任天堂は10月8日、Nintendo Switch向けに『メトロイド ドレッド』を発売した。探索型アクションゲーム『メトロイド』シリーズにおける、19年ぶりの完全新作として話題の作品だ。その本作について、一部メディアが「すでにエミュレーターで動作可能」と報道し、ゲーマーや業界関係者からの批判に晒されているようだ。
ことの発端は、あるNintendo Switchエミュレーターの開発元が『メトロイド ドレッド』発売翌日の10月9日に、本作への対応状況を報告したことにある。本稿ではどのエミュレーターかはあえて触れないが、PC上にて本作がスムーズに動作していると動画とともに報告し、そのエミュレーターの最新バージョンをダウンロードするよう、ユーザーに呼びかける内容だった。また、別のエミュレーターの開発元も、同様に本作への対応を公表している。
これを受けて、以下に示したKotakuを含む一部海外メディアが、10月10日になってニュースとして報道。そしてゲーマーや業界関係者から、多くの批判の声が寄せられることとなった。批判の内容を見てみると、その記事がゲームの海賊行為を宣伝・助長していると指摘するものが多い。特に著名メディアに対して、そうした記事を掲載することに不快感を示す人がみられる。
ここでいうエミュレーターとは、PC上などでゲーム機の挙動を再現し、対応ゲームをプレイするためのもの。ファミコンなどかなり古いゲーム機から、携帯ゲーム機、そしてNintendo Switchに至るまで、さまざまな対応エミュレーターが開発されている。著作権侵害なく開発されたエミュレーターを通じて、ユーザーが所有するゲームソフトをプレイする分には違法性はないとされる。そのため、今回寄せられた批判意見には反論も多くみられるが、実際には海賊版ソフトの利用が横行しているとの見方もあり、海賊行為を助長していると指摘する人が相次いだようだ。
『メトロイド ドレッド』のエミュレーターでの動作を報じたメディアのなかでも、先に挙げたKotakuは特に大きな批判を浴びている。それは記事中の表現にも原因があったようだ。まず冒頭では、任天堂の弁護士や従業員はこの記事を読まないでくれと呼びかけ。そして、該当エミュレーターでの動作についての事実を紹介するなかで、「本作はNintendo Switch独占タイトルだが、エミュレーターとパワフルなPCさえあれば遊べる」と述べていた。
Nintendo Switchエミュレーターでゲームをプレイするには、所有するゲームのデータを吸い出すために、ハック済みのNintendo Switch本体が必要だとされている。しかし、“必要なのはエミュレーターとPCだけ”と記述すると、ゲームは海賊版をダウンロードすれば良いとも受け取られかねない。こうした表現からも、海賊行為を助長していると批判されたわけだ。なお、Kotakuはのちに謝罪し、該当表現を記事から削除している。
今回批判を寄せたゲーマーの意見を見てみると、必ずしもエミュレーターの利用そのものに否定的なわけではない。適法に利用することができるという側面はもちろん、家庭用ゲーム機は、時とともにプレイ環境を整えることが難しくなるという現実もある。
バンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏も以前、そうした問題を提起し、将来的にメーカーは何らかの対応を検討すべきだと述べていた。例として、現行機向けに公式のエミュレーターを提供する案が示されている。メーカー公式の対策が提供されるのであればベストだが、ゲーマー側にとっては、当面はエミュレーターがクラシックゲームの保存にひと役買うことになるだろう。
ただ、『メトロイド ドレッド』はローンチを迎えたばかりの最新作である。発売日のわずか2日後に、一部メディアがエミュレーターでプレイできると報じた背景には、上述したような止むにやまれぬ事情はないとして反発を受けたわけだ。もし報道によって海賊版に手を出す人が増え、本作の売り上げに悪影響を及ぼすとすれば、久しぶりに新作が出た『メトロイド』シリーズの次なる新作はないかもしれない、という意見もみられる。
先述したように、エミュレーターは適法に利用することが可能とされており、それは新作の『メトロイド ドレッド』をプレイするうえであっても変わらない。個人が楽しむこと自体は責められるものではないだろう。そうしたなか今回は、ここまで触れたさまざまな理由により、メディアのモラルが問われることとなった。情報を発信するメディアとしては慎重に判断することが求められるだろう。そして当然ながら、ゲームは正規に購入するべきである。
『メトロイド ドレッド』は、Nintendo Switch向けに販売中だ。
