王国運営RPG『Yes, Your Grace』は、どのようにSteamにて2日で6200万円を売り上げたか。秘訣は「ウィッシュリスト登録」などにあり


パブリッシャーのNo More Robotsは3月7日、『Yes, Your Grace』をSteamにて発売した。本作は、イギリスのインディースタジオBrave At Nightが手がけた王国運営RPG。中世のファンタジー世界の国王となったプレイヤーが、国民のさまざまな請願について、また王家の家族の問題などについて、限りあるリソースや国が置かれた状況などを勘案しながら、判断を繰り返し物語を進めていく作品だ。

本作は、中世を舞台にした物語と選択ベースのゲームプレイ、またシリアスさとコメディのバランスの良さなどが評価され、レビュー集積サイトMetacriticにてメタスコア78を獲得。Steamのユーザーレビューも「非常に好評」となっており、評判は上々のようだ。No More Robotsの代表Mike Rose氏によると、本作はこの週末だけで60万ドル(約6230万円)の収益を記録したという。Steam側の取り分なども加味してざっと計算すると4万5000本前後だろうか。同氏は、このペースだと初年の売り上げは25万本程度になりそうだと述べる。そして、この成功には多くの要素が絡んでいるとした上で、留意すべきいくつかの要素を、今後Steamでのリリースを計画している開発者向けにアドバイスしている。

https://twitter.com/RaveofRavendale/status/1237030867563876355

この中でRose氏は、特にウィッシュリスト登録を集めることを推奨している。Steamユーザーは、個別のゲームについてウィッシュリストに追加しておくことで、発売時やセール時に通知を受け取ることができる。一方の開発者としては、自らのゲームがリリースされたことをゲーマーに直接伝えることができる手段。Rose氏はウィッシュリストについて、ゲームを成功させるにあたってもっとも大きな要素のひとつであることは間違い無いと断言している。

Yes, Your Grace』では、発売時点で8万件のウィッシュリスト登録を得ていたそうだ。そして、その大部分は「発表時に素晴らしいトレイラーを用意した」こと、「オープンベータテストを実施した」こと、「素晴らしいキーアートを用意した」ことの3つの行動により登録されたという。ベータテスト実施中には、ウィッシュリスト登録が3万件増えたとのこと。

ベータテストの実施に関してRose氏は、自身の作品のコミュニティを構築するという観点でも推奨している。同氏が2019年にGDCでおこなった講演では、Steamにベータテスト用のページを別に設けることや、週末を狙って実施すること、Discordにてバグ報告を寄せてもらうことを提唱。また、メールマーケティングソフト「Mailchimp」を使えばコード配布が容易であることや、フィードバックの整理にGoogleフォームを利用することも勧めている。そして、ベータテスト参加者にウィッシュリスト登録をお願いすることも、やはり重要なポイントだとしている。

先に挙げた“素晴らしい(great)”トレイラーやキーアートというのは曖昧な表現だが、発表時の第一印象や、ストア上でたまたま目にしたゲーマーの興味を引くことが大事だということだろう。『Yes, Your Grace』のキーアートはイラストレーターのLesly Oh氏が担当。Mike Rose氏は、その出来栄えによって多くのクリックを得ることができたとし、今後の作品のキーアートについて真剣に考えるきっかけになったと述べている。

またRose氏は、ちょうどドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の完結と本作の発表時期が重なったこともあってか、ゲーマーは本作の「中世とその城」にも惹きつけられたようだと推測。そうした幸運も、作品の成功に繋がるものであるとしている。また、YouTuberにベータ版をプレイしてもらうことなども、運が良い方向に転がり得るとのこと。

そのほか、ゲームのローカライズも成功に結びつくとしている。『Yes, Your Grace』では英語以外に、簡体中国語・フランス語・ドイツ語・ロシア語・ポーランド語をサポートし、これらの言語を使う国での売り上げが明らかに上位に来ているそうだ。ちなみに米国での売り上げは全体の27パーセントだったため、Rose氏はローカライズをしなければ売り上げは3分の1になっていただろうとコメントしている。ただ、本作のドイツ語など一部のローカライズについては、そのクオリティの低さが指摘されており、開発元は現在その対応に追われているようだ。

今回Mike Rose氏が主に挙げたウィッシュリスト登録の重要性については、『Desert Child』や『Mutazione』などを手掛けるパブリッシャーAkupara Gamesも説いている。その中では、Steamページをなるべく早い時期に開設しておくことや、公式サイトにSteamのStoreウィジェットを埋め込んでおくことを推奨。また自らのコミュニティだけでなく、ほかの開発者やコミュニティに作品を紹介する努力も必要だとしている。さらに、何らかのプロモーションやセールをおこなった後のデータは、どういったコミュニケーションがウィッシュリスト登録や売り上げに結びつくのか参考になるとのことだ。

ウィッシュリストは、多く登録されることでSteamのアルゴリズムによって“トレンド”の作品であるとして、ストアの目立つ場所に掲載されるきっかけにもなるという。Valveは2018年のGDCにて、まずは5万件の登録を目指すべきだと述べる(Gamasutra)。そのためには上に挙げた要素のほかにも、スタジオの歴史からくる信頼や、それによって構築されるコミュニティ、そして作品そのものの魅力なども重要になってくるだろう。また、今回のように知見を共有することも、ひいては作品のアピールに繋がることになるのかもしれない。

【UPDATE 2020/3/12 21:10】
『Yes, Your Grace』は現在日本語には対応していない。この点についてNo More Robotsの代表Mike Rose氏に弊誌が伺ったところ、本作のローンチに向けて日本語化作業を進めていたが、発売1週間前になって突然翻訳者と連絡がつかなくなり、メールを送っても返信がない状態が続いてるという。現時点で、本作が日本語未対応なのはそのせいのようだ。Rose氏は、日本のゲーマーに本作を届けたい気持ちは依然として持っており、現在新たな翻訳者を探しているとのことである。日本語でプレイできないために本作を見送っていた方は、ウィッシュリスト登録をして気長に待つと良さそうだ。