『ペルソナ 5』と『真・女神転生V』を比べた海外レビューが反発集める。古参と新規層向けの狭間で揺れ、ネタバレ事案も発生


発売を間近に控える国産RPG最新作について、海外メディアのレビューが波紋を呼んでいるようだ。11月11日、アトラスよりリリースされる『真・女神転生V』。ナンバリング作品としては、2016年に発売された『真・女神転生IV FINAL』以来5年ぶりとなる新作である。主人公は、ある日トンネルの崩落事故に巻き込まれ、砂漠と化した東京にて目を覚ます。その場所はダアトと呼ばれ、神話世界に存在する神や悪魔たちが、お互いの存続をかけて争いを繰り広げていた。そして主人公は、突如目の前に現れた謎の男によって、禁忌の存在ナホビノへと変貌。彼はナホビノの力を使い、神と悪魔たちの戦いに身を投じることとなる。 

本作については、11月5日よりメディアによるレビューが解禁されている。発売日に先行して『真・女神転生V』をプレイする機会を得たメディアが、その作品内容を批評する記事を一斉に公開しているのだ。おもに海外で歴々たるメディアのレビューが公開されるなか、ある大手による記事が議論を呼んでいる。海外ゲームメディアIGNによる『真・女神転生V』のレビューが、一部ユーザーから反感を買っているのだ。その原因は、記事に『ペルソナ 5』が登場したためだとされている。具体的にどのようなレビューだったのか。そして、ユーザーによる批判は妥当なものなのか。順を追って見てみよう。 
 


 
『真V』は“ハートのない『ペルソナ』”? 

まず、海外IGNが『真・女神転生V』に下したスコアは10点満点中8点。決して低い評価が下されたわけではない。実際、レビュアーは本作の数々の要素について賛辞を送っている。たとえばレビュアーは、悪魔合体や写せ身などを用いたパーティのカスタマイズ性を高く評価。試行錯誤を通して徐々に合体システムに習熟していく楽しさを伝えている。また、難易度の高い戦闘などについても好印象。かなりの長さがあるプレイ時間を通じても、退屈したり燃え尽きたりすることがなかったとしている。 

とはいえ、手放しで褒めているわけでもない。たとえばレベル上げなどにともなう繰り返しのバトルのマンネリ化対策や、ダンジョンにおけるギミックのバリエーションについてはもう一声といった評価。またストーリーやキャラクターの掘り下げについても物足りないとしている。全体の評価としては、完璧ではないにしても十分に楽しめるハイクオリティな作品として、8点という評価を下したのだろう。海外IGNのレビューは一部要素については辛口な意見も伝えつつ、目立って偏った評価をつけているとはいえない。 

では、何が一部ユーザーの反感を買ったのか。それは、レビューにおける表現の問題だ。該当記事を告知する海外IGNの公式ツイートには、「『真・女神転生V』の素晴らしいJRPG的な戦闘や、奥深くやりがいのあるカスタマイズ要素は光り輝いている。たとえそれが時折、ハートのない『ペルソナ』のように感じられたとしても」とある。つまり、『真・女神転生V』の要素を褒めつつ、『ペルソナ』シリーズと比較すると核心に近い部分で欠けた点がある、という言いぶりである。実際レビュー本文の冒頭には、「『真・女神転生V』は弟分の『ペルソナ 5』よりもエッジーで、取っつきにくく感じられる」といった記述が存在。そしてレビューは、「『ペルソナ』の様式におけるハートというべきものが数多く欠けてはいるものの、『真・女神転生V』はほかの多くの点で成功している」と続く。 
 

 
以降、本文中ではたびたび、『ペルソナ 5』(および『ペルソナ』シリーズ)と『真・女神転生V』を比較する文面が登場する。たとえば、『真・女神転生V』において、同じエリアで何度も同じ敵と戦闘する際のマンネリ化に言及するくだり。ここでレビュアーは、「『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』における「SHOWTIME」や「凶魔」といった要素を思い起こさせる。アトラスが過去、マンネリ化にうまく対処していた一例である」と表現している。また、本作における音楽に言及する際も、「ムーディな音楽は非常に素晴らしい。『ペルソナ』の象徴的なボーカル曲ほど感情的で記憶に残るものではないとはいえ」とコメント。 

【以下の項目のみ、ややゲームのストーリーに言及しているので注意】

そして最大の比較点として、ストーリーとキャラクター性の不足点に言及。ストーリー全体の構造については高く評価しつつ、主人公のパーソナリティについての掘り下げが足りないと指摘。また仲間キャラクターについても描写が不足しており、感情移入しにくいとしている。これらの欠点を総括して、「ハートのない『ペルソナ』」、つまり人間味やドラマを欠いているように感じられるとレビュアーは表現しているのだ。『真・女神転生V』における短所の多くを、『ペルソナ』シリーズと比較する視座から論じているのである。 

このレビューに対しては、多くのユーザーから反発が寄せられた。海外IGNの公式Twitterには、ユーザーから怒りのコメントが殺到。「『真・女神転生V』をレビューするくらいなら『ペルソナ 5』を遊んでいればいい」「まったく異なるJRPGを別のJRPGと比較している」など、『真・女神転生V』と『ペルソナ』シリーズを同軸で比較するレビューに対する反感が集まっている。なかには「『ペルソナ 5』の方が人気があるのはわかる」と一定の理解を示しつつ、「だからって『真・女神転生V』と比べなくてもいいのではないか」と疑問を呈するユーザーも見られた。 
 

