「インドは超トップダウン、業務改善も大胆」ラクシャ・デジタル代表・具島快氏。GTMF 2016 Meet-Ups

引き続きGTMF 2016大阪会場Meet-Ups特集をお届けする。第4弾は、インド最大のアートアセット制作会社ラクシャ・デジタル・PVT. LTD.代表・具島快氏。ラクシャ・デジタルのことだけでなく、インドのゲーム市場などについても聞かせていただいた。

東京会場の開催が迫るGTMF 2016。引き続き大阪会場のMeet-Upsプレゼンターの声をお届けする。第4弾は、インド最大のアートアセット制作会社ラクシャ・デジタル・PVT. LTD.代表・具島快(ぐしま かい)氏。

 

UEに最適化されたアートアセット制作会社

ラクシャ デジタル PVT. 代表 具島快氏
ラクシャ・デジタル・PVT. LTD.代表 具島快氏

プレゼンの準備を迅速にこなし、司会者による紹介が終わるのを静かに待つラクシャ・デジタル・PVT. LTD.代表・具島快氏。ラクシャ・デジタルはシアトルのリーダーシップチームが率いる、インド最大のアートアセット制作会社であり、得意とするのはUnreal Engineを採用した大型プロジェクト。アーティスト数は300名、そのほとんどが最先端の3Dのアセットを制作できるそうだ。

 
ラクシャ・デジタルは主に3Dのアセットやアニメーションを制作しており、Meet-Upsのパートナー企業であるEpic Gamesとのつながりもあって、仕事の8割がUnreal Engineのプロジェクトになっている。海外企業とのお仕事がメインかと思いきや、3年ほど前からは日本の大型プロジェクトも増えているという。

プレゼンで具島氏はラクシャ・デジタルを選ぶメリットを三つあげた。まず、ゲーム開発経験のあるシアトルチームによるディレクションで、手がかからず高品質なアセットを提供できること。つづいて、アカウントマネージャーの日本人女性が2名インドに常駐しており、さらにフルタイムの翻訳者が4名いることで、コミュニケーションや契約をスムーズにおこなえること。最後に、Unreal Engineなどの高い知識を持ちゲーム開発経験が豊富なシアトルチームによるプリプロやワークフロー構築、そして発注書も作成できると説明した。

さらにアセット作成だけでなく、Unreal Engineに最適化されたワークフローの構築やチーム編成の提案、技術仕様やツールのコンサルティング、さらには予算に関するアドバイスもおこなっている。強力なサポート体制と高度な技術がラクシャ・デジタルの売り物であることを約5分でアピールし、具島氏はプレゼンを終えた。なおラクシャ・デジタルのプレゼンは東京会場でもおこなわれる。

[パートナー企業: Epic Games Japan]

 

インドは超トップダウン、業務の改善は会社自体をも変える

――インドといいますと、来年はインドゲームショウが開催されます。技術系が伸びているというのはよく耳にしますが、ゲーム市場も拡大しているのでしょうか?

具島快氏:
ゲーム市場は大きくなっていると思うんですけど、まだまだインフラが整っていなくて、とくにゲームのコンソールがすごく値段が高いんです。関税がかかるので。それがあって、コンソールのほうはほとんど市場がないという状態です。PCもけっこう高いので、遊び用に購入できるという層がかなり限られています。残りはスマホになると思うんですけど、スマホ自体もローエンド端末が多いんです。あとはインフラが弱いので、あまりハイスペックなものはダウンロードできないという問題があり、ラクシャ・デジタルとしてはまだインド市場は見ていないです。あくまでも海外の市場向けプロジェクトのアセットを作るというところに特化しています。

 
――なるほど。

インドではゲームショウ以外にも、年末ごろにGDCのインド版NGDC(Nasscom Game Developer Conference)があります。NASSCOMというIT業界のまとめ役なんですけど、そこがGDCのインド版を毎年開催しています。じつは弊社の社長とかキーメンバーとNASSCOMがNGDCの創立メンバーなんですよ。なのでそこに参加させていただいてます。業界の中で発言権が一番大きいのは、ラクシャとか外注でアセットを作っているところなんですよ。まだまだインド国内向けにゲームを作っているのはインディーが多くて、逆にインドだと外注の人たちが偉くて、そういう人たちが食いつないでいくために仕事をもらっています。外注中心なんです。

 
――ラクシャ・デジタルさんのオフィシャルサイトを見ると、実績に驚かされました。

フロム・ソフトウェアさんの『DARKSOULS』シリーズをやらせていただいたりとか、あとは『Bloodborne』もアセットを作らせていただきました。現在進行形だと、日本を代表するJRPGを2本やらせていただいていて、超ビッグタイトルのMMORPGも1本やらせていただいています。

 
――会社の規模も大きいですよね。300名ですか。

そうですね。300名のうちだいたい200名ぐらいが日本のお仕事を常時やっています。もともとは北米のお仕事だけで、日本はユークス様一社だけからお仕事をいただいていたんですけど、この4年間で大逆転しました。

 
gtmf-2016-osaka-meet-ups-lakshya-digital-002――今は日本のほうが多いんですね。なぜ日本の仕事が増えているんですか?

