任天堂のワリオが『マリオカート64』などで叫ぶセリフ「ゾーアイン、ミスト!」は何を意味するのか。国内/海外声優の間で、主張が食い違う


任天堂が1996年に発売した『マリオカート64』。日本版のワリオは、バナナの皮を踏んだりグランプリに敗北した際に「ゾー アイン ミスト!」とこぼす。このセリフは『マリオパーティー』『マリオパーティー2』にも採用されており、聞き覚えのあるユーザーもいることだろう。このセリフの意味をめぐって、食い違いが起こっているようだ。Nintendo Lifeなどが報じている。


『マリオカート64』ではそもそも、日本版と英語版でワリオ役の声優が異なる。英語ではマリオの声でおなじみのCharles Martinet氏が演じている。一方、日本版については実はまた異なる人物が演じていた。ドイツ人のThomas Spindler氏だ。ドイツ出身のSpindler氏は、2年ほど任天堂に務めていた。テキスト監修や翻訳に携わっていたという。その頃、任天堂はキャラボイスを“中の人があてる”という形式をとっており、フランス人翻訳者のJulien Bardakoff氏が”甲高い”ルイージの声を担当し、Spindler氏がワリオの声を演じたわけだ。


その後の作品では、ワリオの声はすべてMartinet氏が担当するようになったものの、日本版『マリオカート64』と『マリオパーティー』『マリオパーティー2』では、Spindler氏の“野太いワリオ”の声を聞くことができ、ちょっとした人気を誇っている。このワリオが失敗したときのセリフ「ゾー アイン ミスト!」は、ドイツ語であると認識されてきた。「So ein Mist!’」。日本語でいうと、くそったれ!といったところだろうか。これはもともとワリオがドイツ人という設定に起因していたのだという。

声を演じたSpindler氏本人も、YouTubeユーザーNovizprimas氏を通じて、こうした説について承認。ワリオはコンセプトレベルではドイツ人であり、実際にドイツ語で「So ein Mist!’」と叫んだという。手塚卓志氏のディレクションにより、京都でこの声を録ったそうだ。


一方で、このセリフは英語で「Oh I missed(D’oh I missed)」と言っているのだと主張する派も存在。「Oh I missed」、つまり「失敗しちまった」といった意味をとることもできる。ドイツ語ではなく英語なのではないかと支持するユーザーもいたわけだ。あくまで劣勢とされる説であるが、最近になり有力視され始めた。というのも、Martinet氏が、英語説が正しいと説明したのだ。きっかけとなったのは、Twitterの投稿だ。任天堂の情報に詳しいライターらが立ち上げた、任天堂のゲームに関わる情報を発信するアカウントMemory Cardが、「『マリオカート64』や『マリオパーティー』にてワリオが叫ぶ言葉は実際ドイツ語である、多くのユーザーが英語だと誤解している」と発信した。

ここにMartinet氏がツッコミ。自分がワリオを演じたひとりであるとし、セリフは正しくは「Doh! I missed」(ドゥ!アイ ミスド)であるとコメント。それ以外には何の意味もないとし、ドイツ語および“くそったれ!”説を否定した。

ワリオの「ゾー アイン ミスト!」のセリフが聞けるのは、日本語版『マリオカート64』『マリオパーティー』『マリオパーティー2』のみ。そしてそれらの声を演じているSpindler氏は、正しくはドイツ語の「So ein Mist!’」であると主張。それに対し英語版『マリオカート64』および以降の『マリオカート』シリーズや『マリオパーティー3』以降でワリオを演じているMartinet氏は、正しくは英語の「Doh! I missed」だと主張。完全な食い違いが起こっている。

この問題を報じたNintendo Lifeは、『マリオカート64』の開発事情を詳しく報じたDidYouKnowGaming?の内容を取り上げ、両者の意見は共に正しいと主張している。DidYouKnowGaming?によると、ワリオはドイツ人という設定があり、日本版『マリオカート64』ではSpindler氏は「So ein Mist!’」と発音していた。海外リリースにおいては、多くのキャラの声優が一新されており、その流れでMartinet氏がワリオの声を担当。しかし、ワリオがドイツ人だという設定が再収録時にはうまく伝わっておらず、マリオと同様にイタリア語アクセントへと変化されたそうだ。

この報道を信じるとすれば、確かにSpindler氏とMartinet氏の主張はともに間違ってないように思える。オリジナルである日本版を演じたSpindler氏は、「So ein Mist!’」と発音。そのコンテクストを知らないMartinet氏は、英語の「Doh! I missed」が正しいと信じている。そう考えれば、食い違いについて納得できるかもしれない。

実はこの「So ein Mist!」もしくは「Doh! I missed」とされるセリフを発したのは、Spindler氏が演じた日本版ワリオのみ。Martinet氏演じるワリオが発したことはない。海外版『マリオカート64』には「So ein Mist/Doh! I missed」のセリフ自体が存在せず、Martinet氏が同セリフを読み上げた記録はない。セリフを発していないMartinet氏が 、なぜ強く英語説を推すことができるのか。そうした部分には、違和感が残るところだ。

Martinet氏はマリオの声優として、『スーパーマリオ64』の「So long, Gay Bowser」と聞こえるセリフについての真実を明かすなど、“マリオ学”の解明に貢献してきた。しかし今回は同氏の一声によって、謎が強まっている。発売から20年以上が経過し、ちょっとした考古学になりつつあるNINTENDO 64のマリオシリーズ。今後もこうした謎が紐解かれることもあれば、あるいはさらに謎が深まることもあるだろう。


国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)