 
『真V』『ペルソナ』比較レビューは的外れなのか 

『ペルソナ 5』との比較という切り口で『真・女神転生V』を批評し、多くの反発を買った海外IGNのレビュー。では、同記事は本当に不公平な内容だったのだろうか。この問題について、別のメディアが見解を示している。海外メディアKotakuはファンの動向について、スピンオフである『ペルソナ』シリーズと比較するかたちで本家『真・女神転生』最新作が批評されていることに不満を抱いているようだと分析。そのうえでKotakuは、単純に『ペルソナ』シリーズは知名度の点から比較対象として使いやすいだけであり、比べたからといって『真・女神転生』に対する酷評にはならないと指摘。またユーザーから飛んだ「『真・女神転生』シリーズへの知見がない評者がレビューを書くべきではない」との批判にも反論しており、JRPG新規参入者もシリーズ古参ファンと同様にレビューを読む資格があるはずだとしている。 

アトラスの発表によると『ペルソナ』シリーズの売上としては、『ペルソナ5』の売上が320万本(2019年12月時点)、『ペルソナ5』に追加要素を収録した『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』が180万本(2021年6月時点)、『ペルソナ5』の後日談『ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ』が130万本(2021年4月時点)。シリーズ全体としても、1500万本のセールスが報告されていた。一方、『真・女神転生』シリーズの売上についての情報は限られている。2015年の発表によれば、『真・女神転生IV』は全世界で60万本の売れゆきだったという。ゲームの優劣ではなく、単純に海外では『ペルソナ』よりも『真・女神転生』の認知度が低いという事実はありそうだ。 
 

『ペルソナ 5』

 
Kotakuが指摘しているとおり、そもそも英語圏においては『ペルソナ 5』からJRPGジャンルに触れたというユーザーも少なくない。そうした広い層に向けて、新規のJRPGを紹介する際、『ペルソナ 5』と比較しながら論じるというアプローチは、合理的といえる。『ペルソナ』ファンが『真・女神転生V』に初めて触れる際、どのような共通点を期待し、どのような相違点を念頭に置いておくべきか知っておくのには、ある程度価値があるといえるかもしれない。 

海外IGNのレビューを担当したLeana Hafer氏は、Kotakuにコメントを寄せている。いわく、同氏は『ペルソナ』シリーズは数多くプレイした経験があったものの、『真・女神転生』については初めてであった模様。したがって、自身の視点は同様のプレイ経歴をもつ人と似たものになるだろうとコメント。一方、『真・女神転生』シリーズのファンで『ペルソナ』が好きではない、というユーザーにとっては、嗜好が違うため海外IGNのレビューは有用たりえないだろうとしている。あくまで古参『真・女神転生』ファンに向けてではなく、『ペルソナ』シリーズからJRPGに親しむようになった新規層に向けたレビューを執筆したために、今回のような結果になったといえそうだ。 

なお現時点での『真・女神転生V』海外メディア評価は、高いといえる。レビュー集積サイトMetacriticにおけるメタスコアは87点と、堅実な評価を獲得。海外メディアGamespotは、ストーリーになかなか進捗が見られないスローペースさを挙げつつも、難易度が高く戦略性が高い戦闘を評価した。また同じく海外メディアのSilliconeraは、『ペルソナ 3』が『ペルソナ』シリーズ人気のきっかけとなったように、『真・女神転生V』も本家『真・女神転生』シリーズを盛り上げるだろうと太鼓判を押している。そして海外IGNのレビューも本作に高評価を下したメディアのひとつだ。今回の騒動は、ある意味では『真・女神転生V』の注目度を高める一つの出来事となったかもしれない。 
 

 
ぬぐい切れない懸念もあり 

ただし、海外IGNの記事にはもう一点問題点が指摘されている。それは「ネタバレ」についてだ。実は海外IGNの『真・女神転生V』レビューでは、本編についてかなり終盤の要素にまで言及している。具体的には「ダンジョン数、最終ダンジョンのギミック、エンディング数」などが明確に記載されているのだ。ストーリーの核心には触れていないものの、周辺のシステム面については明かされているわけである。なお、ほかの海外メディアレビューのネタバレ具合はある程度常識の範囲内に収まっているとのこと。こちらの比較については、アトラス作品に明るい国内ユーザーするめ(以下)マン氏の記事が詳しい。 
 

 
アトラスがメディア向けのレギュレーションとして、どこまでの情報を公開可能として規定したかは明らかになっていない。とはいえ人によっては、ゲーム全体のボリューム感や最終ダンジョン、エンディングにまつわる情報を発売前に知ることは避けたいこともあるだろう。記事内に、ネタバレに対する警告文がない点も引っかかる。こうしたネタバレ配慮の不足も、海外IGNレビューの評価を下げる一因となっているようだ。ネタバレを避けたいユーザーは極力、メディアの閲覧に注意が必要だろう。 

数々のメディアがレビューを寄せた『真・女神転生V』。その評価が妥当であるかは、実際にプレイすることで明らかになるだろう。『真・女神転生V』は11月11日、Nintendo Switch向けに発売予定。価格は通常版がパッケージ版/DL版とも税込9878円で、初回限定版が1万6280円だ。