筆者の家にあるガジェットや、新しく買ったガジェットをどうにかしてゲームに役立ててみる不定期連載「Game(r) and Gadget」。今回はガジェットとするには大物だが、EIZO株式会社の『FORIS FS2434』を購入。物欲四散!
なぜFS2434を購入したのか
一口にPC向け液晶モニタといっても、実態としては価格帯や品質・性能などでさまざまな分類がなされる。1~2万円で買える、映ればそれでよしの低価格帯モニタ。購入時にキャリブレーションされているような5万円からのカラーマネジメント向けモニタ。4k解像度・30インチオーバーの10万超えモニタ。それぞれにメリットとデメリットがある。
今回紹介する『FORIS FS2434』の公式ページ上での立ち位置はエンターテイメントであり、ゲームを前面に押し出してはいない。ゲーミングモニタで定番の「このFPSで云々」といった文言もない。現在ゲーミングモニタに求められる付加価値というと、応答速度だけではなく、高いリフレッシュレート(120Hzなど)が含まれるためではないかと推測する。
では、FS2434でゲームをプレイするのは妥当ではないのかというと、そうでもない。筆者はこれをゲーム用として購入した。ただし筆者は、ゲーム以外の用途でも使用する。たとえば本稿もメインモニタにすえおいたFS2434で執筆している。そのため、個人的な感覚ではあるが液晶はIPSパネルが望ましい。IPSパネルでリフレッシュレート120Hzのモニタとなると三菱電機の『RDT234WX』が挙げられるのだが、現在新品で手にいれることはできない。昨年末に三菱電機は液晶ディスプレイ事業から撤退しているため、後継製品が出ることもないだろう。そうなるとIPSパネルかリフレッシュレート120Hzか、どちらかを選択することとなる。
筆者にとっては、高いリフレッシュレートよりもIPSパネルのほうが優先度は高かった。筆者はガンマを高くするとすぐに目が疲れてしまうのだ。暗いところが見やすく、かつ明るい(というか白いものを見ても目が疲れない)ような製品を探していたところ、本製品に行き当たったわけだ。
FS2434の特徴
IPSパネルということもあり、比較的目は疲れづらい。筆者が以前使用していたVAパネルのモニタは白いウェブページと暗いゲーム画面の両立が非常に難しかったのだが、これが解消された。
もちろん、IPSパネルであれば満たせる要件ではあるのだが、FS2434にはそれにくわえて明るさを自動調整する機能がある。部屋の明るさに応じて明るさを変えるだけではない。描画しているものによって自動的に明るさが変わるのだ。これにより、ゲームとブラウザを切り替えるたびに、いちいちリモコンなどでモニタの設定をいじるわずらわしさから開放された。これは大きなメリットである。
ベゼルがコンパクトなのも特徴のひとつだ。ただ、これは好みもあると思うため、必ずしもメリットとはいいきれないだろう。ベゼルに引っかけるようなアイテムを使用していたり、モニタの左右に付箋を貼ったりしている方は注意したほうがいい。
また、筆者の環境がVAパネルからIPSパネルに変わりさらにメーカーが変わった、しかも旧モニタは5年以上使用して色が変わってしまっているせいもあるだろうが、FS2434はかなり「色が濃く」なっているように感じた。定量的な情報をお伝えすることは至難だが、たとえば同じsRGB設定で出力した際に表示される色彩からはビビッドな印象を受ける。主観かもしれないが、ともあれ一つの画像を複数のモニタをまたいで表示させればはっきりするだろう。同一世代のモニタを並べて精密に比較するのもなかなか難しいが(大手家電量販店のモニタコーナーでの品定めは、照明の影響をおおいに受けることを忘れてはならない)。
ちなみに、勤務先で使用している1万円台のIPSパネル製品と比較してもあきらかに"濃い"。もちろん設定で濃度は変更できるのだが、しばらく使用しているとこれはこれでいいかと思えてくる。モニタを変えるときは往々にして、ある程度慣れの問題となる。
カラーモードの切り替えは、プリセットを変更するだけかと思っていた。しかし、カラーモード「Game」のLight SceneとDark Sceneを見比べてみると、数値自体は同じにもかかわらず、明確に見えかたが違っている。ユーザーが設定できない範囲のものであるようだ。筆者の場合、Light Sceneで明るさを調整して使用しているが、比較的暗いシーンでも問題なくプレイできている。好みもあるので、カラーモードは好きなものを使用するのが一番いいだろう。
FS2434をおすすめしたいゲーマー、おすすめできないゲーマー
