10のテーマから読み解く 西部劇と西部劇ゲームの関係
[Film Gamer]では、ゲームに影響を与えた映画やドラマを紹介する。今回は「西部劇」だ。10のテーマごとに、西部劇が題材のいくつかのゲームをピックアップした。本稿ではこれらを"西部劇ゲーム"と題し、描かれたテーマを共有する西部劇と西部劇ゲームをご紹介しよう。
西部劇とゲームの出会い
西部劇といえば、かつてはアメリカでもっとも製作されていた映画の一大ジャンルであった。しかし製作システムの変化や観客の趣向の変化によって、現在では衰退したジャンルとして見なされており、現在では西部劇が題材のゲームが多いとは言いがたい。しかし、往時のアーケードゲームを含めると、西部劇ゲームの歴史は古い。任天堂は1974年に『ワイルドガンマン』、1979年に『シェリフ』をリリースしている。『ワイルドガンマン』を手掛けたのは故・横井 軍平 氏、『シェリフ』の筐体のデザインを手掛けたのは宮本 茂 氏だ。『ウエスタンガン』はのちにファミコンに移植されているし、『シェリフ』もゲームボーイアドバンスの『メイド イン ワリオ』に移植されており、今でも比較的容易に遊ぶことができる。『ワイルドガンマン』の翌1975年には、タイトーから対戦専用西部劇ゲーム『ウエスタンガン』がリリースされている。のちに『スペース・インベーダー』を手掛けることになる西角 友宏 氏によるものだ。他にも代表的なアーケードの西部劇ゲームといえば、1985年のカプコンからリリースされた『ガンスモーク』などがある。いずれも西部劇の範疇にとどまらない、ビデオゲーム黎明期の古典的名作として数えられるものだ。
1 ドラマを語りだした西部劇
西部劇ゲームでは、花形である銃撃戦がテーマとしてとりあげられることが多く、必然的にアクションゲームが多い。しかし『Law of the West 西部の掟』や『Dust: A Tale of the Wired West』などのアドベンチャーゲームや、『ライブ・ア・ライブ』や『ワイルドアームズ』などのRPGにおいても西部劇の世界観は取りいれられており、実際は多種多様なゲームがその影響を受けている。
西部劇映画と西部劇ゲームの黎明期では、西部劇の典型的なアクションが援用されるだけであったが、映画では後述することになる1923年の「幌馬車」、ゲームでは1985年の『Law of the West 西部の掟』がはじめて本格的な人間ドラマを描き始めたといえるだろう。
『Law of the West 西部の掟』においては、プレイヤーは保安官となって、町に訪れてくる無法者に武装解除を要求しなければならない。話し合いの選択肢を間違うと、ガンファイトがはじまる。得点は手に入らないが、話し合う前に相手を撃ち殺すことも可能だ。このような暴力的な保安官は、1970年の映画「追跡者」で描かれた、法を執行するために行き過ぎた行為に及ぶ保安官を想起させるし、さらには1992年の映画「許されざる者」の暴力保安官をも先駆けたものだ。
2 壮大なスケールで描かれる西部開拓史
西部劇ゲームを語ることにおいて外せないのが、1971年の『The Oregon Trail』だ。
西部開拓時代の主要道であったオレゴン街道の開拓者たちにスポットをあてたゲームで、学校教育への教材として作られた。その後、アップルIIなどに移植が繰り返され、アメリカの学校を中心に広く普及した。
TIME誌が選ぶ「All-TIME 100 Video Games」ではこのゲームが一番最初に紹介されている。ios/Androidで日本語で遊ぶことができる『オレゴン・トレイル:American Settler』や『オレゴン・トレイル~開拓者のミニミニ冒険~』はこのゲームの後継作といえるだろう。1923年の同じくオレゴン街道を渡る開拓者たちの映画「幌馬車」は、西部劇ではじめる風格ある歴史劇を描き、西部劇を壮大な叙事詩にできることを証明した大作。映画、ゲームの双方にオレゴン街道を舞台とした記念碑的作品があり、まさしくアメリカの歴史の形成に一役買っているといえるだろう。
