『Superhot』 現代版「避けて撃つ」

[Monthly Indie]はその月に登場した目玉のインディーゲームたちをピックアップしていく[Indie of the Week]の姉妹企画です。[Indie of the Week]で取りあつかうものよりも若干多めに知名度を獲得したインディーゲームをとりあげます。本数を絞りこむぶん、さらに深くタイトルを掘りさげる月刊連載です。

6月のE3開催が目前に迫る5月の[Monthly Indie]は、Kickstarterで好調な資金調達振りを見せている『Superhot』です。

 


プレイヤーが動いた時だけ時間が動くFPS

 

Kickstarterにて初期目標額10万ドルを24時間で集め注目を集めている『Superhot』は、ポーランドの開発チーム「Superhot Team」が開発中のFPS。ミニマルな(いうなればスクリーンショットを一見するとどこかのFPSゲームのトレーニングモードのような)CGグラフィックを採用しただけの作品と感じられてしまうかもしれませんが、トレイラーを見ればわかるようにゲーム内の時間がプレイヤーが動いた際にのみ動き出というユニークなメカニックを採用しています。

『Superhot』のゲーム世界ではスローモーションのごとくゆるやかに時間が進行しているものの、キャラクターが移動したときにだけ通常のスピードで時間が動きます。プレイヤーは発砲された弾丸の軌道を目視してから回避したり、あるいは近づいてきた弾丸を刀で斬り落としたりしつつ、敵の全滅を目指すのです。映画「マトリックス」のように敵の弾丸を避けていくアクションシーンは、本作のシンプルなビジュアルに華を添えています。

「制限のある永続スローモーション」Perkを装備しプレイヤー側が圧倒的に強い『Superhot』ですが、開発チームが「各レベルが命がけのパズルに仕上げられている」と伝えるように、レベルデザインはよく練られたています。銃弾の嵐を突き抜けて落ちている銃を拾いに向かったり、360度から登場する敵を次々と撃ち倒したり。数秒後を予想して難所を切り抜けていくチャレンジングなパズル性が本作最大の魅力といえるでしょう。

 

 


「避けて撃つ」の現代的アレンジ

 

『Superhot』は元をたどると昨年8月に開催された「7 Days FPS」にて誕生したタイトル。「7 Days FPS」はその名の通り7日間でFPSを開発するゲームジャムイベントで、過去にはリロードや撃鉄起こしなど銃器の操作にこだわった『Receiver』を輩出しました。『Supershot』にもすでに7日間にて開発を終え公開されたプロトタイプ版が存在しており、プレイすると同作のユニークなプレイフィールを体感することができます。

まず『Max Payne』に代表される「バレットタイム」との類似性が頭に思い浮かぶ『Superhot』のメカニックですが、じつは『Superhot』の根幹は「避けて撃つ」の古めかしいFPSデザインです。バレットタイムはスローモーション中に敵を先に撃ってしまう西部劇のガンマンのような感覚ですが、同作はむしろ敵の弾を避けて撃つことにフォーカスしています。どちらかといえば『Doom』から続く「避けて撃つ」に現代的なアレンジをくわえたと表現する方が正しいでしょう。『Superhot』で弾丸を避けて敵を撃つ感覚が『Call of Duty』や『Battlefield』よりも、『Doom』のインプの火弾を避けてショットガンで撃ち殺すそれに似ている、といったところでしょうか。

しかしながら『Superhot』は「移動した時にのみ時が動く」という制限により、『Doom』や『Serious Sam』といった避けて撃つ系のFPSにはなかった「静と動」の独特なフィーリングを生みだしています。そのパズル的な戦略性も考慮する、すなわちプレイヤーに考える時間が与えられた詰将棋版『Doom』ととらえれば、過去のFPSの焼き直しに収まる作品ではありません。

 


ブラウザ向けパズルゲーム開発者が手がけるFPS

 

『Superhot』の開発を指揮するクリエイティブディレクターPiotr Iwnicki氏はブラウザ向けの無料パズルゲームを公開してきた開発者です。次々と落下してくる天井を避ける『Rektagon』や、テトリスとジャンプアクションが組みあわさった『Tetravalanche』を手がけてきました。シンプルで取っつきやすくもとことん遊べるデザイン哲学がうかがえるなか、『Superhot』も前述したメカニックを中心にストーリードリヴンのキャンペーンや各種モード、さらに武器や敵タイプの追加によるボリュームアップが目標とされているようです。

なお『Superhot』の対象機種はPC/Mac/Linuxとなっており、現在Kickstarterではすでに18万ドルを獲得。アニメーションの改善やスピードランモードの搭載が決定しており、20万ドルでリプレイモード、23万ドルでニューゲーム+の追加が予定されています。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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