ゲーム用モニタといってもさまざまだ。FS2434は、暗いシーンが頻出するようなゲームをプレイし、かつ目の疲れが気になる……つまり、筆者のように三十路にさしかかってきており、しかも毎日会社でモニタとにらめっこして目に疲れがたまっている。しかしゲームはしたい。そんなゲーマーにはおすすめできる。
リフレッシュレートが120Hzでなくともゲームはできるが、目が疲れてゲームができない、プレイするのがつらい、そんな層には悪くない選択肢だ。ただし当然ながらこのモニタを使用したからといって眼精疲労から解放されるわけではない。本質的な問題解決にあたっては、適切なプレイ時間と休憩のプライオリティのほうがはるかに高い。
逆に、何時間ものプレイをものともしない若く健康なゲーマーにはFS2434は少々物足りないかもしれない。若々しさを武器に積極的かつハードなゲーミングに挑むゲーマー諸氏は、高リフレッシュレートを謳うモニタを買ったほうが最終的な満足度は高い可能性がある。
結論すると、「ゲームはもちろんプレイはするが、ゲーム以外の作業もするような方にもFS2434はいい」だろう。IPSパネルのモニタ自体は数多く販売されている。しかし、明るさとゲームという視点、またEIZO製という品質も考慮すると本製品は有力な選択肢となる。上記の条件に適合し、かつモニタをそろそろリプレイスしたいといった方は、FS2434を考慮に入れても損はないだろう。
安田伸毅による補記
弊誌執筆陣はたしかにゲーマーが多い。だが、いくらなんでも同じデジモノを同じタイミングで買うことなど、新ゲームハードやクパチーノ由来製品以外まずありえない。がしかし、そんな"当然"を乗りこえ、安田と齋藤はほとんど同じ日に左クリックしている(まあ、多少の口裏はあわせたが)。そして使用用途もほぼ同じだ。違いといえば、安田のほうが稼働時間が長いことくらいだろうか。
さて、FS2434に対する印象はおおむね齋藤のそれとかわらない。ただ、数点補足したいところがあったのでここに追記する。
まず、目が疲れないかについてだが、これは運用方法と慣れによるかもしれない。安田の場合、1日10時間程度このモニタをながめている。ハードユースに分類されるだろう。この条件下において、単一の設定ではかならずしも目にやさしいとは言いきれない。すべてプリセットのsRGB設定にして、併用している三菱のVISEO MDT242wg/MDT243wgと比較すると、主観が入るものの率直に言ってVISEOのほうに軍配が上がる。ただ、これはVISEOが5年以上もの酷使によって色が劣化した結果であるおそれもある。また、齋藤が述べていたとおり慣れの問題もありうる。いずれにせよ、本当に長時間使い続けるならPaperモードを使う選択肢も忘れてはならないだろう。
しかし、FS2434の発色・発光がさほど目にスパルタンでないこともたしかだ。某社のゲーミングモニタのテスト機を借りたことがあったのだが、それで丸一日作業したところ比喩ではなく目がやられた。ほとんど目潰しであった。それを思い返すと、現段階では「目が疲れない」という評価もあながち過大ではない。
同じく2枚のVISEOと比較したとき、ほかにも明確な差がある。視野角と、モニタのサイズだ。
視野角については、これはほぼ間違いなくFS2434のほうが劣る。すこし視点を変えたら色ムラが見える。ただ、VISEO/FS2434/VISEOと3枚並べた状態で、その悪影響が出るかというとノーだ。意図的に変な角度からのぞきこんだりしないかぎり問題はない。ただ、カタログスペックが語るほどに実際の性能は同じではないということは(モニタの世界では常識かもしれないが)あらためて強調しておこう。
モニタのサイズは、購入前に私を躊躇させた最大のポイントだ。手持ちが24.1インチのWUXGA、FS2434は23.8インチの1080p。じつになやましかった。表示部のサイズはおおよその実測値で520mm*320mm。これが527.0mm*296.5mmになるのだ。解像度が下がるのはいたしかたないし、ゲーム用途を考えるとむしろ好都合であるとも思えたが、はたして面積の少なさに不満を覚えるかは未知数だった。
物が届き開封した段階では、失敗したと思った。あまりにも小さい印象を受けたからだ。だが、いざ数日使ってみるとそれが誤解だったことに気づいた。(ほぼ)ベゼルレスが、モニタ全体を小さく見せていただけだったのだ。縦幅がせまくなったのは作業用としては残念ながら減点要素だが、極端に使いづらいこともない。許容範囲内だ。
ともあれ、FS2434が現状まさしくメインモニタとして眼前正面に位置しており、作業用にもゲーム用にもまったくといっていいほど不満がないことだけはたしかだ。同サイズ・同系統のモニタと比較すると若干高価ではある。が、国内メーカーへ全幅の信頼をおきたい、あるいは国産製品の所有欲を満たしたい、そうしたニーズを心のなかに飼っているのならば本機は購入に値する。