近年の西部開拓時代を舞台にしたゲームでは、RTSの『エイジ オブ エンパイアIII』のキャンペーンが突出した出来といえる。16世紀末のアメリカ大陸への進出、フレンチ・インディアン戦争、18世紀の大陸横断鉄道の普及がそれぞれの歴史的背景になっており、永遠の命を得られる伝説の秘宝をめぐって、主人公の一族は3章にもわたって世代を超えて秘密結社に戦いを挑むことになる。
1962年のオールスターキャストで描く「西部開拓史」という超大作映画がある。血筋を共有した主人公たちが、3世代をまたがってストーリーが展開される作品であり、『エイジ オブ エンパイアIII』のキャンペーンが大いに影響を受けたと推測できる。映画の場合の歴史的背景は西部への入植、南北戦争、そして同じく鉄道の普及が物語の終着点だ。
「西部開拓史」が『エイジ オブ エンパイアIII』と同じく鉄道の普及の時期を結末にしたのは、映画の影響以上にアメリカの歴史観が顕著にあらわれている。つまり西部開拓は幌馬車で入植し、駅馬車が走り、鉄道網が敷かれ、近代の時代がはじまり、西部開拓史が終わる、という歴史観だ。鉄道の普及というのは、しばしば西部劇でよく扱われるテーマだ。映画でいえば「アイアン・ホース」や「ウエスタン」、鉄道経営シミュレーションゲーム『レイルロード タイクーン』シリーズのアメリカ大陸のシナリオは、まさにこのテーマのゲームだ。いっぽうで鉄道の代わりに、自動車(「砂漠の流れ者」)、法律(「大いなる西部」や「リバティ・バランスを撃った男」)、電信(「西部魂」)なども西部開拓の象徴として登場することもある。西部劇の世界において、鉄道、自動車、法律に電信というのはただの舞台装置以上に大きな意味をもっているわけだ。
3 もはや定番のマカロニ・ウエスタン
西部劇ゲームで最も引用されている映画はイタリア製西部劇、マカロニ・ウエスタンの諸作品だろう。マカロニ・ウエスタンは従来のアメリカ製西部劇にはなかった極端なゴア描写や、正統的ヒーローとはほど遠い卑劣な主人公、銃からの視点や目の極端なアップを使う破天荒な映像スタイルをもちこみ、本家アメリカ製西部劇をおびやかすほどの人気をほこった。1964年の「荒野の用心棒」がマカロニ・ウエスタンの世界的成功の導いた作品だが、ゲームにおいて最も引用されるのは、冒険活劇色が強い「続・夕陽のガンマン」だろう。
「続・夕陽のガンマン」は南北戦争のさなか、3人の男が財宝を狙って三つ巴の争いを繰り広げるストーリーだが、この戦争の最中に3人組が財宝を探すストーリーは、1939年の冒険活劇映画「ガンガ・ディン」、その3人組が争うのは1948年のピカレスク冒険活劇映画「黄金」からの影響をみなすことができる。つまり「続・夕陽のガンマン」は西部劇に、これまでになかった冒険活劇の要素を取り入れたということだ。これはさきほど紹介した『エイジ オブ エンパイアIII』においても見ることができる。2009年のTechlands開発の西部劇ゲーム『コール・オブ・ファレス 血の絆』も、南北戦争最中に秘宝を探すストーリーで、基本的には「続・夕陽のガンマン」を踏襲している。Rockstar Gamesが開発した2004年の『レッド・デッド・リボルバー』は、音楽をマカロニ・ウエスタンのサウンドトラックから引用している。マカロニ・ウエスタンの暴力描写、音楽や風景はもはや西部劇の定番となっているのだ。
4 フィルム・ノワール西部劇
1940年代中ごろからフィルム・ノワールを取り入れた西部劇が登場する。心理学的西部劇、超西部劇などとも呼ばれ、定義は統一されていないが、それまでの明朗な西部劇とはちがい、主人公が強烈なトラウマを持っていたり、登場人物の複雑な心理描写をする暗いトーンの西部劇だ。代表的な映画は「追跡」「無法の拳銃」「拳銃王」「真昼の決闘」「裸の拍車」「シェーン」「逮捕命令」「大砂塵」などが挙げられる。最高傑作をあえて選ぶなら、1947年の「追跡」になるだろうか。
