スクウェア・エニックスが10月28日にリリースしたスマートフォン向けシングルプレイRPG『オクトパストラベラー 大陸の覇者』(以下、『大陸の覇者』)。11月14日には プレイヤー数1000万人を突破した本作は、Nintendo Switch/PC(Steam)向けに発売された前作『オクトパストラベラー』の雰囲気や世界観を踏襲した部分が高く評価されている。

弊誌AUTOMATONでは『大陸の覇者』の開発スタッフ3名にインタビューする機会をいただき、バトルシステムやシナリオで気になった点、今後の展望などをお伺いしてきた。前作『オクトパストラベラー』とのつながりなども聞くことができたので、シリーズファンにとっても嬉しいインタビューとなれば幸いである。

プロデューサー 横山 祐樹氏



運営ディレクター/バトルディレクター 木寺 康博氏


開発ディレクター/シナリオディレクター 鈴木 裕人氏




────本日はよろしくお願いします。『大陸の覇者』1000万DL突破、おめでとうございます。チーム内の士気は変わってきていますか?

横山氏:
ユーザーのみなさまの反応は我々にとって嬉しいものが多く、よりモチベーションにつながってきています。忙しさという意味ではあまり変わっていなくて、ずっと走り続けているような状態です。まだ走れているのはお客様がすごく楽しんでくれていて、おかげさまで良い評価をいただいている部分が大きいと思っています。


────『オクトパストラベラー』というタイトルはスクウェア・エニックスさんの中では第二開発事業本部で進められている印象が強かったのですが、『大陸の覇者』は第二開発事業本部のスタッフの方で作られているのでしょうか?それとも、新しいチームで開発されているのでしょうか?

横山氏:
第四開発事業本部の新しいチームで作っています。コンシューマー版の『オクトパストラベラー』を作った浅野たち第二開発事業本部とは違う部署ですが、チームの監修者として浅野とは連絡を密に取り合って開発を進めました。

鈴木氏:
シナリオに関してはもともとオクトパストラベラーのライティングをしていた方に今回もお願いしている経緯があるので、前作に関わっている方も参加しています。

横山氏:
「『オクトパストラベラー』というものをちゃんと作る」という視点で、元スタッフたちとコミュニケーションを取りつつ、もともとのコンシューマー版を作っていたスタッフにも参画してもらっていますね。

────第二開発事業本部の監修を受けながら第四開発事業本部のメンバーで開発しているのですね。クレジットには『オクトパストラベラー』にも携わったアクワイアさんのお名前もありましたが、アクワイアさんはどのように関わられているのでしょうか?

横山氏:
アクワイアさんにはVer1.0.0までの制作をお願いしていました。運営が本格化してきてからはドキドキグルーヴワークスさんが主体になって開発しています。


────新たな体制でここまでしっかりしたものを作るのはすごいなと感じます。

横山氏:
今回はスクウェア・エニックス側のチーム人数も多く、開発会社さんとの関わり方もこれまでにないくらい密に連絡を取って行っています。社内では「半内製」という呼び方をしていますね。


モバイル版は『オクトパストラベラー』を多くのユーザーに広げるために作られた

────モバイル版を開発した経緯について教えて下さい。

横山氏:
Nintendo Switch版を初出しした2017年の1月くらいにユーザーのみなさまの反応を見ていた際、「面白そうだけどハードをもっていない」という方が多くいらっしゃいました。『オクトパストラベラー』を多くの人に広げるために、たくさんの方が持っているスマートフォンで展開するのはどうだろうか、そう考えた浅野が第四開発事業本部に相談に来たのが始まりです。

────前作『オクトパストラベラー』のチームとメンバーは変わっているかと思いますが、今回のチームにおいて新しいテーマやスローガンなどはありましたか。

横山氏:
「スマートフォンでも『オクトパストラベラー』というものをちゃんと出す」という想いは、みんなが共通に持っていたテーマだと思います。そのなかで、初期の頃に浅野から『オクトパストラベラー』の大切にしている部分を教えてもらって、そこですり合わせたものをスマートフォン版の作品に生かしました。「地に足がついた世界観」などキーワードをもらって、そこから企画を膨らませました。


────認識のこすり合わせにはどのくらいの時間をとられましたか?

