PS5のスペックに関する新情報が、テック系メディアより公開。プロセッサの挙動や、SSDのゲームプレイ上の恩恵など


ソニー・インタラクティブエンタテインメントは3月19日、「プレイステーション 5(PS5)」の技術解説動画を公開。PS5のリードシステムアーキテクトを務めるマーク・サーニー氏が、PS5のシステム設計について解説をおこなった。テック系ゲームメディアDigital Foundryは、この数日前にサーニー氏から直接プレゼンテーションを受ける機会があったそうで、そこで得られた情報について4月2日に公開した。

内容としては、可変クロック周波数を採用するCPU/GPU・CPU視点での後方互換機能・SSDの利点・3Dオーディオを支えるTempestエンジン・3Dオーディオの利用環境に分けられ、サーニー氏の技術解説動画を補強するものとなる。まずはPS5のスペックを確認しておこう(関連記事)。

CPU:x86-64-AMD Ryzen “Zen 2” 8コア/16スレッド、周波数最大3.5GHzまで可変
GPU:AMD Radeon RDNA 2-based graphics engine、レイトレーシング アクセラレーション、周波数最大2.23GHzまで可変(10.28 TFLOPS)
システムメモリ:16GB GDDR6/256-bit、バンド幅 448GB/s
ストレージ:Custom 825GB SSD、読み込み速度 5.5GB/s (Raw)
拡張ストレージ:NVMe SSD Slot
外部ストレージ:USB HDD Support
PS5ゲームディスク:UHD HD Blu-ray (100GBまで)
映像出力:4K 120Hz TV、8K TV、VRR対応(HDMI2.1規格による)
オーディオ:Tempest 3Dオーディオ技術

 

PS5のスペック表にてまず目を引くのが、CPUとGPUの動作クロックについて共に可変であるとしている点だ。従来のコンソール機では固定とされていたが、PS5ではCPU/GPU/メモリインターフェースのアクティビティを常に評価しながらクロック周波数を調整するという。それらのダイの温度に応じて可変させることも可能だが、その場合はPS5を設置した場所の気温や、PS5のほかのチップの温度の影響を受ける可能性があり、ユーザーごとのパフォーマンスにばらつきが出てしまう。

一方でPS5では、プロセッサがどのように動作するのかをシミュレーションし、すべてのPS5本体に一貫性を持たせるModel SoCと呼ばれる手法を導入し、上述したようにクロック周波数を調整。これにより、同じゲームの同じ場面をプレイしたユーザーは、PS5をオーディオラックに置こうが冷蔵庫に入れていようが、みな同じCPU/GPUクロック周波数にて動作するとのこと。また、消費電力および発熱量の不透明さも解消され、冷却システムの構築がより容易になったそうだ。PS5の冷却性能に関する詳細は今後発表予定。

CPU/GPUが、そのアクティビティにマッチするクロック周波数に達する時間は開発者にとって重要なことだとサーニー氏は述べる。PS5ではその時間は極めて短く、たとえば数フレームに大きなパワーを発揮し、すぐに減速させることが可能。余分なパワーを数秒、数分と残してしまうのは開発者が望むところではなく、そうしたラグが発生しないよう非常にレスポンスの高い設計をおこなったそうだ。

PS5はAMDのSmartShiftを利用可能で、この点についてもあらためて触れられている。SmartShiftとは、たとえばGPUの負荷が高く一方でCPUに余力がある場合には、CPUのクロック周波数を下げて浮いた消費電力をGPUに融通するという技術だ。これによりPS5は、最大クロック周波数で動作するに十分なパワーを持つことになる。なお、仮に消費電力を10%削減した場合、クロック周波数の引き下げは数%程度とのこと。

こうした状況においては、サーニー氏が「race to idle」と呼ぶ現象が存在するという。余力を確認した際には、通常はクロック周波数を引き上げて現在の処理をより早くおこなうよう命令が飛び、結果的にさらに多くのアイドル状態を生むことになる。ただ、これでは意味のないクロック周波数の引き上げとなるため、PS5ではそうした現象を除外し、すべてのフレームにおいて生産的に使用され、CPUとGPUがほとんどの時間を最大クロック周波数にて動作することができるような可変クロック周波数システムを構築しているとのこと。これは、CPUとGPUの熱的密度いわゆるホットスポットが重なる周波数のセットを見つけたことで実現できたそうだ。

PS5では、前世代機のロジックとの差分を取り入れたチップセットをGPUに搭載し、PS4およびPS4 Proタイトルをレガシーモードとして動作させることで後方互換を実現する予定。サーニー氏によると、CPUについても前世代のJaguar向けに制作されたロジックが、PS5にて採用するZen 2でも正しく動作するよう取り組んでいるという。ただ、命令の実行タイミングが大きく異なる場合があったため、AMDと協力してPS5用のZen 2コアをカスタマイズする必要があったそうだ。後方互換作業においては、こうした点に留意しながら進めているとのこと。

なお後方互換機能については、PS4においてもっともプレイ時間の長い上位100タイトルはPS5にてスムーズに動作することが報告されている。SIEは、数百本のPS4ゲームについて後方互換の検証テストを実施済みで、最終的には4000タイトル以上発売されたPS4ゲームの大部分がPS5でプレイ可能になるだろうとしている。またPS5のスペックを活かして、より高く安定したフレームレートで動作できるそうだ(関連記事)。