このあたりの暗い西部劇のテイストを全面に出したゲームはないが、『コール・オブ・ファレス 血の絆』の終盤の描写は、1954年のノワール西部劇「悪の花園」と類似している。両者とも舞台はメキシコの山岳地帯、インディアンの聖地と呼ばれる場所で、複数の男が一人の女性を、つまりファム・ファタールをめぐって争う展開になる。『コール・オブ・ファレス 血の絆』が信仰をテーマにしている点は、こちらもノワール的な1961年のイギリス製西部劇「黒い狼/ローン・ウルフの決闘」が扱ったテーマだ。前述したように『コール・オブ・ファレス 血の絆』は「続・夕陽のガンマン」がベースにあるとはいえ、フィルム・ノワール西部劇的な要素が含まれている珍しいゲームだ。
5 インディアン
1950年の映画「折れた矢」は。西部劇においては悪役でしかなかったインディアンを、平和を求める存在としてはじめて描いたと言われており、アカデミー作品賞を受賞した1990年の映画「ダンス・ウィズ・ウルブズ」にも連なる作品だ。1970年の「ソルジャー・ブルー」も白人の差別や偏見、殺戮を糾弾した映画として、マイルストーンの位置をしめる。とはいえ、インディアンと融和的な描写のさきがけとして1944年の「西部の王者」や、殺戮を糾弾した映画としては1948年の「アパッチ砦」を挙げることもできる。
筆者としてはこのテーマを扱った映画の最高傑作は1961年の「馬上の二人」と、1972年の「ワイルド・アパッチ」だと思う。それはともかく、西部劇にはおいて避けては通れないこのテーマは、西部劇ゲームのほうでもいくらか取り上げられている。
戯画的ではあるが、チェロキー族の青年を主人公にした『PREY』、白人とインディアンの混血を主人公にした『アサシン クリードIII』『コール・オブ・ファレス』『GUN』などの試みは意欲的なものとして評価はできるだろう。『レッド・デッド・リデンプション』に先駆けた2005年の西部劇オープンワールドゲーム『GUN』は、インディアンの描写をめぐってインディアンの団体から抗議を受けてしまったが、実際はゲームをすすめると、主人公の出自に関係しており、いささか誤解を受けてしまった傾向はある。
『アサシン クリードIII』では、主人公が狩りから帰ってくると、モホーク族の集落が白人によって焼き払われてるシーンがあるが、これは西部劇の最高傑作にも挙げられる1956年の映画「捜索者」のプロローグが反映されている。「捜索者」で主人公が家に帰ってくると、コマンチ族に家が襲撃され、姪は誘拐されてしまう。主人公はコマンチ族に復讐を誓うのだ。『アサシン クリードIII』は、この「捜索者」の白人とインディアンの立場を入れ替えることによって、西部劇でよく描かれた展開を逆転しているわけだ。余談ではあるが、『スター・ウォーズ』でルーク・スカイウォーカーがオビ=ワンの元から家に帰ったときに、帝国軍によって家が焼き払われるシーンも「捜索者」の影響があるといえるだろう。
フレンチ・インディアン戦争でもっとも有名な物語は小説「モヒカン族の最後」だが、それを1992年に再映画化した「ラスト・オブ・モヒカン」の手斧を使ったアクションシーンは、『アサシン クリードIII』に影響をあたえた節がある。『アサシン クリード ローグ』もまたフレンチ・インディアン戦争が舞台だ。これら2作のファンなら、「ラスト・オブ・モヒカン」を観ておいても損はないはずだ。
6 アウトロー神話とトール・テール
西部劇といえば伝説的なアウトローや英雄的な保安官が登場するのが定番だ。鉄道会社が強硬に鉄道建設をすすめて大衆から憎まれていたため、列車強盗が英雄視される現象が実際にあったためだ。しかし、それに以上にアメリカでは「トール・テール」という伝統があった。トール・テールとは焚火を囲って、事実よりも誇張した表現や話のうまさが好まれたホラ話のことである。さらにこのホラ話の伝統は、今でいう週刊誌のように読み捨てにされる三文小説「ダイム・ノベル」や、扇情的な報道を売り物にした「イエロー・ジャーナリズム」として踏襲された。このダイム・ノベルによって、アウトローたちは英雄的な存在としてよりいっそう誇張されて定着したわけだ。