横山氏:
はじめのころは浅野とかなり密にやりましたね。今回のメインストーリーでは「富」「権力」「名声」という3つのテーマがありましたが、土台の部分は浅野からアイデアをもらっています。『オクトパストラベラー』は地に足がついた世界観でストーリーが作られている関係で、ご都合主義で展開を考えない部分があります。キャラクターにきちんとフォーカスを当てて、「この人ならどう考えるだろう」などと深堀りをしていくうちに、「人の欲求」は『オクトパストラベラー』らしいテーマだよねという話になり、そのワードをもらいました。

また、コンシューマー版のサブストーリーで「富」「権力」「名声」を扱ったものを作ろうとしていた部分もあったようです。ただし完成版ではボツになってしまったので、そのテーマをスマートフォン版でやってみましょうか、となった経緯もあります。

────スペシャルサンクスに高大輔さまの名前が記載されておりますが、どのような形で関わられているのでしょうか。

横山氏:
まず前提として、『オクトパストラベラー』をスマートフォンに広げるというテーマで開発を進めていくなかで、「『オクトパストラベラー』がRPGじゃなかったらそれは『オクトパストラベラー』じゃない」という話になり、スマートフォンでどんなRPGとして提供していくかという部分を考えました。

ちょうどその頃に『アナザーエデン』(※)が配信され、スマートフォン向けのシングルプレイRPGとしての完成度の高さに驚きまして。我々も『オクトパストラベラー』はスマートフォン向けのシングルプレイRPGとしてやってみる価値があるんじゃないか。スクエニのお客様が求めているんじゃないか。そう考える後押しとなりました。その後、『大陸の覇者』の開発が進んでいったところでなんと高さんがスクウェア・エニックスに入社されました。タイトルとしてリスペクトしていたので、お話を聞いたこともあります。

※正式名称は『アナザーエデン 時空を超える猫』。Wright Flyer Studios開発で、GREEより配信されているスマートフォン向けシングルプレイRPG。「スマホで冒険をしているRPGを作る」をコンセプトにしており、フレンド機能や期間限定イベントなどのソーシャルゲームに多い要素を廃した内容が特徴。高大輔氏は同作のプロデューサーを務める人物。

────なるほど、スマートフォン向けシングルプレイRPGの先駆けとしてのリスペクトによるスペシャルサンクスだったのですね。


中途半端な作品は出せないという決意による延期

────当初2019年にリリース予定だったものが1年近く延期しましたが、その理由を改めて教えて下さい。

横山氏:
シングルプレイRPGをスマートフォンで出すに際して運営していくことを考えたときに、ちゃんとRPGとしてストーリーを定期的に出していかなければいけないと思いました。2019年11月頃にはVer1.0.0はほぼ完成していたのですが、そのあと運営していくにあたって、定期的なメインストーリーの追加が難しいという観点から、体制の立て直しを決断しました。シングルプレイRPGとしてユーザーが満足するものにならないだろうという判断です。スタッフも当初の倍以上になっており、開発規模を大きくしたので運営に備えるために時間がかかってしまいました。

────先行体験版の時点でユーザーからの評価は高いものでしたが、延期の決断に心苦しさはありませんでしたか?

