台湾ホラーゲーム『還願 Devotion』の再販を、ゲームストアGOGがすぐさま取り下げ。再販発表3時間後の結末


PCゲームストアGOG.com公式Twitterアカウントは12月17日、『還願 Devotion(以下、還願)』の販売を取り下げると発表した。昨日12月16日に、台湾のインディースタジオRed Candle Gamesは『還願』をGOG.comにて再販すると発表していた。GOG.com公式Twitterアカウントも、その告知をRT。ストアとスタジオが足並み揃えて再販を進めているのかと思いきや、ストア側がその発表を覆した。


『還願』は、2019年2月に発売されたホラーゲーム。台湾の新進気鋭のゲームスタジオRed Candle Gamesが手がけている。学校という場所を中心に台湾の歴史を描いた前作『返校 -Detention-』の路線を引き継ぎつつ、今度は家庭をテーマとし、1980年代の哀しい台湾家族を表現。宗教や文化を絡ませながら、陰鬱な物語を描ききった作品である。

発売直後は高い評価を獲得したが、「習近平くまのプーさん」と書かれているポスターが発見されたことにより、状況は一変した。具体的には、ゲーム内に飾られている符呪と呼ばれる張り紙に、「習近平くまのプーさん」と記されていることが確認され、さらに符呪の周りにある四文字が語呂合わせで「お前の母ちゃんはアホ」と読み取れるものになっていた。こうした描写については、台湾のスタジオが中国を揶揄したとして、中国本土のネットユーザーは激怒(詳細記事)。開発元はすぐさま該当箇所を修正したものの、Steamストアなどは荒れに荒れ、結果的に同作の販売は自主的に取り下げられることとなった。


販売取り下げ後もRed Candle Gamesは長期にわたり沈黙を続けていた。台湾国内にてパッケージ版『還願』などは販売していたが、同国国外リリースについては、1年以上なされなかった。しかしこの度GOG.comにて再販が決定。表現や価格はそのままに、再びゲームを発売すると表明したのだ。幻と化していたゲームの再販が決まりファンを喜ばせたが、その喜びは半日すら続かなかった。Red Candle Gamesの発表からストア削除までの時間は、わずか3時間である。

GOG.com公式Twitterアカウントは、『還願』について「たくさんのゲーマーからのメッセージを受け取った結果、ゲームをストアから取り下げる」とコメントしている。たくさんのゲーマーというのは、おそらく中国ユーザーだろう。同作では、「習近平くまのプーさん」というポスターが見つかってからは、大規模な低評価爆撃がSteamストアページに投下され、その数の大きさを見せつけた。彼らがふたたびGOG.comへと問い合わせをしたという可能性は高そうだ。


もしくは、中国側からなんらかのアプローチがあったのかもしれない。というのも、『還願』においては中国販売を担当したパブリッシャーIndieventも中国政府から処分を受けている。中国国家自体も『還願』には厳しい措置をとっている。GOG.comを運営するポーランドのGOGは、『サイバーパンク2077』で知られるCD PROJEKTの子会社である。ゲームを売る会社にとっては、中国は重要な市場。中国政府からアプローチをかけられたとすれば、取り下げはやむを得ない。市場を失いたくないからだ。

ただしこれらの説は筆者の憶測に過ぎず、その裏側にて何があったのかは闇の中だ。ただし再販をするにあたっては、GOG.comにとってもリスクがあったことは承知しているはず。『還願』再販の呼びかけを拡散していたのだから、きっちり話し合った上での協力であるだろう。それらを上回る、強い力が働いたと考えられる。

GOG.comの発表には、全世界のゲーマーから激しい反発の声が寄せられている。習近平主席とくまのプーさんを並べる画像を貼るものから、「たくさんのゲーマーからのメッセージを受け取った」というのはゲーマーではなく中国人たちのことだろうと糾弾するものまで、その意見はさまざま。いずれにせよ、高く評価され台湾の文化を色濃く表現した傑作が再販されるという夢は潰えた。今回の一件は、『還願』の再販がいかに難しいかを示すだけでなく、Red Candle Gamesの未来が極めて不透明になったことも意味する。

【UPDATE 2020/12/17 18:35】

Red Candle Gamesは12月17日、『還願』がGOG.com再販差し止めになった件について言及。残念ではあるが、GOG.com側の決断を理解し尊重するとコメントした。また再販を楽しみにしていたユーザーに向けて深く謝罪。極めて困難な苦境を強いられているが、その歩みを止めないとし、今後の再販に向けて決意を見せている。