2013年のゲーム『コール・オブ・ファレス ガンスリンガー』は、トール・テールやダイム・ノベルのいい加減さを描いたゲームだ。賞金稼ぎの主人公が酒場で回想しながら聞かせる話は、ビリー・ザ・キッドをはじめとする西部の著名人ばかり出てくる愉快なホラ話だ。ホラ話ものの西部劇映画といえば、著名人と次々と会う1970年の「小さな巨人」、老人がビリー・ザ・キッドの真相を語る1990年の「ヤングガン2」がある『コール・オブ・ファレス ガンスリンガー』はこれらの映画をハイブリットしたものだろう。『コール・オブ・ファレス ガンスリンガー』は、語り手がゲームの世界に干渉してくる点が興味深い。語り手の都合で道ができたり、弾が少なくなったり、死んだことがなかったことにされるのだ。メタフィクション性に切り込んだゲーム『The Stanley Parable』とも比較できる実験的なストーリーテリングのゲームといえるだろう。
7 オカルト・ホラー西部劇
トール・テールからダイム・ノベルの伝統は、20世紀に入るとパルプ・マガジンやアメリカン・コミックの時代にはいる。パルプ・マガジンで連載していた「コナン」で有名なロバート・E・ハワード氏の1932年の短編「The Horror from the Mound」は、西部劇の世界で吸血鬼を登場させた作品であり、西部劇にファンタジーやSF、モンスターやオカルトなどを足した「Weird West」というサブジャンルの始祖的な作品といわれる。このジャンルは1970年代から再注目された。他にも代表的な作品はDCコミックの「ジョナ・ヘックス」や、1982年に発売され2004年に完結したスティーブン・キング氏の「ダーク・タワー」などがあげられる。西部劇に魔法や特撮を取り入れた『ワイルドアームズ』は日本流にWeird Westを描いたゲームといえるだろう。Weird Westのホラー要素に重きを置いたゲームといえば1994年の『アローン・イン・ザ・ダーク3』や、1997年の『Blood』などが挙げられる。特異な世界からカルト的な人気を誇るゲームだ。
残念ながら映画で扱われたWeird Westは酷い作品ばかりだ。むしろ西部劇テイストでホラー映画を作った「ニア・ダーク/月夜の出来事」や「ヴァンパイア/最期の聖戦」をおすすめしたい。もっともWeird Westに分類できる有名な映画は、クリント・イーストウッドが監督・主演した「荒野のストレンジャー」と「ペイル・ライダー」だろう。これらの場合、背景としてはパルプ・マガジンではなくマカロニ・ウエスタンが関係している。イタリア製西部劇なので聖書の隠喩が用いられている作品が多数あるのだ。「荒野の用心棒」がキリストの暗喩なのはよく指摘されており、イーストウッドはこれらの方法論を継承しているわけだ。とはいえ、マカロニ・ウエスタンやWeird Westでなくとも、古典的な西部劇でもホラー要素を取り入れた映画は存在することは指摘しておこう。前述した「悪の花園」は終盤から姿を見せないインディアンとの戦いが描かれているし、1968年の「レッド・ムーン」では姿を見せないインディアンをホラー調に演出している。アーノルド・シュワルツネッガー主演の「プレデター」は、ベトナム戦争の影響が濃厚だが、これらの西部劇の系譜でもあるのだ。
8 西部劇の挽歌
おそらく歴代西部劇ゲームのなかで最も評価されている『レッド・デッド・リデンプション』だが、これも定番となるマカロニ・ウエスタンの影響はある。『レッド・デッド・リデンプション』の列車のオープニングは、マカロニ・ウエスタンである「夕陽のギャングたち」の馬車のオープニングを参考にしている節があるし、「殺しは静かにやって来る」の影響も感じられる。だがマカロニ・ウエスタンのサウンドトラックまで使った前作『レッド・デッド・リボルバー』よりも、相対的には本家アメリカ西部劇に傾斜している。だが開発のRockstar Gamesは、特定の西部劇映画に影響されたことには明言していない。それどころか言及を避けているすら感じる。これに関しては、ファミ通誌上のインタビューを引用しよう。
――モデルにしたり、インスパイアされた俳優や実在の人物は?