内蔵ストレージにカスタムSSDを採用する点について、サーニー氏はまず従来のHDDでの経験を語る。同氏はプロデューサーとして『Marvel’s Spider-Man』や『デス・ストランディング』などに携わった経験もあり、クリエイティブ面と同時に技術的な問題にも触れる中で多くの知見を蓄積してきたという。例として、敵が死に際に何かを叫ぶとした場合、その音声をほかの処理に割り込む形で即座に要求することになるが、HDDではそれらのデータを取り戻すのに250ミリ秒はかかってしまう。こうした場面は多く発生するため、結局RAMに多くのデータを格納して対応してきた。

また、HDDは物理的に磁気ヘッドを動かしてプラッタのデータを読み取る仕組みであるため、同じデータをさまざまな場所に複製してロードのパフォーマンスを引き上げている。HDDの容量を犠牲にしているとも言えるだろう。複製をおこなわない場合では、毎秒50〜100MBを目標としているところ、毎秒8MBにまで落ち込むケースがあったという。『Marvel’s Spider-Man』を手がけたInsomniac Gamesでは、400回以上使用するアセットはRAMに格納するルールを設けていたそうで、パフォーマンスとHDDおよびRAMの容量の間でバランスを取りながらゲーム開発がおこなわれてきたようだ。

そして、PS5では高速なSSDを採用することで、“使うかもしれないデータ”をRAMにキャッシュしておく代わりに、必要に応じて直接読み出すことが可能となる。また、データを複製配置するテクニックも必要なくなるためインストールサイズも削減できる。『Marvel’s Spider-Man』では、先述したルールがなければゴミ袋のアセット(1.6MB)を600ある街の区画分だけ複製するところだったが、PS5の仕様ならSSDにひとつ格納するだけで済む。

マーク・サーニー氏の技術解説動画にて多くの時間が費やされた3Dオーディオについて。動画では、これに利用されるHRTF(頭部伝達関数)についての解説があったが、よりシンプルな概念としてILD(Interaural Level Difference)とITD(Interaural Time Delay)が挙げられた。ILDは両耳に届く音の強さの違いのことで、たとえば音源が右側にある場合は、左耳に届く低周波は少なく、高周波はさらに少なくなる。これは、音は頭部を回り込むわけではなく反射して伝わることと、各周波数の特性を表しており、音源の位置によってILDは変化する。そしてITDは、音が左右それぞれの耳に届くまでの時間差のこと。真正面に音源があればITDはゼロである。HRTFを用いたPS5の3Dオーディオアルゴリズムは、これらの概念を内包しながら、さらなる要素を取り入れているとのこと。

3DオーディオはPS VRにも採用されていたが、PS5ではTempestエンジンを搭載することで、上記アルゴリズムによるより高精度でクリーンそしてリアルかつ説得力のあるサウンドを実現できるという。通常GPUではWavefrontという単位で数千もの処理をおこなうが、Tempestエンジンでは2Wavefrontをサポート。ひとつは3Dオーディオおよびほかのシステム機能を、もうひとつはゲーム用に割り当てられており、帯域幅としては毎秒20GBとのこと。DMAにてデータのやり取りはCPUを介さず直接おこなう。またGPUとは異なるモデルを採用。GPUはキャッシュラインが埋まるまでストールするなどの特徴もあり、VALU利用率が40%であれば良いとされているところ、Tempestエンジンでは主要なコードにおいて100%の利用率を目指しているそうだ。

サーニー氏は、たとえばゲーム内の特定のシーンにて、重要なサウンドが理想的な位置情報を得て、一方ほかの多くのサウンドは3DサウンドフォーマットAmbisonicsを活用するような、ハイブリッドなアプローチによるゲームオーディオ戦略を描きつつあるところだと述べる。また、これらのサウンドは共に最終的には同じHRTFプロセスを踏むため、素晴らしい臨場感を得られるとしている。

PS5のローンチ時点では、ヘッドホンを使用した際にベストのバーチャルサラウンド体験を得られる。一方、テレビのスピーカーや5.1/7.1chサラウンドシステムの場合はプレイヤーがスイートスポットにいる必要がある。ソファーに2人が座って協力プレイする場合には、どちらかがスイートスポットから外れることもあるだろう。ヘッドホンとは異なり右から鳴った音を左耳でも聴くことになるため、ステレオはもちろん、5.1/7.1chサラウンドになるとかなり複雑になるという。

PS5にはローンチ時点で、テレビおよびステレオスピーカー用の基本的なバーチャルサラウンドを実装するものの、プレイヤーの環境はさまざまであるため、開発チームは改善を続けていくとのこと。サーニー氏は、まずは2ch(ステレオ)向けの解決策に取り組み、それから5.1/7.1chサラウンドに移行したいとしている。なお、バーチャルサラウンド機能はオフにすることも可能。オンにした際は先述したHRTFを用いたアルゴリズムを通して再生される。また、また開発者がTempestエンジンにて6個もしくは8個のスピーカーをサポートする場合は、ゲームコードはスピーカーのセットアップを認識するため、特別なサポートを導入することが可能とのこと。

PS5は、2020年の年末商戦期に発売予定だ。