弊社はアンリアルエンジンベースのゲームでのアセット制作が得意ということで、今回Meet-Upsにご招待をして下さったエピック河崎様から大変貴重なご紹介をいただいていることが大きいと思っております。弊社内では河崎さんには足を向けて寝られないといつも言っております!また、日本のお客様のほうが長期的にお仕事をいただけるんです。たとえば2年物のプロジェクトだったら「2年お願いします」という感じで、プリプロの段階で弊社にお話いただけるので長期的にできます。アメリカとかヨーロッパのクライアントさんは、仕事が始まる1か月前に数社トライアルをして、1回すごく良いお仕事をしても次の機会にはまたトライアルがありますので、なかなか継続した長期的なお仕事というのは難しいです。そういったかたちで日本のお仕事でリソースが埋まっていって、北米のお仕事ができないという感じです。

 
――日本はそういうやり方が主流なんですね。

そうですね。日本は一度関係を作らせていただくと長期的にお仕事をいただけて、開発の根幹にかかわるところもお手伝いさせていただけたりとか。

 
――面白いですね。日本支社には何名ほどいらっしゃるんですか?

日本はわたし一人で営業とプロジェクトマネジメントをやっていたんですけど、やっぱり一人だと規模的に難しいので、2名に入ってもらいました。

 
――それまでは一人だったんですか。

そうなんですよ。一番最初はアセットごとのフィードバックとかを見て、僕のほうで対応させていただいていたんですけど、タイトルが増えてくるとそれができなくなってきて、そこがおろそかになってしまうとサービスのクオリティが下がってしまうので、人を増やしました。

 
――それまでよく一人でやられてきましたね……

大変でしたね。日本語検定1級を持っているインド人の翻訳者が4名いて、フルタイムで働いているので、クライアントさまから日本語で問い合わせをいただくとすぐに英語に翻訳されるとか、あとは発注書も日本語でいただいても無料で弊社のほうで翻訳する体制があります。

 
――たしかにインドだけではなく海外の企業となると、日本人はちょっと不安を感じます。とくにビジネスになると、ちょっとした日本語のニュアンスが伝わらなかったり。そのへんはしっかり対応できるんですか。

そうですね。アニメーションがとくに難しくて、「このキャラのこのアタックモーションなんだけど、ちょっと“ケレン味”が足りません」と言われると、“ケレン味”をどう翻訳するのかと。これが普通の企業だとゲームの言葉もわかっていない翻訳者が入って、翻訳して出しちゃうことがあります。弊社ですと日本人のアニメーションディレクターを入れて、動画などを使って“ケレン味”という言葉で表せないところをいったん咀嚼してから伝えます。

 
――それは安心ですね。

契約でもよくあるのが、この金額でやらせていただきますとなって契約して、実際に開発に入ってから、もっと作業が必要なので追加でお願いしますみたいな。聞いていないよとなりますよね。そこは僕が契約をぜんぶ責任を持ってやるので問題ありません。日本人同士の契約の感覚でお仕事をやらせていただきます。

 
――たしかに海外企業との契約も不安ですよね。

とくにインドとか中国は難しいです。実際に契約をしても違うことを言ってくることがけっこうあります。そこは弊社は安心かなと思います。

 
――何回頼んでも違うものが出来上がることもあります。

そうですね。その場合、弊社は追加金額は一切いただかないです。

 
――過去にお仕事でどういったトラブルがあったか教えていただけますか。

もともとモデルとテクスチャを別々のスタッフがやっていました。教育するのが簡単だったからです。モデラーは自分の中でこういうテクスチャで表現しようと考えて作ります。モデルがテクスチャアーティストに渡ったときに、その意図が伝わっていなくて、モデラーと反対の意図で作業してしまうという問題がワークフロー上ありました。それはいろいろと改善を試みたのですが無理だったので、一人でできるようにしようということで全社員を教育しなおして、解決していきました。それをやったときにわかったのが、モデルができる人にテクスチャを描いてもらって最後までできるようにしようとすると、じつは絵心がなくてできないということがわかって、結局3Dのツールとかが使えなくてもデッサン力がある人を専門学校とか大学から引っ張ってきて、その人に3Dのツールを教えたほうがよっぽど早いんです。そういう人のほうがハイクオリティのアセットを作れるということがわかって、会社の教育システムとか採用方針とか、あとは人事評価とかもすべて変えていきました。

 
――センスが必要だったんですね。

そうです。絵心が重要でした。
僕もインドと仕事をしていく上で、お仕事とってきてポーンと投げてトラブルがあったら改善しましょうではなくて、インドの会社自体を変えるという形でやっています。やっぱりインドの人だけだとクライアントさまの立場がわからないということがあって、開発のトップにはクライアントさまの立場がわかる人を置こうとなって提案をして、シアトルにスタジオを置いて、シアトルの腕が良いアートディレクターを引っ張ってきて、その人にインドの社長から全権委譲して、インドの社長よりも制作にかんしてはこちらの人のほうが権限があるというように変えてもらいました。

インドはそこらへんが思い切っていて、なかなか日本とかだとできないと思うんですよ。日本人の社長がアメリカ人を連れてきてその人に全権委譲しちゃうことなんてなかなかないですよね。

 
――それはインドの特徴なんですか?