それはいないね。すべて我々が考え出したものだ。(省略)直接何かをコピーするのではなくて、色々なところから良い部分を持ってきて、整理したんだ。クラシックな西部劇だが、特定の誰かではない、現代の人たちに共感してもらえる人物を目指したんだよ。
『レッド・デッド・リデンプション』ダン・ハウザーインタビュー完全版!(前編)より
だが『レッド・デッド・リデンプション アンデッド・ナイトメア』に関しては1970年代を参考にしたと言及している。
『Undead Nightmare(アンデッド・ナイトメア)』が最新リリースのDLCとなる。きっと日本のファンにも気に入ってもらえると思うよ。コンセプトとしては、1970年代の映画スタジオを想像してもらえると解り易いかもしれないね。昼間は上質の西部劇を作り、夜はB級ゾンビ映画を作っているような感じだね。1970年代のゾンビ映画風に仕立ててある。
『レッド・デッド・リデンプション』ダン・ハウザーインタビュー完全版!(後編)より
そこで、具体的に言及されている1970年代のアメリカ映画が置かれた状況を整理してみよう。
社会的背景として、1960年代前半の公民権運動にはじまり、1960年後半のベトナム戦争の反戦運動、ロックンロールやヒッピー文化など、若者たちの主流的な体制や価値観への風潮が盛り上がっていく。またフランスでは1950年代末から先駆けてヌーヴェルヴァーグと呼ばれる、既成の映画への若者の異議申し立てがあった。この影響が1960年後半にアメリカに上陸してくる。
アメリカ映画の大転換だったのは、長らく支配的であった検閲制度「ヘイズ・コード」が1968年に完全撤廃されたことだ。年齢区分によるレイティング・システムに移行したことにより、成人向け区分の映画ならばそれまで不可能だった性描写や暴力描写を見せることが可能となった。
これらの影響が渾然一体となり、1960年代後半から1970年代にわたって、「アメリカン・ニューシネマ」として花開く。アメリカでも若者たちが既存の作風にとらわれずにに、自由な作風で映画を撮りはじめたわけだ。
『レッド・デッド・リデンプション』は1911年を舞台としており、西部の時代が終焉を迎えようとしている時代だ。ゲーム中にも自動車が登場するのは示唆的だろう。1970年代のニューシネマ西部劇の多くは、西部劇の終焉に自覚的だった。そのなかでも「昼下りの決斗」「ワイルドバンチ」「夕陽の群盗」「スパイクス・ギャング」「ラスト・シューティスト」などの「最後の西部劇」たちは、時代の波に乗れなかった男たちを感傷的に描いた。それは『レッド・デッド・リデンプション』にも通底しているだろう。その後、1992年の「許されざる者」においては1970年代のニューシネマ西部劇とは違う方法論で、「最後の西部劇」を表現した。「許されざる者」で描かれている暴力のルーツ、そして牧場を経営している引退した元無法者という設定は『レッド・デッド・リデンプション』の主人公ジョン・マーストンにも受け継がれている。
9 西部劇における女性
『レッド・デッド・リデンプション』は当初の目的を果たした主人公は、家族のもとに帰る。普通の展開ならば、ここでエンディングとなるはずだが、家族のもとに帰っても物語は続く。この奇抜な物語構成は『レッド・デッド・リデンプション』のユニークな点だが、まさにこれこそ自由な作風で撮りはじめたアメリカン・ニューシネマの西部劇の影響なのだ。この時期に作られた「ウィル・ペニー」「さすらいのカウボーイ」「大いなる勇者」などは家族、あるいは疑似家族を作るのが物語の終着点ではなく、物語の序盤、あるいは中盤あたりの展開として配置されている。これらの西部劇は家族を得てエンディングとなるはずだった“その後”を描いているのだ。
