『Little Devil Inside』一部キャラクターに「黒人差別的なデザインが含まれる」として、開発スタジオが謝罪。「ルージュラ問題」の再来か

Image Credit : Lord Balvin

韓国のインディーデベロッパースタジオNeostreamは6月13日、開発中のアクションアドベンチャーRPG『Little Devil Inside』において不適切な表現があったことを謝罪した。問題とされたのは、6月11日に公開されたトレイラーで登場した敵キャラクターのデザインだ。黒い肌に民族的なマスク、ドレッドヘアと大きな唇。こうした特徴がアフリカやアフロ・アメリカンをステレオタイプ的に描いたもので、人種差別的だとする声が上がっているのだ。Neostreamはデザインにあたり「一切の人種差別的意図はございませんでした」としつつ、今回の件で気分を害した人々に謝罪し、キャラクターデザインの変更を約束している。

『Little Devil Inside』は2015年のKickstarterによる資金調達で、30万オーストラリアドル以上を獲得して開発がスタートした作品だ。雇われ冒険家である主人公と、ある大学教授による「外の世界」の探索を描くアドベンチャーとなっており、ポリゴン数の少ない3DCGによるシンプルなグラフィックを特徴としている。こうしたデザインは、あえて引き算したビジュアルによりユーザーの想像力を掻き立てる狙いがあるという。

「ただアークデーモンを殺して世界を救うゲームではありません。雰囲気を感じ取って、非現実な世界のリアルな生活を味わってください」とのコメントが示すとおり、独特の世界観にじっくり浸りながら森林・砂漠・雪山など多彩なフィールドを探検できる意欲作だ。ただしリリースは当初の目標とされていた2016年から大幅に遅れており、映像も昨年12月に公開されたものが最後となっていた(関連記事)。今回はPlayStation 5のショウケースにて久々に新規トレイラーが公開され、待ち望んでいたファンを喜ばせた。ところが同時にその中の描写が非難を浴びることになってしまったのだ。

*6月11日に公開されたトレイラー。問題のキャラクターは0:44ごろ登場。


批判の高まりと、スタジオの謝罪文

きっかけのひとつとなったのは、TwitchストリーマーのLord Balvin氏の指摘だ。同氏はツイートにて「Little Devil Insideにめっちゃ興奮した。それからこの敵キャラのタイプに気づいた。おいおい」と感想を寄せ、件のキャラクターのスクリーンショットを添付。続くツイートでは「無神経なキャラクターデザイン」であると述べ、改めて批判する考えを示した。同ツイートにはBalvin氏に賛意を示すリプライが寄せられ、その中で同じくTwitchストリーマーであるPika Chulita氏もより具体的に問題点を指摘している。彼女によれば「唇やドレッドヘアはステレオタイプ」であり、同時に小柄なキャラクターのサイズを指して「矮人である必要もないはずだ」と述べている。

https://twitter.com/PikaChulita/status/1271501892988919808

こうした批判の高まりに対し、Neostreamは公式Facebookページに謝罪文を公開した。文中では次のように述べられている(改行箇所・注釈は一部編集)。

「各位 昨日のPS5披露イベントショウケースにて公開された特定のキャラクターデザインにつきまして、ここ24時間でいただいた一連のお問い合わせに対しLDIチームは下記の発表をいたします。(『Little Devil Inside』映像内の描写は)いかなる人種差別的ステレオタイプも一切意図されたものではございません。私どもがステレオタイプ的な含意を認識していなかったことによるもので、キャラクターデザインにより気分を害された方々へ謹んでお詫び申し上げます。加えてキャラクターデザインにつきまして、これまで(チームメンバーに限らず)誰ひとりとして言及・暗示したことはございませんでした。しかしながら、これらのキャラクターはイベントに先立って公になったことは一切ございませんでした。

デザインの意図としましては『Little Devil Inside』の世界における、ある神秘的な地域の保護者/守護者であるキャラクターを創ろうとしたことによります。いかなる現実のアフリカンあるいはアフロアメリカン部族についても参照せず、キャラクターのデザインをしております。カラフルな仮面を創り出すことが狙いであり、当チームのデザイナーはあらゆる多彩な文化の仮面をリサーチしておりました。

ゲームにおけるキャラクターとしましては、彼らは集団で行動し、当たると麻痺する吹き矢を使います。キャラクターに仮面のデザインを与えることで命を吹き込みたいと考えていました——ディズニーのモアナにおける小さなカカモラのように。」

*カカモラとは2016年公開のディズニー映画『モアナと伝説の海』に登場するキャラクターで、ペイントが施された鎧をまとう1頭身の海賊。

「しかしながら、私どもの意図にかかわらず、いかなるかたちでも気分を害された方々がいらっしゃれば、心よりお詫びを申し上げます。

現状のキャラクターにつきましては下記の修正を実施いたします。しかしながら、全体としてゲームに適したものではなくなった場合、キャラクターデザインを完全に変更する可能性がございます。1.ドレッドを削除。2.ぶ厚い唇を変更。3.肌の色を変更。4.マリファナを吸っているように見える吹き矢を調整。

