Lenovo Y50 2014年ゲーミングノートの試金石


薄型ゲーミングノート『Lenovo Y50』はコストパフォーマンスが魅力だ。intel Core i7-4710HQとnVIDIA GeForce GTX860Mに、SSHD(HDD内部にキャッシュ用としてSSDを搭載したもの)を搭載している。本機の海外最安モデルは、輸入手数料込みでも13万円を切る。自宅寝室やゲームパーティに持ち込む「2台目のゲーミングPC」を物色しているなら、こういった薄型ゲーミングノートは手堅い選択肢だろう。

 

厚さ23.9mm。モニタ部をのぞいた本体は厚めの漫画単行本1冊分。
厚さ23.9mm。モニタ部をのぞいた本体は厚めの漫画単行本1冊分。

 

幅387mm、奥行き263.4mm。新書サイズの漫画単行本4冊より少々大きい。
幅387mm、奥行き263.4mm。新書サイズの漫画単行本4冊より少々大きい。

 

重量約2.4kg。身近な例。
重量約2.4kg。身近な例。

本記事は3章構成で本機を掘り下げていく。前半部の第1章は薄型ゲーミングノートの位置づけを確認する。あわせて、2014年下半期に発売した同価格帯の対抗製品も紹介する。後半部の実機レビューでは、第2章でスペックや本体の構成といったハードウェア面を、第3章で配信のような運用面を評価する。購入の選定資料となれば幸いだ。

 

 


2014年ゲーミングノート総評

 

本稿では、最新ゲームがプレイに支障のない程度に動作しつつ、薄型・軽量といった物理的な性能にもこだわるノートPCのことを薄型ゲーミングノートと呼称する。重量約2kg、厚さ約2cmとintelが提唱した「Ultrabook」カテゴリにおおむね準拠しつつ、ミドルレンジ以上のCPUとGPUを搭載した新興カテゴリだ。

2014年の薄型ゲーミングノート市場を一言であらわすと、低価格化だろう。高価格帯でのハイエンド志向は以前からあったが、6月24日発売の『Lenovo Y50』を皮切りに、15万円未満の価格域で性能水準の向上がはじまったところだ。

 

タブレットに特注nVIDIA GPUを搭載した「Razer Edge」。 排熱や各種専用機器の価格などでヒットにいたらなかった。
タブレットに特注nVIDIA GPUを搭載した「Razer Edge」。排熱や各種専用機器の価格などでヒットにいたらなかった。

登場の背景には、タブレット・ファブレットの好調(昨年比+6.5%・+209.6%)と、ノートPCの不調(昨年比-4.7%)がある(IDC資料)。価格と可搬性でタブレット・ファブレットに市場を奪われたノートPCは、タブレットらを大きく引き離すスペックと可搬性とを両立する"薄型ゲーミングノート"という選択肢を産みだしたのだ。

2012年のE3にRazerが発表したゲーミングタブレット「Razer Edge」に触発されるかのように、メーカー各社は昨年ごろよりゲーミングノートの小型・薄型化という方針を模索してきた。今年はLenovo、Dellといった大手PCメーカーも注力してきている。国内ではMSI『GSシリーズ』やRazer『Razer Blade』が薄型ゲーミングノートとしてメジャーなところだろう。

 

 

さきにあげた機種をはじめ、薄型ゲーミングノートに共通する要素は「ゲームへの純化」と「スタイルの追求」だ。このカテゴリはUltrabookの個人利用と同様、"所有者になる感動"に付加価値を感じなければ割高にみえる。つまりは道楽品だ。本機はミドルレンジ機の手ごろな価格と、さきにあげた薄型ゲーミングノートの要素を両立することでカテゴリに一石を投じた。

2014年末現在、「薄型」にこだわらなければ対抗製品として下記の3機種があげられる。発売時期と価格帯から、15万円未満の製品でもゲームプレイに支障がないレベルまで性能が向上したことがおわかりだろう。

  • マウスコンピュータ『NEXTGEAR-NOTE i610BA1
    2014年10月24日発売。税込み10万8000円。
    厚さ34.9mm、幅376mm、奥行き252mm。重量約2.6kg。
  • Dell『Alienware 13
    2014年10月28日発売。税込み14万円。
    厚さ27.9mm、幅328mm、奥行き235mm、重量約2kg。
  • acer『Aspire V Nitro
    2014年11月28日発売。税込み11万9000円。
    厚さ23.9mm、幅389mm、奥行き257mm、重量約2.4kg。