横山氏:
お待ちいただいているユーザーのみなさまの声は届いていましたし、アンケートでかなり熱量のこもったご意見をいただきました。だからこそ中途半端なものは出せないなと思い、心苦しさよりも背中を押されたような気持ちが大きかったです。ユーザーのみなさんにはお待ちいただくことになりましたが、『オクトパストラベラー』で半端なものは出せないという判断で延期をいたしました。

────早い時期に詳細なロードマップが出たのは、延期してきちんと準備をした賜物ということですね。

11月2日に公開された『大陸の覇者』ロードマップ。2021年2月までの予定が記載されている


コンシューマーのシステムをモバイルに。苦労の果てに実装されたフィールドコマンド

────コンシューマーのシステムをモバイルに落とし込むにあたって、こだわった点や苦労した点などはありますか。

木寺氏:
「オクトパス」というキーワードから、8人のキャラクターを使ってバトルをするという内容は最初の段階で決まっていました。そのうえで8人をどのように使うかを考えて、現在の前衛後衛のシステムを基幹にしました。

コンシューマー版でコントローラーだからこそ気持ちよくできたブースト操作は、開発チームと検討し、スマートフォンでも気持ちよくできるブースト操作にしたいと考えていまの形式になっています。バイブの機能だったり、ブレイクに対する振動だったりをうまく落とし込むことを突き詰めました。


────フィールドコマンドのシステムもコンシューマー版から引き継がれていますが、キャラクターのスキルではなく旅団の影響力に依存するようになったのはどの段階で決定していったのでしょうか。

鈴木氏:
フィールドコマンド自体はものすごく工数が高いことがわかっていたので、作りきれないのではないかという懸念から、スマートフォン版では別のシステムを用意していました。ジョブごとにスリができたり、開けられるトレジャーボックスの種類が違ったり、そういった設計でしたね。

しかし、前作の『オクトパストラベラー』を自分たちでもプレイしたり、ユーザーのみなさまの声を聞いたりしていくなかで、やはりフィールドコマンドこそが『オクトパストラベラー』の世界観を彩る大きなシステムのひとつであるということを感じました。そこで改めて開発メンバーと相談し、スケジュールを伸ばしてでも実装すべきだという結論に至りました。

このフィールドコマンドを『大陸の覇者』に落とし込んでいくなかで、「富」「権力」「名声」というテーマをうまく活かし「このNPCにとって何が大切なのか?」「このNPCは交渉材料に何を求めているのか?」と決める工程は、スムーズに進んでいきました。NPC側の個性に光を当てたことで、生い立ちや持ち物、支援技などの個別の情報を一度に確認できるようになったことは収穫でしたね。ユーザーのみなさまの反応を見てもとても楽しんでいただけているようなので、苦労したのですがやってよかったなと思っています。

木寺氏:
実装途中にはレベルデザインも何度も見直しています。何回見直せばいいんだろうと思ったくらいに……(苦笑)

鈴木氏:
フィールドコマンドではアイテムもNPCごとに設定されているし、装備もきちんと持たせないと面白くない。また、支援技でNPCとして連れて行くこともできるので、レベルデザインと密接に関わっているんですね。設計ミスで強すぎて「もうオルネオ(トレサの父親)さえいればいいじゃん」となったことすらあり。苦労しました(笑)




67人のトラベラー、それぞれの個性を引き立てるためのシステム

────コンシューマー版『オクトパストラベラー』ではジョブ変更や武器の持ち替えによる編成の柔軟性が魅力でしたが、『大陸の覇者』ではキャラクターごとにジョブが固定化されています。ジョブを固定化した意図にはどのようなものがあるのでしょうか。

木寺氏:
コンシューマー版では、自由度が高いジョブのカスタマイズ性を遊びにしていました。しかし、より多くの人に触っていただけるスマートフォン版では、わかりやすさの観点から職業と武器種を紐付けることは早い段階で決めていました。運営を続けていく上でキャラクターが増えていくことを見越して、状況に応じてキャラクターを入れ替え、パーティをビルドしていく方向になっています。そのため、1人のキャラクターにもたせる自由度は限定的にしています。職業を固定化したことによってキャラクターの個性が際立ち、トラベラーストーリーで特徴をよりはっきりと描くことができるようになったのも良かったですね。

────Ver.1.0.0では64人、現在は67人の主人公がいるなかで、レアリティの低いキャラクターを愛用し、育てている方も多いかと思います。そういったキャラクターに対して、今後スキルを増やしたり、新たなクラスボードやアビリティを解放したりといった措置は考えられていますか?

