「ゲーム内のクモ」扱い難しすぎ問題で開発者ら悩む。お約束の敵キャラでも、のっぴきならない恐怖感

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ゲーム開発において、ある共通の問題が存在しているようだ。それは、「クモ」をどう扱うかである。 

『V Rising』といえば今月17日に早期アクセス配信を開始し、すでに100万本以上を売り上げた人気吸血鬼サバイバルだ。同作はまだ開発が進む段階ということで、ユーザーからのフィードバックを積極的に受け付けている。そうした議論が交わされる場の一つがコミュニケーションツールDiscordだ。『V Rising』のDiscordサーバーには「コンテンツと機能の提案」チャンネルが存在し、ここでユーザーが直接ゲームへの要望を投稿し、盛り上がっている。 

そうしたなか、あるユーザーがユニークな提案を持ち上げた。「“恐怖症”対策モード」を実装してほしいという意見だ。いわく、そのユーザーの友人は「クモ恐怖症」を患っているとのこと。そのため、『V Rising』をプレイするなかで、ボスキャラクターの一体Ungora the Spider Queenを見たときに強い恐怖を覚えたというのだ。同ボスは、巨大なクモそのままの姿をしたキャラクターである。同ユーザーは、さまざまな恐怖症を抱えた人のために、恐怖症への影響を緩和する対策モードを用意するのはどうかと伝えている。 

スレッドにおける反応はまちまちだ。提案に同意する意見も見られる一方、多く見られる意見は、『V Rising』のゴシックホラー的な世界観を表現するためには、あくまでクモはクモとして表現すべきではないかとする声だ。開発側が本作をMod対応すれば、ユーザー制作Modによる対策を取れるのではないかとする意見も挙がっている。開発者から正式な回答はまだついていないものの、議論としてはかなりの盛り上がりを見せている状態だ。 
 

 
クモ恐怖症は、その名のとおりクモに対して過剰に恐怖感を覚えてしまう症状のことだ。クモがいる可能性のある場所や、クモの巣などがある場所に不安を感じる傾向があり、クモやクモの巣に近づくと、パニック症状を発症する人もいる。学術的には「Arachnophobia(アラクノフォビア)」と呼ばれており、恐怖症のなかでも広く知られている症状の一つだ。 

クモといえば、ゲームにおいて敵キャラとしてポピュラーな存在といえるだろう。一方、実はゲーム開発者は、クモ恐怖症の人への配慮とクモの扱いには苦心している場合もあるようだ。たとえば、『エルデンリング』ディレクターの宮崎英高氏は、Xbox Wire Japanのインタビューにて、同作に登場する敵ユビムシについて言及している。ユビムシは、人間の指が集まってクモのような姿をなしているキャラクターだ。そのデザインのおぞましさについて、宮崎氏は「何と言いますか…、とてもすみません…」ともごもご。同デザインがお気に入りの一つであるとしつつ、「しっかりと見据え、打ち倒すことで克服できたりしないでしょうか」とアドバイスを寄せている。 
 

 
また、より本格的にクモ恐怖症に取り組んだゲームも存在する。2020年に発売されたサバイバルアクションゲーム『Grounded』だ。同作は、身体が小さくなってしまった子供達が、裏庭を舞台にサバイバルをおこないながら、元のサイズに戻ることを目指す作品だ。同作には敵としてさまざまな虫が登場する。普段はちっぽけに見える虫も、ミクロサイズの子供にとっては大きな脅威。そんな虫のひとつとしてクモが登場するのだ。 

ところが『Grounded』はアクセシビリティオプションとして、色覚設定やテキスト読み上げ機能のほかに、「Arachnophobia Safe Mode」つまり「クモ恐怖症」の人が安心してプレイできるようにするための設定が用意されている。「Arachnophobia Safe Mode」は6段階のスライダーとなっており、0に設定するとクモは本来のデザインのまま。そして1段階ごとに設定を上げていくにつれ、8本あった脚が4本になり、ついには頭と胴体だけに。さらに設定を上げていくと顎がなくなり、体型がデフォルメ化。最終的には身体の模様もなくなり、2つの球体に目が付いただけの生物になるのだ。作品のテーマとして虫との対峙は避けられないだけに、クモ恐怖症の人に対しては本格的なケアが用意されたようだ。
 

 
ところで、クモ恐怖症そのものをテーマとして扱ったゲームも存在する。2020年にリリースされたアクションゲーム『Kill It With Fire』である。同作は、クモ退治をテーマとした作品。部屋中に現れるクモを発見し、徹底的に殲滅することが目的のゲームだ。クモを駆除するためなら手段を問わず、ショットガン、手裏剣、火炎放射器などを駆使してとにかくクモを追い詰める。その過程で部屋が破壊されようと炎上しようとお構いなしの、破天荒なクモ憎悪アクションゲームである。クモが出現すると「キシキシキシ……」と不気味な音が迫ってくるなど、クモ恐怖症でなくともなかなか心理的に厳しい演出が妙となっている。 
 

 
そんなクモ許すまじゲームの『Kill It With Fire』であるが、同作でもクモ恐怖症へのケアが存在。2020年10月のアップデートにて、「アラクノフォビア設定」が可能となった。同設定においては、クモのモデリングのリアルさを緩和することが可能。もちもちと丸っこい、ぬいぐるみのようなクモに置き換えることが可能だ。このほか、クモが迫る音やジャンプスケア音演出の有無など、細かく好みに合わせて設定を調節することができる。ゲーム内容の苛烈さに対して、クモ恐怖症の人への配慮は繊細で丁寧だ。 
 

 
さらに、作品のアイデンティティを揺るがすほど配慮に力を入れている作品もある。2021年に発売されたアクションゲーム、『Webbed』だ。同作の主人公は、そのものずばりクモである。主人公のボーイフレンドが大きな鳥にさらわれてしまったことで、彼女は救出に向かうため森を冒険するのだ。クモはドット絵で表現されており愛嬌があるものの、その描写としては比較的リアルめ。クモ恐怖症の人からすれば、プレイ自体がキツいゲームのように思える。 
 

 
しかし、実は『Webbed』にもアラクノフォビアモードが存在する。同モード内では、主人公のクモが大変身。つぶらな目をした、丸いポヨポヨの「何か」へと変貌を遂げる。いったい何の生物なのか分からないものの、跳んだり跳ねたりする弾性描写はなかなか凝っており、かなり丁寧に作りこまれていることが分かる。クモをテーマにした作品でありながら、クモ恐怖症の人にも作品を届けようという意気込みは、ゲームのアクションとしてのクオリティの高さに裏打ちされた自信の表れかもしれない。 
 

 
クモ恐怖症の人をどこまでケアするかは難しい問題だ。アクセシビリティの問題として捉えれば、事情を抱えた人もゲームを平等に遊べるようにすることは重要な取り組みに思える。一方、恐怖症といえばクモ恐怖症のほかにも、ヘビ恐怖症や閉所恐怖症、先端恐怖症など、枚挙にいとまがない。すべての恐怖症に対して平等に配慮するのは難しいともいえるだろう。結局クモ恐怖症問題にどう対応するかは、作品のテーマは何か、誰に届けたいかといった開発者の判断に委ねられることになりそうだ。 


※ The English version of this article is available here

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