ゲーム会社の「アイデアの押し売り」への防衛策が注目集める。一方的に送りつけられたゲームのアイデアが行き着く先とは

 

ゲーマーであれば、好みのゲームやゲームメーカーに対して、特定の要素の追加や、特定のジャンルのゲーム開発などを願うことは多々あるだろう。SNSやフォーラムでも盛り上がることのあるトピックであり、メーカー側もそうした要望には目を配っているものである。

また、何らかのゲームアイデアを考えついた場合は、メーカーに直接伝えて、あわよくば開発してもらいたいとも考えるかもしれない。ただメーカー側は、そうしたアイデア投稿は多くの場合歓迎していないようだ。元セガの下田紀之氏のツイートが注目を集めている。


下田氏は、セガにて『ボーダーブレイク』や『アフターバーナー クライマックス』『ゴースト・スカッド』などにプロデューサーとして携わった人物だ。現在は同社を退社し教員をしているという。同氏は1月11日、ゲーム会社は「アイデアの押し売り」から防衛するために、策を講じていることをツイート。例として、送られたアイデア類の権利は、すべてそのゲーム会社のものになることを明記している場合を挙げた。

この条項は一見すると、メーカーがファンのアイデアを奪おうと考えているようにも見えるかもしれない。しかし真意としては別にあり、アイデアを送付した人から“権利主張”されないように、そのように記述することがあるのだという。一般のユーザーから「アイデアを盗用された」と主張されることがないように対策しているわけだ。なお下田氏に確認したところ、これは前職のセガの話ではなく、一般論としての話とのこと。

そのファンによる権利主張については、バンダイナムコにて『鉄拳』シリーズなどを手がけている原田勝弘氏が、過去に実例を語っていた。あるゲームの一部にたまたまわずかな共通点があったというだけで、「自分のアイデアだ」と主張してくる人がいたという。そうした人は、何らかのかたちでアイデアのスケッチやイラストをメーカーに“一方的”に送りつけており、実際には開発陣は目を通していなかったとしても、自分のアイデアが勝手に使われたとして権利を主張してくるのだという。


さらに、今から20年以上前にとあるゲームについてアイデア募集をおこなった際には、採用者と権利関係の同意書を交わしたにもかかわらず、その採用者の親が利益の分配を求めてきて揉めてしまったそうだ。

そうした経験から原田氏としては、アイデアの募集はPRキャンペーンの一環でない限りおこなわないと語っている。またリスクが高すぎるため、具体的でより鮮明なアイデアが送りつけられてきて、もし開発陣がそれを見てしまった場合には、あえてそのアイデアを避けて開発することまで考えるそうだ。


話は戻ってメーカーによる防衛策であるが、ゲーム会社の一般向けの問い合わせ窓口において、さまざまな対策を講じている。たとえばバンダイナムコエンターテインメントでは、「お客様から送られてくる企画等は一切受け付けておりません。万が一、お客様から企画書等が寄せられた場合、廃棄または削除させていただきます」と記載している。

『ポケモン』シリーズの開発元ゲームフリークも、「アイデア(企画書、デザイン、シナリオ等)の送付は固くお断りさせていただきます」としている。ファンレターなどであっても、ゲーム設計に直接携わらない従業員が開封確認し、もしアイデアを含む内容であった場合には、「ほかの従業員の目に触れることのないよう処分もしくは返送」する対応をおこなっているとのこと。EAも同様に「すべて返却または削除する」としている。同社には、毎年何千件もの提案が送られてくるという。

下田氏の古巣セガはというと、商品アイデアや企画提案が送られてきた場合、「ご提案を評価、検討、採用したり秘密にする等の義務を負わず、また、当社およびセガサミーグループ各社の商品やサービス等がご提案と同一または類似した場合であっても、お送りいただいた方に対して金銭の支払いを含めたいかなる責任も負わないものとさせていただきます」としている。返送や廃棄には言及せず、上記条件に同意したうえで送付することを求めている。

https://twitter.com/suzuhara64/status/1481185425767104513

このように、ファンからのアイデアの提案には、そもそも開発者が目を通さないように、各社徹底した対応をとっていることがうかがえる。また、あえてそうした対応を明記し周知していることも、リスク回避のための策のひとつだといえそうだ。セガはやや異なる記述となっているが、避けたいリスクは同じと考えられる。最初に下田氏が挙げた例に近い内容ともいえるかもしれない。

一般的に、ゲームのアイデアそのものは著作権法で保護されないものとされており、保護したい場合には特許を取得する必要がある。ただ下田氏によると、アイデアを“押し売り”する側はそうした法律を意に介せずに権利主張してくるため、安全策として幅広く防衛するのが無難なのだそうだ。また、ゲーム業界に携わるアメリカの弁護士Zachary Strebeck氏によると、もしアイデアの送付者とやりとりをした場合には、書面がなくとも契約関係が生じると裁判所に判断される可能性があるとのこと。そうしたリスクもあり、国内外各社は上述したような対応をとっているのだろう。

つまり、どれだけ素晴らしいゲームのアイデアを思いついたとしても、それをメーカーに一方的に送りつけることは、実現への道にはならないということである。前出の原田氏は、どこかで実現、もしくは(同氏と)一緒に実現する道を探してほしいと呼びかけている。




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