    (本体寸法はメーカー公表情報を転載)

 

左よりマウスコンピュータ『NEXTGEAR-NOTE i610BA1』、Dell『Alienware 13』、acer『Aspire V Nitro』。 これらは、今回紹介する『Lenovo Y50』と立ち位置が近い、ゲーミングノートと称したモデルだ。
左よりマウスコンピュータ『NEXTGEAR-NOTE i610BA1』、Dell『Alienware 13』、acer『Aspire V Nitro』。これらは、今回紹介する『Lenovo Y50』と立ち位置が近い、ゲーミングノートと称したモデルだ。

 

レビューと各製品との比較を通じ、これらミドルレンジ機の性能を紹介する。

 


お得感あるカタログスペック

 

さきに結論をのべると、『Lenovo Y50』はハイエンド機ではない。ミドルレンジ機に小型・軽量化をほどこし音響・廃熱対策など付加価値をつけたものだ。これより「スペック」「本体」を優・良・可・不可の4段階で評価する。また、本機でゲームを配信するさいに注目すべきポイントについて、次章で評価する。

 

lenovoy50f3

  • スペック評価「良」
    intel Core i7-4710HQ + nVIDIA GeForce GTX860Mを搭載した他のノートPCと比較しても、当然ながら同一型番のパーツであるため誤差程度の違いとなる。性能をおとさず本体サイズの小型化に成功していることは評価できるだろう。SSDではなくSSHD搭載のため、価格を抑えつつもHDD搭載機よりOSやアプリケーションの起動がかなり速いことも特筆すべきポイントだ。
     

 

 

ベンチマークのスクリーンショット。『3DMark Fire Strike』3689。『ウルトラストリートファイター4』(1920x1080 最高品質)5940。 『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編』(1920x1080 最高品質)5908。
ベンチマークのスクリーンショット。『3DMark Fire Strike』3689。『ウルトラストリートファイター4』(1920×1080 最高品質)5940。『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編』(1920×1080 最高品質)5908。

 

  • 本体評価「可」
    モニタは「4K Ultra HDモデル」がIPS方式、それ以外はTN方式となる。レビューにもちいたモデルはTN方式のため、縦軸の角度による色・輝度変化が大きい。

 

TN方式は縦軸の角度で変化が大きい。ゲームの種類によっては致命的だ。 画面に顔を近づけた姿勢でプレイすると、部位ごとに色合いが変わる。(原寸画像)
TN方式は縦軸の角度で変化が大きい。ゲームの種類によっては致命的だ。画面に顔を近づけた姿勢でプレイすると、部位ごとに色合いが変わる。(原寸画像)

 

横軸の角度変化も多少ある。高価だが視野角に色変化が少ないIPS方式とくらべ廉価品ゆえの性能だ。 本機にかぎらず、カタログにディスプレイ方式の記載がないノートPCは、TN方式である可能性が高いと思ってよいだろう。(原寸画像)
横軸の角度変化も多少ある。高価だが視野角に色変化が少ないIPS方式とくらべ廉価品ゆえの性能だ。本機にかぎらず、カタログにディスプレイ方式の記載がないノートPCは、TN方式である可能性が高いと思ってよいだろう。(原寸画像)

 

スピーカーはJBL製。サウンドチップはRealtekだが、ドルビーアドバンストオーディオv2でソフトウェア補強している。底面にはサブウーファースピーカーを搭載し、足音や銃声といった効果音に強い。とはいえ一般的なノートPC内蔵チップであるため、音を気にするのであればUSB-DACを利用したほうがいいだろう。

 

本体右底の存在感あるサブウーファー。(画像右は底面パネルをとった状態) あなたがピュアオーディオの住人でなければ、ゲーム中の効果音に満足できるだろう。
本体右底の存在感あるサブウーファー。(画像右は底面パネルをとった状態)あなたがピュアオーディオの住人でなければ、ゲーム中の効果音に満足できるだろう。

 

最後に排熱対策について。ここでは『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編』を、フルHD・最高品質で1時間稼働させた状態をゲーム時とする。本機でプレイするタイトルとしては妥当な負荷だろう。キーボード部はゲーム時で10度ほど上昇したが、パームレスト部はほぼ変化がない。エアフローは本体背面より吸気、奥側のモニタと本体のあいだから上向きに排気。手を伸ばす箇所に排気口がないのはポイントだろう。熱風が直接手に当たり、不快な思いをすることはない。

 

 

アイドル時
室温22度

  中央
キーボード部 29度 30度 27度
パームレスト部 24度 23度 28度
背面最高温度 26度

 

