『ポケモン』ダイパリメイク最新パッチでの「メニューバグ」再現方法は、一人の人間がスピードランコミュニティから“騙し取ったもの”だったとの告発

 

『ポケモン』系のコンテンツのYouTuberであるBlaines氏は2022年1月12日、1本の動画を投稿した。動画の内容は、『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』(以下、ポケモンBDSP)の最新バージョン1.13で、メニューバグと呼ばれるグリッチを発生させる方法を解説したものだ。最新パッチでのポケモンの増殖などが可能となるこの発表は大きな反響を呼び、該当動画には感謝のコメントが並んでいる。しかし『ポケモン』シリーズのスピードランでよく知られるWerster氏によると、これらの情報はスピードランコミュニティから「騙し取られた」ものであるというのだ。


スピードラン走者にとってゲームのアップデートや修正パッチは、時に乱数以上の強敵だ。タイム短縮に活用できるバグが修正されてしまうと、走者たちはチャートの大幅な変更を強いられる。あまりにも影響が大きい時は、旧バージョンと新バージョンでカテゴリが分けられたりもする。そして自動アップデートが当たり前となった現代において、スピードラン用に旧バージョンのままゲームを維持することはそれだけで一苦労だったりもするのだ。

『ポケモンBDSP』においてもこれは例外ではなく、スピードランコミュニティは修正パッチに大きく振り回されてきた。そもそもバグが多いことで知られる本作ではあるが、記事冒頭でも触れた「メニューバグ」(Menu Storage)は初期段階からタイム短縮に大きく寄与しているバグであった(関連記事)。しかしあまりにも汎用性が高く、ポケモンの増殖なども容易にしてしまうこのバグは開発者たちにとっても看過できるものではなかったようで、バージョン1.1.2にて修正されたのである(関連記事)。


多くの走者は修正前のバージョン1.1.1に留まりタイム更新を狙い続ける道を選んだが、現行パッチでの抜け道を探し続けるプレイヤーたちもいた。彼らグリッチハンターたちは「そらをとぶ」を利用して1.1.2でもメニューバグを再現する方法を発見したが、1.1.3にてその抜け道も修正されてしまう(関連記事)。グリッチハンターとアップデートのいたちごっこである。

そして1.1.3以降、致命的なバグの報告は長らくされておらず、メニューバグについての情報も鳴りを潜めていた。開発者たちがついに大きなバグの芽を潰したかと思われていたが、グリッチハンターたちは諦めていなかった。彼らはしばらく前から、1.1.3でもメニューバグを再現する方法を発見していたのだ。しかし、1.1.3における再現方法はグリッチハンターたち、そしてスピードランナーたちのコミュニティの中で秘匿されていた。大きく広まれば再び修正されてしまう可能性が高いからだ。

ここで話は冒頭の部分につながる。この1.1.3におけるメニューバグの再現方法が1月12日、YouTuberのBlaines氏によって動画化される。しかしこの情報は「騙し取られた」ものであると、初期から本作のスピードランに関わってきたWerster氏がTwitterにて怒りを示しているのだ。


Werster氏によると、事の発端はスピードランコミュニティに、とあるユーザーからメニューバグの再現方法を尋ねるDMが送られてきたことだという。スピードランコミュニティは、基本的に新しい走者は手厚くサポートする傾向がある。「バグの存在が広まらないようにしていることは理解している」と語るそのDMの送信者に、コミュニティは快く情報を共有したという。

しかしそのDM送信者はバグの再現方法をそのままBlaines氏にも共有し、動画化に至ったというわけだ。そしてこの動画が大きく広まることとなる。Blaines氏の動画の冒頭では、情報を持ち込んだKizu Darake氏なる人物への感謝を述べている。そしてWerster氏によると、このKizu Darakeなる人物こそがまさにDMでバグ情報の共有を求めてきた人物だというのだ。


Werster氏は「修正されないためにバグの情報を秘匿しておくこと自体の是非についてはいろんな意見があるだろう」と語る。「しかし今回何よりも許せないのは、コミュニティの善意が完全に蔑ろにされたこと、そして情報を騙し取った人物が動画やコメント欄で感謝され、本当のバグの発見者たちも努力も蔑ろにされていることだ」と憤慨している。

なおBlaines氏も本件についてはコメントしており、「状況は理解したが、どちらにせよ
このバグが『Pokémon HOME』との連携が始まる前には修正されることは間違いない。隠したところであまり意味はないだろう」と述べている。


実際のところ、ポケモンの増殖も簡単に可能としてしまうメニューバグを、開発側が放置するとは考えづらく、今までの展開を見ても修正されるのは確実だろう。修正されるのは時間の問題であるとの見解は合理的。一方で、少なくとも信頼を裏切られたとするWerster氏の怒りもまた正当なものではあるだろう。いずれにせよ、『ポケモンBDSP』開発陣とグリッチハンターの戦いは、もう少し続きそうである。




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