なぜビデオゲームのグラフィックは発売前から劣化するのか?『The Witcher 3』開発語る

 

全世界で5月19日にリリースされた『The Witcher 3』は、海外の主要メディアから高い評価を獲得し、PCおよび完全次世代機向けRPGとしての存在感を放つことに成功したといえるだろう。一方海外では、本作のグラフィックが過去に公開されたトレイラーからダウングレードされたのではないかという疑惑が、発売数日前から浮上していた。この話題に関し、開発のCD Projekt REDはコメントを拒否する姿勢を貫いていたが、あらためて同スタイジオが海外メディアEurogamerの取材に応じ、ビジュアルが発表時から劣化していることを認めている。

マルチプラットフォームという選択

グラフィックのダウングレードは、おもに海外のゲームフォーラムRedditNeoGAFで話題となったほか、ゲームWebサイトDSOGamingが中心となって報じたものだ。2013年から2014年に公開された映像やイメージ、特にVGX時のトレイラーと、2015年に披露されたゲームプレイトレイラーのビジュアルが大きく異るというもので、確かに一部エフェクトや描写がクオリティの低いものに差し替えられていることが確認できる。下部の映像は、2013年に公開されたVGXトレイラーと、2015年に公開されたゲームプレイトレイラーだ。

 

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CD Projekt RED史上、過去最大の規模で開発された『The Witcher 3』。マルチプラットフォームだけでなく、スピンオフも多数登場するなど、さまざまな展開が続けられている

おおっぴらに言ってしまえば、この手のビジュアルダウングレードの原因として、まずやり玉に挙げられるのが”マルチプラットフォーム”だ。いずれかの機種のスペックに合わせたため、グラフィックがダウングレードし、他の機種版も影響を受けたというのが、一部のユーザーたちの主張である。この手の話は、ファンボーイめいたハード宗教論争へと発展し、問題の本質が見えてこないことも多い。今回の件に関しては、CD Projekt REDはマルチプラットフォームにより1つの機種に注力できず、ビジュアル表現に制限があったことを明らかにしている。

海外メディアEurogamerの記者が、「コンソールバージョンがPC版を制限したのか?」と率直に投げかけたところ、創設メンバーの1人Marcin Iwnski氏は、「コンソールが関与していなければ、現状の『The Witcher 3』は存在しなかっただろう」と返答している。「これに関してはシンプルに説明することができる。単純に予算から見て不可能だった。コンソールのおかげで実現可能なセールスはより大きくなり、より莫大な開発資金が持てるようになり、この非常に巨大なワールドへ全てを投資することができた」。もしPCやPS4、Xbox Oneのいずれか1つに機種を絞れば、グラフィック的にはより素晴らしい作品を開発できたものの、現状のような規模の作品には出来なかったとIwnski氏は説明する。

特にトリプルA級のビデオゲームを開発するにあたり、販売プラットフォームは大きな議題となるだろう。企画の発案者は、どのプラッフォームで販売すればどれだけのパイを確保でき、これだけの売り上げが見込めるのでこれだけの開発資金が欲しいと、投資家や開発会社の上司に説明しなければならない。『The Witcher 3』のようなオープンワールドを持つゲームともなれば、なおさら要求される開発資金は莫大になる。

自然なゲーム開発

Iwinski氏は、ゲームのビジュアルが発表時から調整されることは、通常のゲーム開発プロセスだと説明する。「トレードショウ向けのビルドを構築すると、あなたたちはそれを捉える、動作しているし、見た目も素晴らしい。そしてゲームの完成からはとても程遠い状況なんだ。プラットフォームに関係なく、それをオープンワールドに投じてみると、”なんてこった、全然動作しないぞ”って感じになる。我々はすでにそれを披露しているが、今度は動作するようにしなければならない。それから、巨大なスケールで動作するように挑戦するんだ。これは自然なゲーム開発だよ」。

