押井守の『Fallout 4』通信
第7回「されどジャンクの日々」

押井監督が『Fallout 4』のプレイ状況をお伝えする隔週連載「押井守の『Fallout 4』通信」。大量のアーマーを集めた押井監督、次なる興味はジャンク品へと移ったようです(編集部)。
押井監督が『Fallout 4』のプレイ状況をお伝えする隔週連載「押井守の『Fallout 4』通信」。大量のアーマーを集めた押井監督、次なる興味はジャンク品へと移ったようです(編集部)。

※本連載は押井守メールマガジン『押井守の「世界の半分を怒らせる」』にて掲載された内容を再編集したものです。

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【Twitter】@oshimaga

 


 

この原稿を執筆している時点でレベル112です。

もはや「ビビリセーブ」の必要もないほどの強者です。

デスクロー先輩もクリティカルで一撃。登場するスーパーミュータントもレベル100超えのウォーロードばかりです。恐れるものと言えば、同棲しているケイト姐さんの辛辣な一言だけで、B.O.S.の前線基地を襲撃して皆殺しにすることも日常と化した今日この頃です。

ああ、それなのに……何故にジャンク収集が止められないのでしょう?

男はがらくたである。一生、地の上をがらくたを引っぱって歩く。
行く先々に、がたくたを引っぱって行く。止まるたびにがらくたを積み重ねる。がらくたの中に住んでいる。がらくたを愛している。がらくたを崇拝している。がらくたを集めて、がらくたの上に突ったって番をする。
――ウィリアム・サローヤン

『DQ8(ドラゴンクエスト8)』でチーズ造りのために牛を探し回り、一度も実戦で用いることなく各種のチーズを大量にストックしていた私です。『DQB(ドラゴンクエストビルダーズ)』ではジャガイモ栽培家と化して倉庫をジャガイモで満たしていた私です。そんな私がジャンク漁りを止められるわけがありません。ケイト姐さんには「そのガラクタを捨てなさい」と、プラモ親父の奥さんのような説教を喰らいますが止めません。

今日も今日とて廃墟に出撃しては背負えるだけのジャンクを背負って戻ります。
黙々とジャンクを運んでくれるのはドッグミートだけです。

YouTubeの投稿動画を眺めると、名だたるプレイヤーさんたちは弾薬とキャップとスチムパック以外には目もくれず、たまに目の色かえるアイテムといえば伝説級のそれだけのようですが、私はエイリアンのオモチャだろうがタイプライターだろうがシチュー鍋だろうが、なんでもかんでも持ち帰ります。汚染された食品や焼け焦げた雑誌はさすがに拾いませんが、それ以外の解体できるアイテムはレベル100を超えた現在も、武器や装備の改造の余地がなくなった今も、殆どもれなく持ち帰ります。重量オーバーで持ち帰れないジャンクはファストトラベルを繰返して持ち帰ります。持ち帰ったジャンクは床にぶちまけて解体します。初期は原料に変えておかないとムダが出るから、という理由でしたが、今は解体する作業自体が楽しくて床にぶちまけます。ドッグミートが蹴散らかしますが、目を皿のようにしてヒューズから真空管まで解体します。

この作業がまた楽しい。

実を言えば、名だたるYouTubeのプレイヤーさんたちも、いまさら弾薬やキャップに不自由な筈がなく、それのみを選んで回収する根拠は単に弾薬とキャップには重量がないからであり、モノに執着することにおいて私と何ら変わらないのではないでしょうか。

私のアイスクーラーには一度も呑んだことのないヌカ・コーラやアルコール類が充満し、金庫にはもはや捌くつもりもないドラッグや戦術核でイッパイです。

使用価値を超えて欲望を喚起するもの。
虚構だからこそ収集癖を惹起して止まないもの。
人はそれをジャンクと呼ぶのです。

最近は射殺したレイダーやガンナーをパンイチに剥いた副産物の武器装備は、パイプピストルや肌着一式のようなチープなそれまでもれなく回収し、近場の居留地のワークショップに放り込むことにしました。ゴロツキどもをパンイチにする快楽を享受しつつ、地域住民の福祉も図る一石二鳥、一粒で二度美味しいグリコ路線です。スーパーミュータントや人造人間はパンイチに剥けませんが、それが人間の死体である限り、ゴロツキのレイダーだろうが敢えなく死亡した入植者だろうが誇り高きB.O.S.のナイトだろうがカルトの伝道師だろうがモヒカンの姐さんだろうが容赦なくパンイチに剥きます。パンイチになれば皆ホトケであり、そこに何の違いがある筈もありません。誰かの言い草じゃありませんが「それは彼らにはもはや必要がない」のですから、資源として有効に活用するべきです。

ジャンクの解体と同じです。

止むなく倒した野生動物や路傍のバラモンの腐肉も持ち帰って焼き肉加工した上で手近のお店に出します。
最強のスカベンジャーにして焼肉卸し業者です。
これらの作業のすべての過程で敵との不期遭遇戦闘が派生しますから、これをこなしていけばチミチミと経験値が稼げます。ベルチバードを何機撃墜しても一文にもなりませんが、肉を焼いただけでも爆弾を製造しただけでも経験値になるのがこの世界です。
サローヤンの言い草じゃありませんが「がらくたを集めるのが男」であり、その果てのレベル112ですから胸を張っても許される筈です。

まあ、ただの馬鹿ともいいますが。

ちなみに最近は衣服の回収を積極的に始めました。

面倒を見ている入植地も二桁を超えたので、ここらで服飾革命でも始めようか、というのがその動機です。
先行試作として、インスティチュートに潜入して大量に盗んだ白衣や制服で「偽インスティチュート入植地」をデッチあげようとしたのですが、入植者に着せた途端に敵対関係に変化して一斉に襲いかかられたのには一驚しました。
あれはいったい何だったのでしょう?
インスティチュートにはスパイとして協力者を装っている筈なのに、なぜバレたのでしょう。
謎です。
組織の制服はヤバそうなので、大量に備蓄したB.O.S.制服の使用による「偽B.O.S.入植地」も諦めました。現在は野球のユニフォーム、野球帽にバット装備の「ボストン・レッドソックスのファーム」を目指していますが、実はこれがなかなか手に入らない。
完成したら画像をアップしますのでお楽しみに。

『Fallout4』といえばポストアポカリプスの名作であり、核戦後の廃墟といえばジャンク漁りと相場が決まっています。『DQ』のチーズやジャガイモも楽しかったのですが、その品目の圧倒的な多さでいえば『Fallout4』の世界の比ではありません。

たかがジャンク、されどジャンクです。

アンパン齧りながらジャンク漁りの日々は続きます。

Oshii Mamoru
Oshii Mamoru

1951年生まれ。映画監督。代表作に『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』劇場版「機動警察パトレイバー」2部作、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』などがある。また「機動警察パトレイバー」シリーズを完全オリジナルの新作としてドラマ版+劇場版の全7章で実写映像化した「THE NEXT GENERATION パトレイバー」シリーズの総監督を務める。最新作は「GARM WARS The Last Druid」。

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