加えて、本作はスタジオ初のタイトルであり、いまだ多くの領域で至らぬところがございます。日ごろご支援いただきまして、ありがとうございます!」。

https://www.facebook.com/projectldi/posts/3034969673204804

謝罪文に述べられているとおり、該当キャラクターはスピリチュアルな存在としてデザインしようとの意図で制作されているという。おそらくその象徴として、さまざまな部族で宗教的象徴として用いられるマスクを採用したと思われる。しかし厚い唇などは伝統的に人種差別のアイコンとして受け取られかねない意匠であり、火種となりかねない要素だったようだ。


「キャラクター化された黒人」に対するタブー

Neostreamが批判を受け止め迅速に謝罪を発表した一方、Facebookにはさまざまな反応が見られる。「ゲームを変えないで、お願い」「あなたがたのゲームで、あなたがたの選択ならそれでいいんです」といった擁護寄りの意見から、「一部のソーシャル・ジャスティス・ウォリアーの意見に屈するというなら、私はこのゲームを買わない」といった厳しい声まで、必ずしも変更の方針を肯定的に受け止めないユーザーもいるのが現状だ。またTwitterでは「すべてのステレオタイプが差別なら、マリオだってイタリア人差別にあたるじゃないか」といった懐疑的な声も見られる。

どのレベルのステレオタイプまでが許されるのか、という議論を始めればきりがないが、今回の騒動に関しては黒人差別が背負ってきた歴史の長さが影響していると考えられる。いわゆる「ダーキー/黒んぼ」として、差別的にデフォルメキャラクター化された黒人描写の歴史は根深い。19世紀アメリカで盛んだった芸能では、顔を黒塗りにした役者により「間抜けで粗野な黒人」というテンプレートが形成された。ショーが下火となってからも、19世紀末から20世紀にかけて生産されたカートゥーンでは黒い顔のネタや他民族への風刺がしばしば見られる。50〜60年代におけるアフリカ系アメリカ人公民権運動の成功により、こうした明白な差別的意図をもった描写は今では禁忌とされている。

Image Credit : Wikipedia
カートゥーンにおける黒人描写の一例。ディズニーキャラクター版「アンクル・トムの小屋」のポスターでは、ミッキーが異様に大きなオレンジ色の唇をしている。

このように200年以上の遺恨をもつ「キャラクター化された黒人」へのタブー意識はとりわけ高く、昨今の情勢も鑑みれば今回『Little Devil Inside』のキャラクターが問題視されたことも、うなずけるかもしれない。ちなみに、日本でもあるゲームのキャラクターが黒人差別的であるとして物議を醸したことがある。『ポケットモンスター』シリーズに登場する、黒い肌と厚い唇の人型ポケモン「ルージュラ」だ。

アフリカ系アメリカ人児童作家のCarole Boston Weatherford氏は2000年、Greensboro News & Record紙に批判文を投稿。黒い肌のルージュラは差別的歴史のある黒塗り役者にそっくりな上、太ったドラッグクイーンに瓜二つだとして強く反発を示した。さらには、ルージュラの英語名「Jynx」は“不吉”を意味する「jinx」のもじりであり、「アフリカ宗教にルーツをもつブードゥー教がしばしば西洋社会に嘲られたことに由来しているのではないか」とも指摘している。任天堂はこうした批判を受け、2002年に海外版ルージュラの肌を黒色から紫色に変更。追って日本でも改変が適用されることとなる。海外テレビアニメ版においても、旧カラーのルージュラが登場する回はワーナー・ブラザースによって検閲・オミットされた。マイナーチェンジが施されたのちもルージュラに対する批判はしばしば繰り返され、問題がきわめてセンシティブなものであることがわかる。なお、米国のフェリス州立大学内に設立されたジム・クロウ博物館は人種差別的な工芸品をアーカイブしており、そのリストにはルージュラも登録されている。

Image Credit : jaspermatt

変更前/変更後のルージュラ。このほか露骨に女性性を強調したデザインから、ジェンダー的観点から批判を受けることも。一方でライターのDavid Surman氏は、ルージュラの外見は「ヘタうま」的ユーモアを狙ってデザインされたものではないかと擁護している。

長らくの開発期間を経てようやく新規トレイラーの公開に至った『Little Devil Inside』だが、このたびの反響では困難な局面に出会ったといえそうだ。Neostreamは弊誌の過去インタビュー(関連記事)で独特の美学を語っており、作品世界を構築する上ではきわめて熱意のあるチームだ。今後、より多くのユーザーから納得を得られるかたちでゲームをリリースしてくれることに期待したい。『Little Devil Inside』はPC/PlayStation 4/PlayStation 5/Xbox One/Nintendo Switch向けにリリースが予定されている。