 

ゲーム時
室温21度

  中央
キーボード部 38度 40度 30度
パームレスト部 24度 27度 25度
背面最高温度 38度

 

 

本機のヒートシンク・排気口は本体-モニタ間のスキマにある。モニタを閉じると熱風の逃げ場がなくなる。 モニタを閉じての稼働には注意されたし。(工場出荷設定はモニタを閉じるとスリープする)
本機のヒートシンク・排気口は本体-モニタ間のスキマにある。モニタを閉じると熱風の逃げ場がなくなる。モニタを閉じての稼働には注意されたし。(工場出荷設定はモニタを閉じるとスリープする)

 

配信時を考慮しないなら十分な性能だ。モニタがIPS方式で外付けBlu-Rayドライブまで付いてくる「4K Ultra HDモデル」なら、本体スペックは「良」判定。他社から対抗製品がリリースされたからか、そのモデルを最安13万6000円で販売(レノボジャパン)とコストパフォーマンスを改善した。これにより、発売から半年たつ今でもゲーミングノートのエントリーモデルとして十分紹介できる。

 


薄型ゲーミングノートにもとめる配信機材としての性能

 

これより冒頭でゲーム用途の要素にあげた「配信」についてレビューする。これは筆者独自の評価点だ。e-Sportsやゲーム実況の流行を鑑み、ゲーム実況配信もゲーム文化の一部と筆者は考える。薄型ゲーミングノートの利点は、軽量ゆえの可搬性である。ゲーム大会の様子を配信する、ゲームパーティへの持参にうってつけだ。ゆえに、配信するさいのスペックもゲーム用途の一側面として評価の対象にした。本機の配信スペックは「可」だ。

まず、配信機材について。コンシューマー・アーケードといったUSBビデオキャプチャを用いる配信では、CPUパワーが足りており問題無い。PCゲームと配信ソフトを本機で同時に動かすときはCPUのパワーに不足を感じる。いくらCore i7とはいえ、モバイル版のCPUだ。致し方ないところだろう。これは配信ソフトを軽負荷にすることでカバーできる。ニコニコ生放送といった低画質環境なら問題ない。

なお、nVidia GeForce GTXシリーズは録画・配信処理をGPU側で処理する「ShadowPlay」機能をアピールするが、動作するのは対応ゲームのみだ。GeForce Experience対応ゲームでも『Sid Meier's Civilization V』は可能で『Don't Starve』は不可とばらつきがある(2014年12月9日現在)。非対応ゲームでShadowPlay機能を使うためのデスクトップキャプチャー設定もできないため、どんなゲームにもShadowPlay機能が使えるわけではない。

 

「nVIDIA GeForce Experience」のShadowPlay設定画面。ノートPC版はデスクトップキャプチャ設定がない。 対応ソフトかどうかは、オーバーレイ部分のステータス インジケータをONにしておき、それが表示されるかどうかで判別する。
「nVIDIA GeForce Experience」のShadowPlay設定画面。ノートPC版はデスクトップキャプチャ設定がない。
対応ソフトかどうかは、オーバーレイ部分のステータス インジケータをONにしておき、それが表示されるかどうかで判別する。

 

内蔵マイクはノイズリダイレクション方式でシグナル/ノイズ比が高い。声をだしていない状態の入力音量、つまり「実況の無音状態」を指標にすると、マイク音量を最大に設定して-45dB。標準的な品質だ。ソフト側の設定で指向性・無指向性、スピーカー音の相殺(これは音がひずむ)を設定できる。マイク選びは配信環境の構築でつまずきやすい項目だが、この内蔵マイクは及第点の品質だ。

上記の内蔵マイク以外の入力系は一般的なノートPCと同レベルである。ハイエンド機と比較した場合、ゲーム配信の要望にこたえられていない。

  • 内蔵カメラ
    要「webカメラ」。不快な画質。オートフォーカス、顔追従、リアルタイム画質補正は非対応。海外で主流の顔カメラつき配信やテーブルゲーム配信は、USBのwebカメラが必要だろう。なお、ユーザーガイド、公式サイトに性能の記載がなく、比較検証はできない。
  • オーディオ端子
    要「USB対応ミキサー」。マイクとスピーカーを統合したコンボオーディオ端子(4極プラグ)を採用しており、一般的な3.5ミリ端子のマイクを単体でつないでも認識しない。音響機器との連携はUSB対応ミキサーが必要となる。
  • USBポート
    要「Bluetoothコントローラー」。USB3.0を2つ、USB2.0を1つの計3つ。USBのパッドやコントローラーは、USBハブに接続すると正常に利用できないことがある。そのため、4人マルチプレイのゲームでは、高価なBluetoothコントローラーを用意しなくてはならない。
  • 画面出力
    要「HDMI分配器」。HDMI端子1つ。一般的な端子ではあるものの、Display Port規格のように数珠つなぎで枚数を増やせない。モニタ出力が1枚のみで、格闘ゲーム大会のようにプレイヤーごとのモニタを用意するにはHDMIの分配器が必要となる。