特徴だと思いますよ。超トップダウンなので、決めたらそのまま行くという。

 
――怖いといえば怖いですけど、魅力的ですね。

トップダウンで物事が超早く決まっていきます。

 
――そういうのもインドの成長につながっているのかもしれないですね。

おそらくそうだと思います。日本と北米のチームと仕事をしていたんですけど、一番違うところは、アメリカとかは「こういうゲームを作りましょう」というゴールがあったら、みんなでワーッとそこに走っていきます。日本の場合は、そこに行くまでに危険そうな落とし穴とか障害や技術的な問題などをぜんぶ考えて、そこに落ちないように失敗しないようにと考えてから、それを迂回して目標に向かいます。動き始めるまでも遅いですし、動き始めてからも遅いです。アメリカとかはとりあえず動き始めて、障害にあたったら乗り越えるか回避するかを考えます。インドは超アメリカ型ですね。そこに障害があっても、バーッと走っちゃう。

インドの人がアメリカとかでマネージャーとかの職になっているのは、そういうところがあると思います。自分で決めたら前に進む。うじうじ考えていたらほかの会社とかに先に越されてしまうので。

 
――トライアルの際の注意点があれば教えていただけますか。

トライアル時のクオリティーと実際のお仕事のクオリティーが大きく違うというケースをたまに聞くことがあります。トライアル時にアセットを作成するスタッフやアートディレクターには特に腕の良いAチームをアサインし、実際のお仕事の際にはBチームをアサインする、酷いケースではトライアル専門の外注会社を使い、トライアルをパスしたら自分の会社で作業をということもあるらしく、ご発注側では注意が必要かと思います。

注意点として、そういった形にならないように、アセットを作っている人を個人名で特定してもらって、Skypeとかでキックオフミーティングをやって、毎日でもいいですし適時その人と話しながら進めていったりとか。それを弊社の場合はトライアルをさせていただいたスタッフをそのままプロジェクトにアサインするので、しかも個人名とか顔写真とかも公開しますし、直接お話してもらっても大丈夫です。

 
――スタッフを引き抜かれたらどうしようという不安は…。

インドだから簡単に引き抜けないかなと(笑)

 
gtmf-2016-osaka-meet-ups-lakshya-digital-003――たしかにそうですね。移住してもらわないといけない(笑)

当初は、インドの社長はクレジットには個人名を絶対に載せたくないと言っていました。引き抜かれるからです。ただそれがマイナスだったのは、クレジットに載せていただくときに、うちは50名とか100名とかプロジェクトにかかわっているのに「Lakshya Digital PVT.」の1行で、ほかのライバル会社さまは12名ぐらい載せてあると、そっちの会社のほうがお仕事を多くしているように見えちゃうんですよ。なので、良いスタッフがいれば給料を高く払って引き抜かれないようにするというまっとうなことをして、クレジットにしっかり載せていただきましょうということになりました。

 
――ラクシャさんの他社に負けないアピールポイントをお願いします。

「手がかからない」です。契約・納品・スケジュール、すべてにかんして日本と北米クオリティでできます。

 
――日本と契約している感覚で、出来上がってくるのは北米クオリティ。

そうですね。特に技術的なところだと、弊社シアトルスタジオのキャラクターリードのジョン=ハーマノスキーなどは『Just Cause 3』のメインキャラクターをAvalanche Studiosで作成した実績があるスタッフなのですが、うちのワークフローを作ったのも彼です。

アセットを作る会社というのは、アセットは作れるんだけど、それがどういうふうにゲームで使われるかというところはゲーム開発を経験していないとわからないんですよ。そこはシアトルのところで発注している立場の人がリーダーシップをとっているので、「このアセットは言われたとおりに作るとパフォーマンスがすごく落ちますよ、だからあとでパフォーマンスを調整するためにこういう作り方をしたほうがいいですよ」というのを発注段階でお返しして、OKですとなったら作り始めます。

 
――とても安心ですね。ありがとうございました。

 

[聞き手: Shinji Sawa]

[写真: Mon Gonzalez]

 

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GTMF(Game Tools & Middleware Forum)はアプリ・ゲーム開発・運営に関わるソリューションが一堂に会するイベント。2003年にスタートし、今年で14年目。大阪会場は2016年7月6日、東京会場(事前登録受付中)は7月15日に開催。

 

Shinji Sawa
Shinji Sawa

ゲームはジャンルを問わず遊びますが、1回のプレイ時間が短いものが好きです。FPSやRTSは対戦モノを積極的にプレイします。しかし緊張するとマウスを持つ手が震えるタイプでもあります。

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