『テイルズ オブ』シリーズのプロデューサーが「ゼスティリアは危機」との言及を謝罪。作品を否定する意図はなかった

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バンダイナムコエンターテインメントの富澤祐介氏は12月8日、過去におこなった発言について、自身のTwitterアカウント上で謝罪した。その背景には、「CEDEC+KYUSHU 2021 ONLINE」での『テイルズ オブ ゼスティリア』についての発言があるようだ。

シリーズを統括する富澤氏

富澤祐介氏は、『テイルズ オブ』シリーズを統括するプロデューサーだ。同氏は2003年にバンダイに入社したのち、2007年にバンダイナムコエンターテインメントへと転籍。以降は『涼宮ハルヒの約束』などの版権作品をプロデュース。その後は『ゴッドイーター』シリーズについては総合プロデューサーを務めるなどし、2016年より『テイルズ オブ』シリーズの総合プロデューサーも担当している。今年9月に発売されたシリーズ最新作である『テイルズ オブ アライズ』でもプロデューサーを担当。同作は、発売初週で出荷本数100万本を突破し、シリーズ最速の売上を記録するなど、大きな成功を収めている。


富澤氏はかねてから、『テイルズ オブ』シリーズの売上については危機感を示しており、シリーズとしての間口を広げたり海外展開を視野にいれたりなど、さまざま手を打っていた。クオリティを上げるために延期なども決断したのち、『テイルズ オブ アライズ』を発売。同作は、評価も売上も上々。シリーズを新たなレベルへと押し上げた立役者の一人である。

「CEDEC+KYUSHU 2021 ONLINE」では、モデレーターとしてサイバーコネクトツーの松山洋氏を迎え、て“『テイルズ オブ アライズ』で挑戦する長寿シリーズの継承と進化”と題された基調講演にて、その挑戦の裏側が語られていた。しかしながら、その中のシリーズの歴史の『テイルズ オブ ゼスティリア』に関する扱いに賛否があったようである。

『テイルズ オブ ゼスティリア』は、ブランドの危機だったとの言及

『テイルズ オブ ゼスティリア』は、2015年1月に発売された作品。プロデューサーを務めるのは、富澤氏ではなく前任の馬場英雄氏である。同作では、主にヒロインをはじめ発売前に宣伝されていた情報と実際のゲーム内容に齟齬が発生しており、それに関するゲーム内キャラの扱いをめぐって大きな批判を集めた。発売後馬場氏は、驚きを提供するべく情報公開を控えていたことを認め、意図しない誤解を招いてしまったと語っていた(ファミ通)。しかしながら、賛否両論キャラの声優も標的になるほどの騒動に発展し、結果的に人気シリーズに傷跡を残すかたちとなった。


富澤氏はそうした経緯を踏まえ、今回の講演では『テイルズ オブ ゼスティリア』を「ブランドの危機」の始まりに位置づけた(ファミ通)。そして、続編となる『テイルズ オブ ベルセリア』はゲームの評価は高かったものの、前作の影響や前作と世界観が共通していることにより、続編の売り上げに苦慮したことを明かしていた。その原因として、ユーザーとのコミュニケーションの不足をあげるなどし反省。意図としては、まず課題を認めて、その課題を認識し取り組むために何をしたのか、開示したかったのだろう。

しかし、「富澤氏は『テイルズ オブ ゼスティリア』というタイトル自体を“失敗の始まり”と捉えている」というニュアンスで受け取ったユーザーもいたようだ。同基調講演を取り上げたファミ通の記事については、富澤氏の意見に賛同するユーザーが数多いが、引用RTにて同氏のスタンスに疑問を呈しているユーザーの姿も確認できる。少なくとも、自分の愛した過去作を失敗認定したとも受け取れるような発言が、気になるユーザーがいるのは理解できるだろう。

これを受けて富澤氏は、自身のTwitterアカウント上で、基調講演の『テイルズ オブ ゼスティリア』への言及について謝罪した。まずは、一連の言及は、作品の否定として捉えられかねなかったとしてお詫び。講演内の「ブランドの危機」については、タイトルやファンの責任ではなくプロデュース側の責任であると強調した。またそうした覚悟をもって新作制作に取り組んだことも説明している。どのタイトルが上であるか下であるかといったことを表現する意図はなく、もしそう捉えられたならば自身の責任であると反省。各作品のシリーズファンの支えが大切な礎であるとし、改めてファンの大事さを説いたのである。



続けられる対話

富澤氏は、かねてからファンとの対話や、透明性のある発信を重視している。『テイルズ オブ アライズ』発売前も、新規購入層に関する具体的な数字をあげ、危機感をもって新作を開発・発売していくと語っていた(関連記事)。この発言は、開発および販売チームの決意の固さや、課題認識が印象付けられる一方で、「今までのやり方には問題がある」と語っているにも等しい。『テイルズ オブ』シリーズが不調であるとも解釈できる。現存のフランチャイズの運用法や過去作を気に入っているユーザーから反発が生まれるのは想像に難くない。実際のところ、前述の新規購入層への課題を語った富澤氏は少なくない数の批判を受けていた。『テイルズ オブ ゼスティリア』の言及についても、やや似たケースである。

一方で、富澤氏はそうした発言に責任をもち説明をし続けている。今回の件も、講演記事公開後にすぐさま謝罪したのは、批判が殺到したというよりは、ユーザーとのコミュニケーションを重視する富澤氏なりの誠意であると伺える。発言の意図を自分の言葉で説明し、問題点について謝罪。少なくとも説明責任は果たされているように映る。またモバイルゲーム『テイルズ オブ クレストリア』のサービス終了にもふれており、ファンの心理に寄り添っている

富澤氏の手法が正しいかどうかはわからない。従来ファンにとっては過去作の否定と捉え得る対応には抵抗があるだろう。しかし富澤氏は己のやり方を貫いた結果『テイルズ オブ アライズ』を成功に導いた側面もある。少なくとも前任の馬場氏に投げかけられたコミュニケーションの問題は改善されつつある。


質の高い作品をプロデュースしながら、誠実な発信をするというミッションを担う富澤氏。同氏が背負うものは多く重い。その旅路は険しく見えるが、少なくとも同氏の今後の仕事に、多大な期待が寄せられているのは確かである。




※ The English version of this article is available here

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