スタジオヘッドのAdam Badowski氏によれば、過去のVGXのトレイラーはPC版のフッテージが採用されており、プリレンダでは無いという。一方で複雑な技術的理由により、多数の変更が加えられている。その中でも特にレンダリングシステムの変更は「悪い選択だったかもしれない」と、Badowski氏は説明する。当時、開発スタジオ内では2種類のレンダリングシステムが構想されていたが、多数のダイナミックライティングが要求されるものではなく、昼夜サイクルのある世界全体で良い見た目になるものが選択された。ストーリー環境やテクスチャサイズ、偶発的オブジェクトについても同様で、ゲラルトが走る状況ではデータストリーミングシステムが全てを制御できなかったため、イベント時に公開されたものとは異なる独自のハンドメイドデザインが採用された。うねる排煙や炎などのグローバルシステムについても、Badowski氏は「DirectX 12が無ければどんなゲームでも良好に動作しない」と説明している。彼は排煙や炎をカットする代わりに、実際に動作する5000ものドアをゲームの世界Novigradに導入した。

多くの人々が2013年の方がビジュアルがよかったと伝える一方で、コミュニケーションマネージャーのMichal Platkow-Gilewski氏は、実際には2013年から多数の改善(ワールドのサイズやフレームレートなど)が『The Witcher 3』に盛り込まれていると語る。またBadowski氏は、ゲームのパフォーマンスが改善された点を強調した。

開発とプレイヤーの認識のズレ

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いわゆる”スクリーンショット詐欺”や”トレイラー詐欺”ではなく、”そもそもビルドは変化するもの”という認識が開発側にはある

「もしかしたら我々はトレイラーを披露すべきではなかったのかもしれない、わからないが、こういう風になるとは思っていなかったんだ、嘘や悪い考えというわけでは無いんだよ。これがなぜ私たちが頻繁にコメントしなかったのかの理由だ」と、Marcin氏は説明した。もし2013年時のトレイラーで購入を決断した人が居るようであれば、深く謝罪するとし、今後もこの”フェアでは無い状況”をどう改善できるか議論していくと続けている。Iwinski氏も、今回の件でグラフィックのダウングレードを隠蔽するような意図は全く無く、問題になるとは思っていなかったと解説する。

確かにゲーム開発の視点から見れば、最初のコンセプトや早期ビルドが、そのまま実際の製品版となることは、まず不可能だ。今回のEurogamerの取材にて挙がったマルチプラットフォームによる制限はもちろん、開発スケジュールや資金などの外的要因により、当初の予定通りにはいかないのが当たり前である。とはいえその一方で、プレイヤーが”ゲームプレイ映像”を見れば、それがプレイできるものだと思うのも当たり前だろう。コンセプト映像、早期ビルド映像、開発中のフッテージなどさまざまな表現があるが、それらが示す本当の意味を理解しているプレイヤーはそれほど多くない。

全てが同じ原因や経緯では無いが、裁判にまで発展した『Alien: Colonial Marines』などを筆頭に、Ubisoftがコメントを出した『Watch Dogs』や、『DARK SOULS II』など、グラフィックのダウングレードが注目を浴びる事件が続いている。開発側は公開されるトレイラーがプレイヤーに与える影響を認識し、またプレイヤー側も開発側の事情やゲーム開発そのものの流れを理解する必要があるだろう。

CD Projekt REDによれば、600もの修正点を盛り込んだ巨大パッチが現在開発中であり、その中にはグラフィックやグラフィック設定の改善も含まれている。1週間以内にも、パッチノートを含め詳細が明らかにされるとのことだ。またCD Projekt REDは、PC版においてiniファイルを編集できるようにするパッチも配信する予定だという。プレイヤーは自身でiniファイルを編集し、グラフィック設定をより高めることができる。ini編集が可能になるパッチは、ほかのパッチが配信された後にリリースされる予定となっている。同スタジオは、今回の件が問題になるとは思っていなかっとの認識を示した一方で、ユーザーの声を無視するようなことはせず、真摯に対応しようと努めている。