ゲーム審査機関CEROの臨時休業が波紋呼ぶ。では、欧米のレーティング機関は今回の事態でどのような対応をとっているのか?


コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)は4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて政府が発令した緊急事態宣言および東京都からの外出自粛要請を受けて、4月8日から5月6日までのあいだ臨時休業すると発表した。

CEROは、発売前の家庭用ゲームソフトの表現内容について倫理規定にもとづいて審査をおこない、対象年齢区分などを決定している団体であるが、今回の休業によって審査業務を含むすべての業務を休止。Nintendo SwitchやPS4、Xbox Oneといった家庭用ゲーム機向けに日本でゲームをリリースするには、CEROの審査を受けて年齢区分を取得することは事実上必須であるため、今回の突然の休業は業界内に大きな影響を与える結果となっている(関連記事)。

今回のCEROの臨時休業を受けて、弊誌が取材したパブリッシャーは直近のタイトルの調整に迫られるなどの影響を述べていた。また、インディーゲームの販売を多数手がけるフライハイワークスの黄社長は困惑を示し(上のツイート)、賈船は未発表の複数タイトルに影響が出るとコメント。さらにChorus Worldwideも、想定よりも発売が遅れるかもしれないタイトルがあると述べている。会社の規模などの問題で、こうしたコメントをカジュアルには出せないパブリッシャーも、深刻な影響を受けていると考えられる。

先述したように、レーティング審査を経なければ家庭用ゲーム機向けにはタイトルを発売できない。CEROの休業により審査業務がストップしたことで、各社のスケジュールに大きな影響を与えていることが分かる。緊急事態宣言の期限とされた5月6日までに新型コロナウイルスの感染状況に歯止めがかからなければ、宣言は何度でも延長可能で、政府は機動的に運用する方針であるとも伝えられている(日本経済新聞)。もし仮に延長されれば、自ずとCEROも休業を延長することが予想され、業界への影響はさらに甚大なものとなっていくだろう。

*エクスペリエンスのダンジョンRPG『黄泉ヲ裂ク華』の審査はギリギリ間に合った模様

こうしたレーティング審査は各プラットフォームホルダーがメーカーに義務付けているものであり、それは日本以外の国・地域でも変わらない。また、新型コロナウイルスの感染拡大防止に努めているという点でも各国は日本と同じである。では、ほかの審査機関は今どのような対応をとっているのだろうか。

北米地域で販売されるゲームのレーティング審査をおこなっているEntertainment Software Rating Board(ESRB)に、現在どのような体制で審査業務をおこなっているのか弊誌がうかがったところ、ESRBの担当者は、今年3月16日からスタッフは在宅にて業務を続けていると回答。もちろん、新型コロナウイルスの影響を受けた措置とのことだ。大きく環境が変わったと想像されるが、現時点では審査業務に遅れは一切出ておらず、今後も必要である限り在宅にて審査業務を続けていく予定だとしている。

ESRBによるレーティング審査では、メーカーはゲームにどのようなコンテンツが含まれているかなどのアンケートに記入し、関連する場面のゲーム映像をオンラインで送付して審査を申請する。ダウンロード専用ゲームに関しては、ESRBが加盟するレーティング機関International Age Rating Coalition(IARC)のシステムを利用。こちらはアンケートを送付するだけで年齢区分などが発行される、より簡便な審査方法となっている(ESRBは正しい年齢区分か随時検証する)。ESRBの担当者によると、IARCのシステムも昨今の情勢による影響を受けることなく稼働を続けているとのことだ。

また、欧州地域向けゲームのレーティング審査をおこなうPan European Game Information(PEGI)も、先月から在宅にて審査業務をおこなっているという。パンデミックによる業務への影響は、最小限にとどまっているとのこと(GamesIndustry.biz)。PEGIもESRBと同じく、必要な資料の送付とIARCの利用を使い分けてレーティング審査をおこなっている。ちなみに、Xbox One向けダウンロード専用ゲームに関しては日本でもIARCを利用してリリース可能で、CERO休業の影響は受けないと考えられる(関連記事)。
【UPDATE 2020/4/9 20:45】
弊誌からの問い合わせに対してPEGIは、現在の(新型コロナウイルスに関する)状況が欧州中に拡大し始めた数週間前に、日常業務を在宅にておこなう方法をすぐに確立していたことを明らかにした。また、PEGIはベルギー・ブリュッセルに本部を置くほか、イギリスとオランダにもオフィスを置き連携して業務をおこなっている。そうした意味では、従来からリモートワークに取り組んできたと言えるが、現在はオフィスの代わりに住居に場所を移して業務を続けているそうだ。PEGIは、こうした業務環境の変更は関係各社に通知済みで、地元当局による状況の評価が変わるまでは在宅勤務を継続するとのことである。

世界には、先に挙げたESRBやPEGIのほかにもレーティング機関は存在するが、大部分の地域をカバーするESRBとPEGIが3月からすでに在宅での審査業務に切り替えていながら、これまで特に目立った影響が聞かれなかったということは、注目に値するだろう。すなわち、審査を依頼するメーカーへの影響は出ていない、あるいはわずかであると見ることができそうだ。

一方で、CEROは今回の発表の中で、外部審査員が事務所に来訪して審査をおこなう方式のため、在宅での審査業務はできないと明言。審査資料の郵便や宅配便での送付も、事務局を閉鎖するため受け取れないとしている。確かに、こうした仕組みである以上は休業はやむを得ないのかもしれない。

ただ諸外国では、この危機的な状況においても、在宅でのレーティング審査を滞りなく進めている。機密性の高い資料の持ち出しには懸念がありそうだが、それもクリアしているということだろう。運営体制がそれぞれ異なる各機関を一律に論じることはできないかもしれないが、ゲーム業界への影響の大きさがあらわとなった今回の一件を機に、CEROには審査業務体制の改善が求められそうだ。