今こそ伝えたい、ホラーゲーム界の異端児『イルブリード』の魅力
あなたは『イルブリード』というクレイジーなゲームをご存知だろうか。アレは忘れもしない2001年、ドリームキャスト用として彗星の如く現れ「クレイジー!」というか「コレ、マジー?」と言わずにはいられないほど尖がったゲーム……それが『イルブリード』だ。
なんといっても開発元が「株式会社クレイジーゲーム」というところがもう既にクレイジー。「バーチャルお化け屋敷ゲーム」としては最も売れたとされ、私のような世界観に魅せられて中毒になってしまったゲーマーが材木人間よろしく「あぷぷーぷりぷりー」と全国に現れることとなった。
私の青春時代の中心には常にこのゲームがあった。刺激的で過激な内容に異様なほどハマり、クリアしてはまた最初から、クリアしてはまた最初からと無限ループしている私だが、まだかろうじてクレイジー野郎にはなっていないと思いたい。
高校のホラー映画研究会に所属する男女4人のグループ。その彼らが「クリアすれば賞金1億ドル!」という噂のお化け屋敷『イルブリード』のチケットを入手する。すでにチケットのビジュアルからしてヤバイ匂いがプンプンするが、ホラー好きが高じて集まった彼らには1億ドルという文字以外目に入らないようだ。ただ一人を除いて。
そう、メインキャラクターであるエリコだけは、ある特殊な環境に育ったことから、昔から恐怖に晒されすぎてホラーに対して何も感じなくなってしまった人物なのだ。そんな人間本当にいるのかと思うが、このゲームを筆頭にあらゆるホラーゲーム漬けになっている私が言えることではなかった。ごめんね。もうすでに私もこの変態ホラーマニア集団の一員だからね。あ、変態って言っちゃった。
しかしそう言いたくなるのも無理はない。なぜならこのゲームの登場人物たちの言動が、いちいちどこか変なんだもの。ヘタすりゃ本当に死に至る殺人トラップが手ぐすね引いて待ち受けるお化け屋敷へ行きたがる人間たちがまともなわけもないが。
特にその中でもランディの存在なくして『イルブリード』のクレイジーっぷりは語れない。全編英語音声で日本語字幕なのだが、本当にそんなこと言ってるのかと疑いたくなる……「というか今の絶対そんなこと言ってないよね」と突っ込みが追いつかないほどのキラリと光る字幕が秀逸なのだ。当時はよくランディのモノマネを友人の前で披露したものだ。ぎこちない動きで「チェーンソー買うでぇ~」って言ったらもちろん普通にスルーされたよね。
あまりに高額すぎる賞金を怪しんだエリコは一人残ったものの、消息不明となった仲間が心配になり殺人お化け屋敷へと向かうことになる。先にも触れたがこの『イルブリード』は「ショックイベント」と呼ばれるトラップが随所にあり、引っかかると本当にダメージを受けてしまい命の危険がある。中にはギロチンや炎が噴き出す仕掛けまであり、「どうだ怖いか! 怖いだろう! というかいっそ死ねェェェ!!」と言わんばかりの勢いでこちらを殺しにかかってくるのだ。
一方でこのゲームは怖さだけではなく、B級テイスト溢れるおバカな感じ(褒め言葉)が「イルブリ道」を語る上で外すことのできないもうひとつの魅力である。その最たるものが、ショックイベントに引っかかった際のキャラの肉体から噴水のように高々と飛び散る血飛沫。一回ダメージ受けただけで身体中の血液が全部流れ出たんじゃないかってくらい面白いように画面が血の海になるのだ。
なんかスプラッター映画で見るよねそういうの。
ミシェル「エリコ! 出てる出てる! 血が面白いくらいに出てるよ!?」
エリコ「ああ、これくらい大丈夫。さ、行くわよ」
ミシェル「えっ」
私も思わずプレイしながら「出てる出てる! 笑っちゃうくらい出てる! さすがエリコ! 自らの血の海を颯爽と歩く姿はレッドカーペットを歩くハリウッド女優のよう!」と戦慄しながら進んでいた。画面には体力バーや出血メーターなどが表示されているが、これだけ出血しても表示上ではほんのちょっと。たぶんエリコたちは血液が人間の数十倍もある新人類なのかもしれない。
……と、それくらい大ケガするショックイベントもあるが、私がプレイした中で一番ある意味ゲンナリしてしまったショックイベントは、誰のか分からない「尻」から「汚物」が噴出してくるヤツ。思わずその尻を叩きたい衝動に駆られたが、それっきり尻は沈黙を守った。頭隠してたら尻も隠しといてほしかった。いやそれはさておき、中には「本物の化け物」らしき敵も潜んでいることがある。それらはゾンビのような人型であったり巨大な獰猛ミミズであったり集団で襲い掛かってくるサルであったり、バリエーションは多種多様。もちろん迎撃は可能で、武器をマップ上で見つければ敵を倒すこともできる。もし武器を所持していない状態で敵と遭遇してしまい逃げたくなったら、救助用のヘリコプターがラダーを下ろして助けてくれるという緊急避難の手段も用意してくれている。たとえ屋内であろうとも駆けつけてくれるという心遣いがニクイ。『イルブリード』のスタッフは優秀で至れり尽くせりなようだ。
