SIEがPS4などでクロスプレイを実装するメーカーに“お金を払わせる”仕組みを導入していた。一定条件下にて


Epic GamesがiOS版『フォートナイト』に独自決済機能を導入し、これを理由にApp Storeから削除されたことをきっかけに、同社は独占禁止法違反としてAppleを提訴した。本日5月4日には米国での裁判の審理が開始し、これに伴い提出された関連資料が公開。その中に、クロスプレイに関するソニー・インタラクティブエンタテインメントのポリシーが記されていると注目されているようだ。海外メディアThe Vergeなどが報じている。


資料のひとつは、Epic Gamesの事業開発担当バイスプレジデントJoe Kreiner氏が、2018年にSIEに送ったメールだ。Epic Gamesの『フォートナイト』は、今でこそすべてのプラットフォームの間でクロスプレイが可能だが、当時はPS4版のみコンソール間でのクロスプレイに対応していなかった(PC/モバイルには対応)。他タイトルでも同様で、一部のファンからはSIEに対する批判の声が寄せられる状況にあった。

公開されたメールでは、Epic GamesはSIEとはWin-Winの関係でいたいとし、『フォートナイト』のコンソール間クロスプレイをSIEに認めてもらうための提案をおこなっている。内容としては、マーケティングデータなどSIEが求める情報の提供、SIEのeスポーツAPIのUnreal Engine 4へのエンジンレベルでの実装、E3出展時のPlayStationブランドの露出、PS Plus会員向けの特別なアイテムの提供、ソニー全社のUE4ライセンスの期限延長など。クロスプレイ対応を共同で発表し、SIEを“ヒーロー”のように見せることも提案している。

しかし、SIEの開発者担当シニアディレクター(当時)のGio Corsi氏は、このEpic Gamesの提案を拒否したという。タイトルの大小にかかわらず、クロスプレイは成功に直結するものではないとはねつけた。当時多くのメーカーがクロスプレイを模索していたが、PlayStationのビジネスにどのように寄与するのか説明できたものはいなかったそうだ。確かに上述の提案も、クロスプレイそのものからSIEが得られる利益は示せていない。


ただ、SIEは2018年9月になって方針を転換。『フォートナイト』を対象に、PS4版とほかの全プラットフォーム間のクロスプレイのオープンベータテストを開始した。その後対象タイトルを拡大し、現在の全面解禁へと至っている。Epic Gamesをはじめとしたメーカーやゲーマーからの要求を受け入れたといえるだろう。もっとも、SIEは無条件で受け入れた訳ではなかったようだ。今回の裁判では、これに関する資料も提出されている。

資料は「クロスプラットフォームにおける収益分配」と題されており、SIEのクロスプレイにおけるポリシーを定めたものだ。それによると、特定のタイトルについてPSNでの収益割合を、PS4版のゲームプレイ割合で割った際に0.85を下回った月は、同作のメーカーはSIEの収益減少分を相殺するためにロイヤリティを支払うと規定している。

すなわち、あるプレイヤーがPS4版をメインでプレイしながら、少額課金は別のプラットフォームで多くおこなっていた場合、一定の割合を超えると、その作品のメーカーがSIEにお金を支払うということ。金額の算出方法は、全プラットフォームでの収益とPS4版のゲームプレイ割合をかけて、さらにPSNでの収益を引いた数値の15%であるとしている。今回の裁判に証人として出廷したEpic GamesのCEO Tim Sweeney氏は、クロスプレイにこうしたポリシーを設けているのはSIEだけであると証言している。


SIEがコンソール間クロスプレイに難色を示していた当時、SIEワールドワイド・スタジオのチェアマン(当時)Shawn Layden氏は、クロスプレイ対応を求めるコミュニティの意見には耳を傾けているとする一方で、SIEのビジネスに反することのない解決策を見出す必要があるとコメント(関連記事)。また先述のオープンベータテストの実施時にも、SIE社長兼CEO(当時)の小寺剛氏は、(プレイヤー体験や技術面だけでなく)ビジネス面からも徹底的に分析を実施すると述べていた。そうした分析を経て、今回明らかになったポリシーが設定されたのだろう。

自らのプラットフォームにいるプレイヤーをサポートしているにもかかわらず、そのプレイヤーからライバルのプラットフォームに収益が流れていくことは、企業としては避けたいところ。SIEのポリシーは業界内では珍しい存在だそうで、見方によっては抜け目なく映るかもしれないが、ビジネス面からすると自然な発想ともいえる。もっとも、実際に規定割合を超えてSIEにロイヤリティを支払うケースがどれだけあるのかは不明。クロスプレイ対応作品が増え続けている現状からすると、同ポリシーは、メーカーにはそれほど大きな負担にはなっていない可能性はありそうだ。