあげる連載企画Monthly Indie。今回はGolden Gear, Inc.が開発中のバランスパズルゴッドゲーム『Fate Tectonics』を紹介する。
人類が住まう地球は絶妙な天文学的バランスをとって存在しているといわれる。『Fate Tectonics』はすこしいじっただけでも崩壊してしまう、繊細な「奇跡の世界」を題材にしたタイトルだ。運命の神々と協力して暗黒空間のなかに巨大な世界を創りあげることがプレイヤーの目標となる。この説明を聞いて複雑なワールド構築ゲームを想像したかたがいらっしゃるかもしれないが、ゲームの正体はゴッドゲームと『ジェンガ』などに代表されるバランスゲームの融合であり、意外にもシンプルだ。
プレイヤーはまず神々の宮殿を立ちあげ、その周囲に四角形の「タイル」を配置することで世界を創りあげてゆく。タイルには森や平野などの地形が各四辺にランダムにつめこまれており、同じ地形が隣接するように配置するのが基本的な攻略手順だ。なぜならタイルには「強度」が存在しており、異なる地形を隣接させたり、一辺だけでつなぎとめるような無理な配置をしてしまうと、この強度が落ちてしまう。強度が落ちたタイルには黒い亀裂が走り、一定値をこえるとバラバラに砕け散ってしまうのだ。
さらに厄介なのが、1枚のタイルが崩壊すると周囲数マス分のタイルの強度が連鎖的に落ちてしまうことだ。最悪の場合、1枚のタイルの崩壊を起点にして次々とほかのタイルが崩れてしまい、せっかく創りあげた世界がなにもない暗黒空間へと逆戻りする。前述したようにこのあたりのプレイ感覚は『ジェンガ』などのバランスゲームに近い。拡張してゆくたびに世界がいびつで複雑なものとなっていくなか、プレイヤーはどこにタイルを配置すれば世界が崩壊しないかを考えなければならない。
このほかにも『Fate Tectonics』ではゲームの進行とともにあらたな神々の宮殿がアンロックされる。住居や船などを配置して周辺のパネルを拡張し強度を高めたり、あるいはパネルそのものの地形を変えるなど、さまざまなパワーが使用できる。さらに、それぞれの神々には"機嫌"が設定されており、機嫌を損なうとその怒りをプレイヤーが創りあげた世界にぶつけてしまう。すべての神々の機嫌を取りもちつつ、さらにタイルの繋ぎあわせかたを考慮して世界を創造するのはなかなかむずかしい。
パネルを1枚ずつ配置するにつれて緊張感が高まっていき、いつ崩壊してもおかしくない世界を手に汗にぎりつつ維持していくのも面白いのだが、『Fate Tectonics』でもっともユニークなのは本作における失敗であるはずの「世界が崩壊する瞬間」も楽しいという点だ。アーティストのRosemary Brennan氏が手がけるドットビジュアルは、見事なアニメーションであなたの世界が一挙に崩れゆく様子を描いてくれる。それを見て去来するのは、賽の河原で延々と石を積みあげる無力感ではなく、自分の乗せたピースで『ジェンガ』が一気に崩れさって思わず笑ってしまうような爽快感だ。
『Fate Tectonics』は2013年1月からAndrew Traviss氏により開発が続けられているタイトルだ。もとは1か月間で完成させるプロジェクトとして開発が進められていたものだったが、Traviss氏がプロトタイプをビジネスパートナーのAlex Bethake氏に見せたところ、Golden Gearスタジオの第3弾タイトルとして製作されることが決定した。2013年10月より本格的に開発がスタートし、2013年末にはアルファ版がリリースされている。『Dmg Swipe Comic Anthology』に『Seraph』とスマートフォン向けゲームを開発してきたGolden Gearだが、今作はPCとMac向けにリリース予定だ。
2014年に入り現地時間8月29日に米国シアトルで開催されたPAX Primeへ出展され、同時にベータ版のリリースも開始された『Fate Tectonics』なのだが、残念ながら海外メディアから大きく取りあげられてはいないし、Steam Greenlightでの反応もイマイチなようだ。現在は公式サイト上でHumble Storeをとおして10ドルでベータ版が販売されている。「失敗しても楽しい」同作は、もっと高い評価を受けてしかるべきだ。