男性社会としてしか描写されなかった西部の世界だが、強い女性は一部の映画で描かれてきた。「廃墟の群盗」「大砂塵」「四十挺の拳銃」などがそうだ。これらの映画は優れているが、女性の描写としては銃をぶっ放すような男性的な女性像だった。それでも意欲的だったのは間違いないし、のちのち「女ガンマン・皆殺しのメロディ」「バッド・ガールズ」「クイック&デッド」などの女性主人公の痛快西部劇につながる。これらと比較した場合、「さすらいのカウボーイ」や「ウォル・ペニー」は日々をたくましく生きる女性を素朴に描いた点が新しかった。『レッド・デッド・リデンプション』で主人公が出会うことになるボニー・マクファーレンや妻アビゲイルの描写はこれらの女性描写なしには考えられなかっただろう。『レッド・デッド・リデンプション』の高い評価の背景には、これまでマカロニ・ウエスタンだけの影響ではなく、このようなニューシネマ西部劇への目配せが多分に含まれていたからだろう。
10 黒人西部劇
これまでテーマごとに西部劇ゲームを紹介してきたが、ゲームでは扱われていないテーマがある。それは西部劇の黒人描写の問題だ。たとえばカウボーイの25%は黒人だったといわれているが、西部劇の世界ではそれが長らく無視されてきた。だがこれもアメリカン・ニューシネマの60年代後半の時期から「100挺のライフル」「マクマスターズ」「ブラック・ライダー」、90年代には「黒豹のバラード」などの黒人西部劇が作られている。それより先駆けた1960年の「バファロー大隊」は黒人差別問題に踏み込んだ法廷ドラマ西部劇だ。最近では「ジャンゴ 繋がれざる者」の黒人西部劇が注目されたが、西部劇ゲームでもこの問題に踏み込んだものが作られることになればいいだろう。
現代の西部劇ゲーム
インディーゲームの台頭にともない、西部劇ゲームもインディーゲームへと進出してきている。『ザ・ローリング・ウエスタン』『Gunman Clive』『Boot Hill Heroes』、それに弊誌でも紹介した『12 is Better Than 6』などだ。映画「幌馬車」とゲーム『The Oregon Trail』は西部劇を描く映画・ゲーム双方の黎明期に、原点と呼ぶべき重要な役割を果たした。西部劇の挽歌でとりあげた『レッド・デッド・リデンプション』のあとに、西部劇のパロディ的な『コール・オブ・ファレス ガンスリンガー』が登場したのも、「最後の西部劇」のあとに、パロディ西部劇「夕陽に立つ保安官」「ミスター・ノーボディ」「砂漠の流れ者」などが登場している点と類似している。これからも、映画とゲームはお互いの歴史の中で邂逅することがあるだろう。
大衆的なジャンルである「西部劇」というジャンルは、どうしても研究が遅れがちである。ゲームである西部劇ゲームともなれば、なおさらだ。しかし一例を挙げると、西部劇ゲームはアーケード、ADV、RPG、RTS、FPS、TPS、オープンワールドと、時代ごとの代表的なジャンルで制作されている。このように、両者を照らし合わせてゲームの歴史や傾向の変化をと結びつけると、西部劇とゲームは親和性の高いコンテンツであると結論づけることができる。