木寺氏:
愛着のあるキャラクターを強く育てていきたいという要望はこちらも認識しているので、今後の課題にしています。すぐにというわけにはいかないのですが、レギュラーから外れてしまったお気に入りのメンバーも再び組み込めるよう、何かしらの方向で実現したいと思っています。ただ、現状どのように実現するかについては検討中なので、気長にお待ちいただければと。

鈴木氏:
星3のキャラクターは「前衛と後衛の経験値を上げる」など、後衛にいても効果を発揮するサポートアビリティを持っていることが多いので、後ろにいて応援してくれるような役立て方をしていくことができます。そういったところで活躍させていただけると良いのかなと考えています。

木寺氏:
もともとの設計として、星5に関してはひとりで自分自身を強化できるようなステータスやサポートアビリティを多く持っていて、星3と星4はそれらを後ろから支えるというか、相互に作用するようなサポートアビリティを多く持たせています。

────低レアはサポート要員として光るものがあるのですね。

木寺氏・鈴木氏:
そうですね。

────レアリティが低く入手しやすいトラベラーの中で「このキャラは育てておくのがおすすめ」というキャラはいますか?

木寺氏:
性能面という意味ではミーナやマドレーヌが使いやすくておすすめです。ヒーラーで足が速いミーナや、ヒーラーでありながら複数回攻撃をもっているマドレーヌは育てておいて損にはならないかなと。便利なキャラクターでいうと、ウィンゲートはシールドを破壊できるスキルを持っていたりするのでおすすめです。また、パーティのムードメーカーになってくれるキャラクターも多いので、音ありでプレイされている方はそういったキャラクターを編成すると特に楽しくプレイできるのではないかなと思います。

鈴木氏:
ウーゴはパーティに入れているとほんわかするので、開発チーム内では人気があります。強いボスを目の前にしても「やるぞぉ~」とか言うので(笑)

木寺氏:
そういう意味ではピアなども人気がありますね。

────ムードメーカーという意味で編成していて楽しいキャラが多いのも魅力ですね。

開発チーム内で人気の星3剣士ウーゴ。よく食べ、よく眠るのんびりとした巨漢だ


クラスボード解放用素材はいずれ緩和も予定

────今後の予定として、新たなジョブの実装は考えられていますか。

木寺氏 :
いまのところ予定はしていません。別の方法でキャラクターを強化できるような遊びに関しては何かしら検討を進めています。

鈴木氏:
コンシューマー版にあった上位ジョブがユーザーのみなさまから期待されているだろうというのはわかっているのですが、『大陸の覇者』ではジョブシステムがキャラクターの個性と密接に紐付いているので、上位のジョブを追加すると一気にバランスが崩壊してしまいます。いままで役に立っていたキャラクターが役に立たなくなってしまうことも起こりうるので、慎重に検討したいと思っています。

────クラスボード解放用の素材について、現在は入手手段が限られていますが、今後イベントや追加コンテンツなどでの報酬に追加される予定はありますか?

木寺氏:
今後予定しているロードマップのなかに、手に入る予定のコンテンツがいくつかあります。

────ありがとうございます、助かります!

クラスボード解放用アイテムである印は討伐依頼をこなすことで手に入れることができる


重いメインストーリーとライトなトラベラーストーリーに共通するもの

────メインストーリーは重くシリアスに、反面、トラベラーストーリーはあたたかい気持ちになれるようなものが多く感じました。シナリオの雰囲気として、意図して切り分けたのでしょうか?