これらは特殊な状況のようにみえるが、ハイエンド機の代表格 Dell『Alienware 17』は高いカメラ品質、USB端子4ポート、非コンボのオーディオ端子、ディスプレイポート出力で対応することが可能だ。つまり、ミドルレンジ機はハイエンド機からリッチな配信性能を削ったことで「お得感」をうみだした。本機をゲームパーティの配信機材としてもちいるならば、これをカバーするための周辺機器が必要だ。

内蔵マイクの品質が良いため、ヘッドホンがあれば声入りでゲーム配信ができる。また、国内では顔出し配信がそれほどメジャーではないことを加味した上で、配信スペックを「可」とした。目的に応じて周辺機器で増強されたし。

 


総評:4か月前ならゲーミングノートのエントリー機

 

本記事冒頭を繰り返すが、『Lenovo Y50』はコストパフォーマンスが魅力だ。最低スペックのモデルが、輸入手数料込みでおよそ13万円未満。6月24日発売当時であれば最安の薄型ゲーミングノートだ。後発の対抗製品でお得感はうすれたものの、日本Lenovoが「4K Ultra HDモデル」の割引販売をはじめ、コストパフォーマンス面で肩を並べた。

さきのレビューで紹介した「配信機能」の視点もくわえ、対抗製品の概要を紹介する。

  • マウスコンピュータ『NEXTGEAR-NOTE i610BA1
    2014年10月24日発売。税込み10万8000円。
    スピーカー・内蔵ドライブの質はおちるものの、そのぶん安価。USBポートを4つもちUSBコントローラを4本接続可能。
  • Dell『Alienware 13
    2014年10月28日発売。税込み14万円。
    CPUスペック、モニタサイズ・内蔵ドライブの質は落ちるものの、モニタに視野角が広いIPS方式を採用し、画像出力もディスプレイポートとHDMIを各1つ、さらに200万画素のフルHDwebカメラも搭載しており配信時の使い勝手で上回る。
  • Acer『Aspire V Nitro
    2014年11月28日発売。税込み11万9000円。
    CPUとGPUのスペックは下がるが、その分安価。

    (スペックはメーカー公表情報を転載。機種名のリンクは公式カタログページ)

 

マウスコンピュータ『NEXTGEAR-NOTE i610BA1』、Dell『Alienware 13』、acer『Aspire V Nitro』。 ゲーミングノートを自称するが、スペック・本体・配信性能は大きくことなる。
マウスコンピュータ『NEXTGEAR-NOTE i610BA1』、Dell『Alienware 13』、acer『Aspire V Nitro』。
ゲーミングノートを自称するが、スペック・本体・配信性能は大きくことなる。

 

『Lenovo Y50』をふくめ、これら4製品の薄型ゲーミングノートは、2014年末におけるゲーミングノートのエントリーモデルだ。その一角を占める『Lenovo Y50』は、スペックとモニタサイズ、音響面を重視した。ここに、エアフロー・排気口の位置といった排熱部分と、メモリ・内蔵ドライブ換装が容易な点を評価にふくめたい。自宅の寝室でミドルレンジ機のゲーム品質を楽しみ、ゲームパーティで配信機材の心臓部とし、コストパフォーマンスも追求できる。「損をしない選択肢」としてゲーマーのニーズに手堅くこたえたゲーミングノートだ。

 

信楽焼のコーヒーカップと『Lenovo Y50』。ちなみに、筆者が本機(海外モデル)を個人輸入で入手したのち、 レノボジャパンが上位版の「4K Ultra HDモデル」の割引販売をはじめた。 デジタル製品の宿命ではあるが、密かに傷心している。
信楽焼のコーヒーカップと『Lenovo Y50』。ちなみに、筆者が本機(海外モデル)を個人輸入で入手したのち、
レノボジャパンが上位版の「4K Ultra HDモデル」の割引販売をはじめた。デジタル製品の宿命ではあるが、密かに傷心している。