その演出からも見て取れるように忘れてはいけないのが、本当に死ぬかもしれない仕掛けをしてあったとしても『イルブリード』はあくまで「お化け屋敷」であるということ。のこのこと迷い込んできたプレイヤーに襲いかかる敵も、必ずそれをコントロールしているスタッフがいる……そんな変なところで「アトラクション」という領域を守っているのがまた何とも言えない味だ。
『イルブリード』には後世にまで語り継がれるような、愛すべきおバカキャラクターたちで溢れている。よくここまでセンスの良いキャストを揃えられたものだと感心する。雰囲気はホラーなのに面白おかしいミュージカルの中に入ったかのような……。
エリコたちもさることながら、見た感じゾンビにしか見えないおじさんも、ボスとして登場するバンブローさんも、リアルすぎて本当にお化け屋敷のキャストなのかと疑ってしまうほどの強烈な個性が爆発している。というかバンブローさんのビジュアルが非常にアレすぎてスクリーンショットも載せようかどうしようか迷うところはあるが、この人も愛すべきボスなのでぜひ皆さんに知って欲しい。
まだまだ画面を彩るキャラクターはいるがとても語り尽せない。イルブリードはキャラクターや名言の宝庫と言ってもいい。前述した「わしは死にますじゃい」や、「材木人間」として登場する人形バージョンのランディが放った「あぷぷーぷりぷりー」など、およそ日常生活でも使えるんだか使えないんだかの微妙なラインを攻めてくる言葉が詰まった名言ゲームだ。発売から十年以上経った今でも目をつむるとおじいさんがうるさいくらいに語りかけてくる。
おじいさん「わしは死にますじゃい……わしは死にますじゃい……ますじゃい……じゃい……」
私「私はイルブリードやりますじゃい……じゃい……」
そんな日常生活にも浸食してくるようなクレイジーな世界観に浸りながら、私は寝る間も惜しんでお化け屋敷攻略に勤しんでいた。実際に周りで『イルブリード』を知っている人は全くいなかったが、隙あらば「このゲーム面白いって! やってみたら絶対ハマるから! なかなか怖いけど! 操作性はあまり良くないけど……うん、でもなんか中毒になるから絶対!」なんて熱心に布教活動を続けていたものだ。
そう、当時からもあまり操作性は良くなかった。加えて私の手にもちょっと大きいドリームキャストのコントローラー。最初は上手く操作できなかった。しかしこのゲームにはそんなことはさほど問題ではなく、大事なのはこのゲームに「クレイジー」になれるか、つまりどれほど夢中になれるかということ。あまり「やり込み」という言葉の意味をよく知らなかった当時の私でも、隅から隅までやり尽くした! と言えるゲームのひとつだったね。プレイヤーキャラクターには体力や出血量などのパラメータもあり、強化用のアイテムを使えば改造人間ばりの最強戦士へと成長させることができたりする。そしてある手順を踏んでステージをクリアしていくと、一周目では見ることのできなかった真のエンディングが見られたり……と、やり込み要素も充実していた。こんなとち狂った世界観にやり込み要素満載のゲームなんて、そりゃあプレイしちゃうよね。
今思えば、青春時代になんてゲームをやってたんだと脱力してしまう部分もあるが(めちゃ褒めてる)、このゲームをプレイしていたからこそ、今のホラーゲーム好きの私が構築されたといっても過言ではない…………か?
前述したように音声は英語で字幕は日本語だが、意外というかなんというか、純国産のゲームだ。「こんな強烈な世界観を作れる日本のかたがいるのか!」と感動のあまり抱きつきたいくらい。日本語字幕のセンスも飛び抜けてて言葉のチョイスに思わずニンマリしてしまう。
おバカ要素は多々あれどれっきとしたホラーゲームであり、全編通して陰気な雰囲気が漂っている。いきなり何の前触れもなく敵が出現したり、ショックイベントが発動する時の「デンッ!!」という大きな音があったりで、本当に心臓が弱い人はやめておいた方が良いかと思うが、ビックリトラップ上等な人には是非ともプレイしてもらいたい。
惜しむらくは、今のところどのハードにも移植されておらず、ドリームキャスト本体でプレイするしかないという点のみ。しかし本体ごと購入して余るほどの恐怖と笑いの体験が待っているはずだ。このゲーム、手放しでオススメしますじゃい。