鈴木氏:
ゲーム設計上意図的な面もありますが、シナリオ展開としては自然とそうなったと感じています。『大陸の覇者』では「欲望」を一番大きなテーマにしていて、PVのなかでも「力に善悪はない」という言い方をしています。その欲望に対してどういう行動をとるかは欲望をもつ人によって変わっていきます。シナリオのボスである極めし者たちは、欲望の限りを尽くしているからこそ悪なのです。それを描いていくと当然重苦しいものになってくるため、容赦なく悪を振るうようなシナリオとなりました。

また、トラベラーたちのストーリーも「欲望」が起点となっています。誰かのために何かをしたいというものや、自分のためであってもより社会のために広がるようなものが多いですね。希望と言い換えられるような物語になるので、そういったところではあたたかい気持ちになれるものが多いのではないでしょうか。ただ、ゲームの順番として最初に重いメインストーリーをやっていただくことになるので、そのあとに明るいトラベラーストーリーが出ることでちょっと気持ちが楽になってほしいという設計思想もあります。

────メインストーリーのボスもトラベラーたちも欲望を軸に行動しているのは一貫していると。

鈴木氏:
そうですね。

木寺氏:
プレイアブルキャラクターにもそれぞれ対応する影響力がありますが、例えば富だったら富にまつわるストーリー、という感じになっています。

────ミロードのトラベラーストーリーは特に明確だったように感じます。

木寺氏:
ミロードはトラベラーストーリーのなかで富にするか権力にするかを訊かれ、違う道をいくという話にしましたね。

ミロードのトラベラーストーリーでは、人助けをしたいミロードに対して「権力」「富」を使っての人助けという選択肢が提示される。しかし、「名声」のトラベラーである彼の決断は……。


────なるほど、腑に落ちました。

鈴木氏:
実はメインストーリー については、リリース前はもっと賛否両論になると思っていました。思い切り振り切って悪のシナリオをやってしまったので、罵詈雑言の嵐になってしまうんじゃないかと。ですが、「胸糞悪いけど好き」という複雑なラブコールが多くて良かったなと思っています。「子どもにはプレイさせたくない」という言われ方もされているので、やはり複雑な心境にはなりますが(笑)

そういった部分の緩和という意味でも、12月実装予定の「名もなき町」では、こんなに平和でゆったりと進められる物語もあるんだ! と思っていただきたいです。最初の3人のボスが倒せず立ち止まってしまった上、立ちはだかるストーリーも重苦しくて辛い。そんな人には特におすすめです。「名もなき町」で手に入る装備で、先に進めることが楽になるような設計も用意しています。


コンシューマー版とのシナリオの齟齬が出ないように練られた綿密な設定

────都市について、モデルにしている実在の都市などはあるのでしょうか?特にヴァローレは「富」シナリオがマフィア映画のような雰囲気だったのでイタリアっぽさを感じました。

鈴木氏:
ヴァローレはマフィアに関連するシナリオの舞台となるため、雰囲気を踏襲したいという意図から、イタリア語に寄せている側面があります。ヴァローレという都市の名前自体もイタリア語で「価値」という意味です。

────そういえば、「富」シナリオでバルジェロ一味が口にしていた「カッティーナ」もイタリア語なのでしょうか。どういった意味なのか気になりました。

鈴木氏:
「カッティーナ」はイタリア語で「鎖」という意味の言葉です。マフィア同士のストーリーを作るなかで、絆を示す合言葉を作りたいという話になり、シナリオライターの普津澤からの提案で決定しました。お互いにマフィアとして、鎖のような絆を確認するために「カッティーナ」を使っています。


────なるほど。ヴァローレはイタリア風でしたが、それ以外の都市にモデルはあるのでしょうか。

鈴木氏:
他の都市に関しては特別どこかに寄せているということはありません。どちらかというとその都市が持つ雰囲気やシナリオ的な背景から、『オクトパストラベラー』の世界観の中で接続がおかしくならないように設定を作っています。ヴァローレ自体も実在の都市をモデルにしているというわけではなく、あくまで参考程度です。

実在の都市という話からは少し逸れますが、権力を極めし者・タイタスは聖火教会に対して強いコンプレックスを感じているので、エンバーグロウではあえて聖火教会のフレイムグレース大聖堂に似た、けれども色が違う赤い大聖堂を建てています。エンバーグロウとフレイムグレースは街の形も似せており、対比になるような設計となっています。

