砂漠サバイバルゲーム『Dead Sea』の地獄、蜃気楼であってほしかったゲーム
「One Coin Gamer」は、1コインつまりは定価500円以下で購入できるゲーム(ただしモバイル向けを除く)を紹介する連載企画。サクッとプレイできる良いゲームを求めている人、馬鹿馬鹿しいゲームを求めている人、とにかくお金を節約したい人たちに向け、魑魅魍魎の低価格帯ゲームをピックアップしてゆく。第3回目は、『Dead Sea』を紹介する。現在はSteamにて早期アクセス版が販売されており、価格は498円。正式リリース時には1500円となる予定だ。
『Dead Sea』はオープンワールドの砂漠を舞台にした一人称視点サバイバルゲームだ。プレイヤーは飛行機事故で砂漠に放り出された生存者となり、"死の海(Dead Sea)"を生き延びなければならない。体温や病気、空腹に睡眠など、サバイバルゲームならではのステータスが存在し、プレイヤーは食料を集めたり火に当たるなどして、それぞれを満たす必要がある。ほかにもゲームプレイにはホラーアドベンチャーやパズルの要素が含まれているという。影響を受けたゲームは『DayZ』に『モンスターハンター』、『ワンダと巨像』であると開発陣は説明する。
発売前に公開されたトレイラーでは、砂漠で食料品などを集めるアイテム収集要素、さらにはインベントリ管理要素が確認できる。たき火の前に立って、道具をクラフティングしたり、キャンプを設置したりすることもできるようだ。さらにはスキルツリーも存在し、プレイヤーの能力を成長させることができるという。
本作の開発を担当するのはタイ・バンコクに位置するPhoenix Studio。わずか5人の開発者しか在籍していないが、業界で5年以上の経験があるプログラマーも存在するらしい。2014年12月にSteam Greenlightに登場し、2015年3月にSteamにて販売された。2015年1月にはIndiegogoで3万5000ドルの獲得を目指すクラウドファンディングを実施しているが、最終的には1773ドルしか集まらなかった。
まず『Dead Sea』のインストールにてHDDを占拠するファイルのサイズは"8.04GB"だ。いったいどれほどの物量ある砂漠オープンワールドが楽しめるかと思いきや、起動してまず最初に表示されるのは、本作のゲームエンジンであるCryEngineのロゴ、そしてCryEngineのロゴが入ったメニュー画面である。そこには『Dead Sea』の砂粒1つすら無く、まずプレイヤーはバグが発生したか、別のゲームを起動したかと思ってしまうだろう。
だが間違ってはない。仕様なのだ。『Dead Sea』では、現時点でまだCryEngine上で製作されたデモマップしか提供されておらず、サンプルをそのまま流用したメニュー画面からマップを選んでプレイするのである。ゲーム画面にタイトル名やイラストが存在しないなど、前代未聞だろう。不思議に思いインストールされたファイルを確認したのなら、「Dead Sea」フォルダ下にそのまま「CryEngine」の名が付いたフォルダが格納されており、ゲームプレイ前から失笑を誘ってくれる。
マップは現在5種類あり、その内の「Forest」と「Airfield」はロードするとエラーを吐いて強制終了してしまう。どちらもCryEngineに搭載されているシングルプレイヤーデモであり、発売に当たって、レベルがロードできないように手を加えたようだ。メインのゲームプレイが体験できるのは「@ui_Dead_sea_0_0_3」、これに加えてミニゲームの「@ui_Dead_sea_escape」マップが2種類存在する。開発者5人のなかで、デモ名をもう少しわかりやすくしようと進言した人はいなかったのか、疑問だ。
ようやくゲームプレイを開始すると、広大な砂漠が突如目の前に広がる。トレイラーで紹介されていたようなステータスUIは表示されず、左上には味気ない体力表示と謎のミッション名「Golden Stone」が並ぶ。操作方法もミッションの目的も表示されない。とりあえず砂漠を歩いてみるが、それらしいオブジェクトはなにも見当たらないし、砂漠の暑さにやられてか体力はどんどん減少してゆく。体力がゼロになるか、エリアの端まで移動して崖から落下したなら、死亡する。死亡すると、操作キャラクターが壊れたオモチャのように、延々と地面を何度も跳ね返る。
