ドイツにてゲーム内でのナチス表現が解禁へ。業界団体は「ゲームが芸術作品であると認められた重要な一歩」と評価

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ドイツのゲームレーティング団体USKは8月9日、ゲームの年齢区分審査における慣行のひとつを将来的に変更すると発表した。これまで、同国の法律に違反する組織をゲーム内で表現している場合は、禁止表現として年齢区分を与えることを拒否してきたが、一転して認めようというものである。この法律違反の組織について、発表では具体的に触れられてはいないが、代表的なもので言えばアドルフ・ヒトラーが率いたナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)が挙げられる。

 

ドイツ国内では禁じられていた

ドイツでは、ナチスは連邦憲法裁判所により違憲政党に認定されており、ナチスの旗や制服、敬礼など象徴となるものを頒布・宣伝することを刑法86条にて禁じている(刑法においては、ナチスを名指ししているわけではない)。違反すると3年以下の懲役、または罰金となる。ただし例外として、芸術や科学、あるいは過去に起きた実際の出来事を描くうえにおいては、それらを表現することを認めている。今回のUSKの発表も、この例外規定に則る限りにおいて、ゲーム内での表現を認めるという内容になっている。ただし、その判断はケースバイケースでおこなうとのこと。要件を満たすゲーム内容になっているかを確認する必要があるということだろう。

ゲームにおいて第二次世界大戦は人気のある題材のひとつであり、その中ではナチス・ドイツが描かれることも多い。しかし上述した法律により、ドイツ国内で販売されるバージョンでは、古くからナチスの象徴となる表現は削除・修正されてきた。象徴的な例としては、Bethesda Softworksの『Wolfenstein』シリーズが挙げられる。同シリーズでは、ナチスは不変の敵として登場し、昨年発売された最新作『Wolfenstein II: The New Colossus』では、ナチス・ドイツがアメリカをも占領し支配下に置くifの世界が描かれた。各国で発売されるバージョンでは、ナチスの象徴である鉤十字(ハーケンクロイツ)があらゆる場面に登場する一方、ドイツ版では別の紋章に置き換えられている。

また、『Wolfenstein II: The New Colossus』に登場した老いたアドルフ・ヒトラーは、ドイツ版では特徴的な口髭が削除される措置も取られている。Bethesdaは同作の発表トレイラーの概要欄にて、無修正版をドイツ国内に持ち込んで販売・流通させることは法律によって禁じられているとわざわざ警告を記しており、ドイツにおいてナチスの表現はいかに慎重に取り扱うべきものであるかがうかがえる。

ほかにも、歴史シミュレーションゲーム『Hearts of Iron IV』のドイツ版では、ヒトラーなどナチスに関連するものは黒いシルエットに変更され、イベントでのスピーチの内容も調整されている。『PAYDAY 2』の精神的続編として制作されたFPS『RAID: World War II』のドイツ版では、実写のカットシーンに登場するヒトラーの髭のスタイルや着ている制服、そしてナチス式敬礼を別のものに変更して対応していた。また、ドイツ版に限定した話ではないが、『フォートナイト』にて建築に使用するパネルが、組み合わせによって鉤十字のような模様が現れるテクスチャになっていたことが判明して修正された例もある(Eurogamer)。

ナチス・ドイツ占領下のチェコスロバキアを、史実と生存者の証言に基づいて描いたアドベンチャーゲーム『Attentat 1942』は、ドイツでの販売が差し止められている。ちなみに、同作はドイツ国内で賞を受賞している

 

芸術としてゲームを評価

ドイツ版のゲームではこのように、ナチスやヒトラーに関連する描写を修正してきた歴史があるなか、なぜ今回、条件付きとはいえ解禁しようという動きになったのか。それは、ゲームに対する人々の受け止め方が変わってきたからかもしれない。そもそもドイツでは、映画などほかのメディアにてナチスや鉤十字が描かれることは問題になっておらず、それは芸術作品であると認められているからである。USKの幹部Elisabeth Secker氏は、時事問題を批評するゲームには年齢区分を付与するとし、ゲームも芸術表現の自由を手にする時が来たと語っている。また、ドイツの青少年保護法の解釈変更が、今回の決定につながったとも述べている。

ドイツ公共放送連盟ARDと公共放送局ZDFは、共同制作するインターネット番組「funk」の企画を通じて『Bundesfighter II Turbo』というドイツの政治家同士が闘うブラウザゲームを制作したが、その中では極右政党AfDの副党首Alexander Gauland氏が手足を曲げて鉤十字の格好をする技がある。同作については今年5月、検察庁が告訴を受けて調査した結果、芸術作品であり法律を犯していないという判断が下され、ゲームにおいては初めての事例だとしてドイツにて報じられている(PlayNation)。この件が今回のUSKの発表に直接関連しているのかどうかは分からないが、この頃から環境は整いつつあったようだ。

今回の発表はBethesdaにとって寝耳に水だったようだ。同社のマーケティング部門を統括するPete Hines氏は、この発表が具体的に何を意味するのか精査する時間が欲しいとし、無修正版の『Wolfenstein』シリーズを今後ドイツで販売するかどうかについては、まだ何も言えないと反応している。ナチスの扱いについては、ドイツだけでなくたとえばオーストリアでも法律によって規制されており、ゲームも修正が施されて販売されているため、ドイツで解禁となっても修正版を制作する必要があることには変わりはない。また、実際にドイツで無修正版を販売した際に、どのような反響が予想されるのかなど慎重に調査する必要があるだろう。『Wolfenstein』シリーズについては、続編である『Wolfenstein: Youngblood』や、VR作品『Wolfenstein: Cyberpilot』が発表されており、これらのドイツ版には注目が集まりそうだ。

今回の決定は、規制の緩和と、ゲームが持つ芸術性というふたつの面で、ドイツにおいて大きなターニングポイントとなるようだ。ドイツのゲーム業界団体gameは、ゲームがほかのメディアと同等に扱われるよう長年キャンペーンをおこなってきたこともあり、USKがおこなった今回の決定について、ドイツのゲームにとって重要な一歩であると歓迎する旨を表明している。一方で、ドイツのゲーム業界は、人種差別主義や反ユダヤ主義に向かう傾向があると懸念されることもあるため、憲法に定められた価値観に則り、オープンで受容性のある社会、そしてドイツが持つ歴史的責任に真摯に向き合っていくとも述べている。またUSKも発表にて、青少年保護の観点から、細心の注意を払って責任を果たしていくとしている。

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