────『大陸の覇者』ではコンシューマー版に出てきていない地名が多く出てきていますが、これらの都市は描かれていないだけで、コンシューマー版にも存在しているのでしょうか。

鈴木氏:
そうですね。オルステラ大陸全体はコンシューマー版で描かれているものがもとになっていて、だいたいヨーロッパ全土くらいの広さをもっている設定です。コンシューマー版では特定の都市にフォーカスしてかなり密に地図を描いているので狭く見えるのですが、あれ以外の場所ももちろん存在します。そういった場所について、『大陸の覇者』ではピックアップして描いています。

────コンシューマー版でもヴァローレやシアトポリスなど、『大陸の覇者』にしか出てこない都市は存在していると。

鈴木氏:
そうですね。これからのシナリオ展開次第では、どうなるかは保証できませんが……。

────そんな……!

一同:
(笑)

鈴木氏:
コンシューマー版にも存在するリプルタイドなどは無事だと思いますが、ヴァローレやシアトポリスはこの後どうなるのか、期待と不安を持って見守っていただければ(笑)

未来への保証がない都市たち


────なんて無慈悲な世界でしょう……。ですが、お話をうかがっていくと、『大陸の覇者』ではオリジナルとの齟齬がでないように厳しくチェックされているように感じます。第二開発事業本部とのやりとりのなかで厳密に確認をしているのでしょうか。

鈴木氏:
第二事業開発本部のチームのチェックも受けつつ、同時にコンシューマ版のシナリオや世界設定を作っていたF.E.A.R.さんに監修をお願いしました。なので、設定的な問題は出ないようにしています。

────なるほど、テキストやシナリオ周りのスタッフは厚いのでしょうか。

鈴木氏:
メインのシナリオライターは普津澤という、コンシューマー版でプリムロゼ・トレサ・アーフェン編のシナリオを書いていた方です。また、チームにも常時ライターは3人いる上、トラベラーストーリーについてはF.E.A.Rさんなど外部のライター陣にも依頼しており、のべ10人以上の方に参画していただいています。

────まさしくテキストが好きな人のためのゲームではありますよね。

鈴木氏:
そうですね、かなり力を入れています。前作のフィールドコマンドテキストを分析し、どこが面白さの核となるかを考えながら、「フィールドコマンドをしてみてよかった」と思えるようなテキスト・情報となるように注意して書いています。

星3トラベラーストーリー、婚活問題の裏側に迫る

────プレイをしていくなかで気になったのですが、星3の女の子のトラベラーストーリーはなぜみんな婚活をしているのでしょうか。

鈴木氏:
まず、星3のキャラクターたちに関しては、ある程度共通性をもたせることでわかりやすさや入りやすさを持たせています。メインストーリーがすごく重いので、差別化していくのが狙いです。星4のトラベラーストーリーが出てくれば、星3キャラクターの後に星4キャラクターのトラベラーストーリーをやる流れができて、そこまで同じテイストのシナリオが連続してしまう事態にはならないはずでした。

ただ、Ver.1.0.0の時点で星4のトラベラーストーリーが配信されていなかったのと、思ったよりユーザーのみなさまがゲームを進めるのが速くて……。その結果、婚活などのライトなシナリオが連続してしまうという状況になってしまいました。そこは設計ミスの部分があります。ただし、これからストーリーの追加によって解消されていく想定ですので、ご安心ください。


木寺氏:
星3のキャラクターに関しては、前作『オクトパストラベラー』の主人公たちをゲスト参戦させる八つ子のクエストのほか、トラベラーストーリーを通したチュートリアルクエストにする予定でした。成人の儀式を行うレッドバリーの村の若者たちと一緒に戦うことで弱点やシンボルエネミーのことを説明したり、女の子たちの婚活を手伝うことでフィールドコマンドについて説明したり、というところからスタートしていたんです。しかし、工数的な関係でチュートリアルのシステムがカットになってしまって。

