『スプラトゥーン3』の求人募集が、待遇面で海外にて注目集める。妥当か否か、コンテクスト次第で意見が変わる給与条件


任天堂は2月18日、『スプラトゥーン3』のレベルデザイナーの募集要項を公開した。任天堂は近年、プロジェクト単位で携わる契約社員を募集しており、特にレベルデザイナーの採用には積極的に動いている。今回募集しているのは、『スプラトゥーン3』のバランス調整役である。具体的には、既存ステージの改修・各ルールの配置オブジェクト調整・ブキのパラメータ調整・対戦バランスのチェックなどを適性に応じて担当することになる。正社員登用ではなくプロジェクト契約であるものの、ゲーム制作の経験は問われておらず、さまざまな人が応募できる興味深い求人であるだろう。


この求人はあくまで国内向けのもの。だがビッグタイトルの求人告知ということで海外でも注目を集めている。特に話題となっているのが待遇面について。任天堂といえば正社員の待遇については極めて高い会社として有名であるが、今回の募集はプロジェクト単位の契約社員ということで、条件はかなり違う。フォーラムResetEraにて「スプラトゥーン3のレベルデザイナー募集中、未経験者の給与は年収380万+手当」というスレッドが立てられており、待遇について議論されているわけだ。ではどのような意見が寄せられているのか。スレッドの1~2ページ目の声を具体的に見ていこう。
【UPDATE 2021/2/22 18:40】
任天堂の正社員待遇について補足

給与が低いよ派


目立って多いのが、給与が低いのではないかという声。低い派の意見として主に見られるのは、アメリカ人から見れば低いというもの。アメリカ合衆国労働省労働統計局によると、2019年時点での、アメリカの平均年収は5万3490ドル(約566万円)であるとのこと。さらにアメリカを拠点としたゲーム産業の業界団体ESAの2020年の報告(2019年のデータに基づく)によれば、ゲーム業界内で直接雇用されている労働者の給与(+各種手当の価値も含む)は1人当たり年間平均12万1000ドル(約1260万円)以上となっているという(GamesIndustry.biz)。それらと比べれば、380万円というのは格安だと言っているのだろう。アリゾナ州の小学校教員や、肉屋を名乗る人物が「自分たちはそれよりもらっている」といった投稿をしている。大手企業の人気タイトルに携わる専門職スタッフにしては、低いという意見なのかもしれない。

給与妥当だよ派

一方で、380万円は妥当だという意見も寄せられている。こちらの意見は、より求人情報の背景を汲み取ったものである。たとえば、アメリカと日本の生活費が大きく異なることや、地方である京都勤務ということを考慮した意見。国および地域によって、生活費や物価が異なることから、アメリカ基準で判断すべきではないという考えだ。さらに福利厚生にもふれられており、引っ越し代や住宅手当が出ていることを加味すると、悪い待遇ではないとの声も見かける。ポルトガル人からすると、380万円でもかなりいい待遇だという投稿もなされている。

京都市南区上鳥羽鉾立町にある任天堂本社 Image Credit : Wikipedia


議論をややこしくしているのは、「380万円」という言葉が独り歩きしている点だ。任天堂が提示した給与条件は、“経験と能力を考慮のうえ、当社規定によって決定いたします。(年収幅: 約380万円~810万円)”。というもの。モデルケースとしては、業務経験5年ならば470万円で、10年ならば550万円。15年なら680万円といった次第。その中でも最低額である380万円ばかりが注目されている。さらに前述したように国の条件や地域事情などが加味されず、アメリカ基準で判断した結果380万円が低いとみなされているわけだ。

給与に正解はない

年収に関する意見は、個々によって異なるだろう。正解はない。日本の京都勤務であるという点だけでなく、レベルデザイナーという職種やプロジェクト契約という形態、業務歴など、さまざまな要因が絡まり、約380万円~810万円の中で待遇が決定される。そもそもこの待遇が妥当であるかどうかを決める判断材料も少なく曖昧だ。各々によって意見が異なるのも自然なことだろう。ResetEraの当該スレッドでは、最初は待遇の低さを指摘する声が目立っていたが、のちに日本の経済事情をシェアするユーザーなどが出現。現在では、本件を介して各国のユーザーが自国の物価や給与について共有しており、なかなか学びのあるスレッドになっている。



ある開発者の意見

なお弊誌は、中小と大手両方の国内メーカーでの勤務を経験し、レベルデザイナーとして現役で活躍している、あるゲーム開発者に本件について意見を訊いてみた。同氏によると、未経験ならば380万円という年収は大手としても妥当とのこと。住宅補助が手厚く、赴任支度金としての初期費用30万円は太っ腹ともコメント。ただし業務経験5年で470万円だとすれば、大手としては少し物足りないとも。理由としては、入社後順調にプロジェクトをこなせば3~4年で戦力になるケースが多いからだという。一方で、業界経験15年で680万円という待遇は妥当に思うと話してくれた。ちなみに、レベルデザイナーという職の専門性については日本ではあまり認知が進んでいないとのこと。なお、この開発者の意見もいち個人の意見のひとつでしかないので、あくまで参考程度に留めておいてほしい。


いずれにせよ、それほど任天堂や『スプラトゥーン3』の求人には注目が集まっているということだろう。同募集は2021年3月15日締め切り。任天堂のそのほかのプロジェクト採用案件としては、『スプラトゥーン3』と同じ京都勤務採用の「新作2Dアクションゲームのレベルデザイナー」が、東京勤務採用として「新作2Dアクションゲームのレベルデザイナー」が募集されている。いずれのプロジェクトも業務経験を問わないということで、門戸を叩いてみるといいだろう。