まずプレイヤーは何をすればいいのだろうか。ネタバレになってしまうが、答えはまず"ゲームの終了操作"を探し出すことだ。本作ではESCキーなどを押してもオプション画面は表示されず、メニューに戻ることもできない。答えは「F1キー」か「F4キーとAltキー」の同時押しで終了。死亡してもメニュー画面には戻されず、クリックするとゲームがリスタートする仕様なので、なんとかしてプレイヤーはこの終了操作にたどり着かなければならない。
そうやってゲームを一度終了したのなら、Webブラウザを立ち上げて、『Dead Sea』の公式Facebookページを確認しよう。3月28日の投稿が、『Dead Sea』のStone Goldミッションの詳細を知ることができる唯一の方法だ。嘘偽りでは無い。ゲーム中にはミッションのルールを紹介するパートは一切無く、まずプレイヤーは「開発陣がSNSでミッションの詳細を紹介しているかもな」と推理して、Facebookページず辿り着かなければならない。
Stone Goldミッションでは、プレイヤーは体力が尽きる前にStone Goldを広大な砂漠マップから探し出さなければならない。道中にはHPを20パーセント、あるいは50パーセント回復するファーストエイドキットが存在している。バグか表記の誤りかは不明だが、ファーストエイドキットはそれぞれライフをパーセンテージではなく数値でしか回復しない。
広大な砂漠でたった1枚の板切れ探し、人生最大の無駄な時間を過ごすよりも、Facebookの公式ページを見た方がいいだろう。開発陣がクリア報告を紹介しており、謎のStone Goldとは、同じくタイ在住の開発スタジオGameCrafterTeamが手がける『Project Nimbus』のイメージだとわかる。同郷の者の応援をする前に、まずやるべきことがある。なおStone Goldを発見してもゲームは終了しないし、何の変化も起きない。プレイヤーはひとしきり満足したのなら、ゲームを自らの手で終了しなければならない。
脱出ゲームこと「@ui_Dead_sea_escape」は、Fキーでオブジェクトを持ち上げることが可能で、真四角のキューブを投げたりして、なんとか目的の位置まで辿り着くことが目的のようだ。とはいえ、一度終了したプレイヤーは恐らく2度と『Dead Sea』を起動していないだろうし、このマップを試したプレイヤーもどうクリアすればいいのかはわからないだろう。筆者も1時間ほど試行錯誤をしたが、頭蓋骨が弾け飛ぶような怒りに襲われたため、プレイするのを諦めた。この2つのミニ脱出ゲームは、もしかしたら驚くようなクリア方法があり、もしかしたらとても面白いのかもしれない。
「クラウドファンディングや早期アクセスを利用した詐欺じゃないのか?」と疑問が湧いた人が居るかもしれないが、『Dead Sea』は紛うことなき正式なゲームプロジェクトだ。その理由として、先ほど挙げた『Project Nimbus』など、20タイトル近くの販売を担当しているイギリスのKISS ltdが、同作のパブリッシングを担当しているのである。蜃気楼ではなく、『Dead Sea』は実在するのである。『Dead Sea』は実在する。
『Dead Sea』は2015年末にはフルリリースが予定されており、今後もアップデートは続けられてゆくという。5月中にもバージョンアップデートが実施される予定で、サバイバル要素やクラフティングが導入されるという。さらにはCryEngineから無料化が発表されたUnreal Engine 4への移行も明らかにされた。
正直に言えば、現在の『Dead Sea』には、早期アクセスである点に目を瞑っても、498円の価値はなく、コアゲームプレイすら完成しておらず、本来のコンセプトからかけ離れすぎており、フィードバックすら送ることのできないレベルの作品だ。筆舌に尽くし難く、無意味なゲームプレイと相まって、「ゲームとはなんなのか?」という悟りを開きそうになる。だがもし酷いゲームをプレイしたい、あるいは世の中のすべてのゲームに飽きたという特殊な趣味のあるプレイヤーは、CryEngine製の本作を今の内にプレイしておいてもいいかもしれない。
第2回で取り上げた『Accidental Runner』と同様に、『Dead Sea』がSteamで販売されたことは、ValveがSteamで販売されているゲームをほぼ確認していないことの証明となった。ゲームエンジンを利用しており、グラフィックは美麗だが中身はとんでもない作品が、今後増えることを予感させてくれる。もちろん、『Dead Sea』は早期アクセスゲームである。今後アップデートが続けられ、素晴らしい作品としてフルリリースされるかもしれない。そうなったのなら、あらためて死の海を再訪し、評価し直してみよう。