鈴木氏:
世界観やシステムのチュートリアルの部分も兼ねていたんですが、カットになったことでより淡白さが際立ってしまいましたね。

八つ子のクエストには前作『オクトパストラベラー』の主人公8人がゲスト参戦している。


木寺氏:
イラストに関してもかなりこだわっています。たとえばミロードのイラストを見ていただければわかるのですが、実はトラベラーストーリーのシーンの一部だったり、バトルシーンに関してイラストを切り出したりしたものになっています。トラベラーストーリーをプレイしていただければ、実はこのシーンなのかな、と想像できるようなイラストになっています。

────星5のキャラクターは特に凝っているのを感じます。フィオルの立ち絵を見て「後ろの女の子は誰なんだろう」と思っていたのですが、トラベラーストーリーでそのまま立ち絵のシーンが出てきて……!あれは立ち絵とシーン、どちらが先にあったのでしょうか。

木寺氏:
フィオルはほぼ同時に進めていました。

鈴木氏:
シナリオの展開やセリフなどは先にできていて、「このシーンを描きましょう」ということを決めながら同時進行しましたね。それがイベントの中で再現できるかはイベント制作者の腕にもよるんですが、フィオルはイベントのクオリティも高かったです。

木寺氏:
チームでも好きなキャラクターに熱が入ってしまう方がいて、その人がミカ(フィオルの後ろにいる女性キャラクター)を思い切り動かしちゃったので(笑)

鈴木氏:
アクションゲーム作ろうとしてるのかなと思ったくらい。

木寺氏:
あのシナリオに関しては格闘ゲームさながらにドットが動いていますね。

横山氏:
当初スタッフのみんなで話題になりました。デスクに集まってきて、「なんでこんなに動いてるんだ?」って。

星5剣士フィオルの立ち絵(上)とトラベラーストーリーのワンシーン(下)。


鈴木氏:
『大陸の覇者』チームは個々人が好きに意見を言える、良いチーム体制になっていると思います。トップダウンで上からやれと言われたことをやるのではなく、システムなどの改善提案も 良い案であれば採用しますし、裁量をもってもらって おまかせすることもあります。そんな体制でやっているので、たまにやりすぎちゃうんですよね。どうしても凝っている部分にムラがでてしまうこともあるのですが、それも『大陸の覇者』のテイストだと、温かい気持ちで見ていただけると嬉しいです。

────作っている側が楽しんで作っているのかな、というのはフィールドコマンドのテキストでも伝わってきました。はっちゃけているNPCが多いような……。

木寺氏:
だいたいここ二人(木寺・鈴木)と現場が盛り上がったせいですね(笑)

鈴木氏:
普段は地に足の着いた世界観で真面目に制作している分、NPCごとの個性を出すところで個性的に表現しよう! という建前の元、楽しんで制作しています(笑)

はっちゃけているNPCの例。野菜が好きすぎる。


最後に

────最後に今後の抱負お願いいたします。

横山氏:
一番初めに浅野から『オクトパストラベラー』をより多くの人に届けたいというお話を受けたところからのスタートでしたが、それは今回リリースして終わったわけではなく、ようやく本格的に始まったところです。これからも『オクトパストラベラー』が広がっていくために何ができるか、といったことは考えていきたいなと思っています。

鈴木氏:
開発現場では「とにかく面白いものをお届けする」というスローガンを掲げて制作してきました。ユーザーのみなさまにそれが届いたのか、「面白い」と言っていただける反応を見ることも多く、非常に嬉しく思っています。また、本作のメインストーリーは「驚き」がテーマの一つなので、今後のシナリオ展開にもぜひご期待ください。

木寺氏:
これからもみなさまが楽しんでいただけるようなコンテンツや、好きになってくれるようなキャラクターをどんどん実装していきたいので、今後もお付き合いいただけると嬉しいです。

────ありがとうございました。


[聞き手: Aki Nogishi/Tetsuya Yoshimoto]
[執筆: Aki Nogishi]





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